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2017.09.21

歯磨きの平均は60点!?歯科医が教える100点のセルフケア【歯の健康特集③】

KenCoM公式ライター:桶谷仁志

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前回は、歯周病と生活習慣病との間の負のスパイラル関係を紹介した。リスクを知った上で、歯周病を予防・治療すれば、全身の健康への意識も高まるはず。生活習慣病の改善、脱メタボにもつながることになって一石二鳥、三鳥の効果が期待できる。虫歯も含めて歯周病予防において、最も大事なのは自分の歯に合った歯磨き(ブラッシング)技術の練磨だ。

今回は「ブラッシング指導を受けていない人における歯磨きの平均点は60点ぐらい」と話す、小川智久准教授(日本歯科大学附属病院総合診療科)に歯磨きを100点にするためのコツを教えていただいた。

小川智久(おがわ・ともひさ)先生

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日本歯科大学附属病院 総合診療科 准教授

【略歴】
平成 9 年 日本歯科大学歯学部大学院歯学研究科臨床系 卒業
平成10年 日本歯科大学歯学部  歯周病学教室助手
平成14年 日本歯科大学歯学部  歯周病学講座講師
平成17年 日本歯科大学附属病院 総合診療科講師、歯科人間ドックセンター長
平成21年 日本歯科大学附属病院 心療歯科診療センター長
平成24年 日本歯科大学附属病院 総合診療科准教授、総合診療科2科長
平成29年 日本歯科大学附属病院 医療連携室室長
所属学会:日本歯周病学会(研修委員)、日本歯科保存学会、日本歯科教育学会、日本健康医療学会(常任幹事)、日本歯科衛生学会(編集委員、倫理委員)、日本歯科人間ドック学会(常任理事:認定制度委員会委員長、編集委員会副委員長)ほか

強い口臭は歯周病のサインかもしれない

――歯周病の自覚症状の中で、初期の歯肉炎の段階で起こるのが出血だ。1970年代に登場した「リンゴをかじると血が出ませんか?」という言葉は、今の30代~50代も肝に銘じるべき名フレーズである。そして、多くの人が気になる口臭もチェックポイントだ。

口の中に関するアンケートを取ると、全体の60%ぐらいの人が虫歯や歯周病、歯石などを気にしていることが分かります。これらと同じレベルの悩みが口臭です。ただし、アンケートでは「気にしている」と答えながら、医師に相談してくるのは100人に1人か2人くらいなので、恥ずかしくて人に聞けないのが実情でしょう。

口臭には日内変動や外的ストレスなども関係するため、一概には言えませんが周囲から指摘されるほど口臭が強い人は歯周病を疑ってください。胃などの内臓由来もあると言いますが、内臓が原因の場合はよほど悪化したケースです。

――となると、口臭が少しでも気になるなら、勇気を出して、家族に聞いてみるのが治療に踏み出す第一歩。以前、小川先生の外来を受診した患者も、家族から口臭を指摘されたことがきっかけで、来院したという。

その患者さんは虫歯とは無縁だったそうで、歯が良いと思っていたそうです。ところが、最近になって歯茎が赤くなってきて、家族からは口臭がきついと言われて来院しました。検査してみると、歯周病が進行していることが分かりました。

さらに調べてみると、糖尿病の程度を示すHbA1cが8%を超えて糖尿病の疑いがあった上に、血圧もかなり高かったのです。その後、通院してもらって歯ブラシのブラッシングの指導を受ける間に、その方は健康に目覚めてダイエットもされたそうです。するとブラッシングも上手くなって口の中が良好な状態になり、連れられるように血糖値や血圧も改善されたのです。

この症例から私が実感したのは、健康に目覚めるきっかけが、糖尿病や高血圧だけではなく、歯周病であってもいいのではないかということです。

デンタルフロスや歯間ブラシなどを使って100点のケアをしよう

――歯科医に通って、ある程度時間をかけて学ぶべきなのはブラッシング技術だ。小川先生の見立てだと、歯科を受診する患者のほとんどは歯が「磨けていない」レベルで、点数をつけるなら平均で60点前後だという。

歯磨きをしていない人なんていませんが、「磨く」のと「磨けている」のでは全然違います。人間の歯は模型のようにきれいに並んでいるわけではありません。歯並びの悪い部分があったり、歯間が広かったりと人によって違います。

例えば、歯が重なっているところは、磨きにくいのでプラークが付着しがちです。また、右利きの人は磨き癖から、右奥側に磨き残しがあったりします。そうした自身のブラッシングの弱点を理解し、できるだけ磨き残しを少なくする必要があります。

とはいえ自分自身では、ブラッシングのクセは分かりづらい。そのため、定期的にかかりつけの歯科医から、自分の不得意な部分や悪い部分を指摘してもらうのが最も効率の良い歯磨き学習法です。

――歯ブラシだけではなく、歯間ブラシやフロスも併用すれば、より技術的な精度が高まり、ブラッシングの点数も100点に近づく。

普通の歯ブラシだけでも頑張れば70~80点までは行きますが、100点まではなかなか到達できません。そこで、歯間ブラシやデンタルフロスを併用すれば100点を目指せます。歯間ブラシの使い方は、歯と歯の間でしっかりと出し入れして、プラークをかき出すのが基本です。歯のわずかな隙間に歯間ブラシを入れることで、普通の歯ブラシの毛先では届かない場所のプラークを取ることができます。

子供や健康な人は、歯間が狭いので、デンタルフロスを使うといいでしょう。使い始めは出血することもありますが、健康な人であれば3日ほどで歯肉が引き締まって止まるはずです。何日も続くようであれば歯科医に診てもらってください。

――普通の歯ブラシと電動歯ブラシの比較実験をしたことがあるという。2分間と時間を区切って、両者を比較したところ、電動の方が磨き残しは少なかった。しかし、時間を制限しなければ通常の歯ブラシに軍配があがった。

電動歯ブラシは便利な道具ですが、使い方にコツがあります。1つの歯に3秒くらい「当てる」ように使いましょう。普通の歯ブラシのように、「磨く」意識でゴシゴシと動かすのは逆効果です。歯にしっかりと合っていれば、ブラシが自動で歯垢を取ってくれます。さらに高得点を目指すなら、電動歯ブラシを使う場合でも、1日1回は普通の歯ブラシで磨いて小回りを利かせたほうがブラッシングの点数はあがります。

普通の歯ブラシは細かい汚れを取ることが可能なので、じっくり時間をかけてブラッシングする方には有効です。

喫煙はリスク最悪。総点検には歯科ドックの活用も

――歯周病の予防にはリスクファクターを認識しよう。そうすれば全身に関わるリスクファクターにも目が向き、自然と生活習慣の改善に向かうはずだ。

歯周病にとって喫煙は最悪のリスクファクターです。ニコチン、タール、一酸化炭素といった有害物質が、歯茎に直接作用します。その影響でよく見られるのは、喫煙者の歯茎が黒くなるメラニン色素沈着です。それ以外に、歯茎の血流不足も重大な問題となります。歯茎の血流が少なくなれば、栄養がいきわたらなくなり、さらに免疫機能も下がり、歯周病のリスクが高まります。

また、歯茎からの出血も少なくなって歯周病の発見が遅れてしまい、気がついたときには悪化していることがよくあります。喫煙者のレントゲンを撮ってみると、「こんなはずでは…」というぐらい歯槽骨が溶けている場合もあります。

他にも「不良習癖」を認識することも重要です。これは舌で歯を押したり、口をぽかんと開けたりするクセのこと。口を開けると歯茎が乾くため、唾液が行き渡らず、清掃不良になって歯茎が腫れたりします。診察時に「なぜこの人は前歯だけ悪いんだろう」と思って聞いてみたら、こうした癖を持つ患者さんがいたこともあります。

――飲酒やストレスもリスクファクターに上げられている。

飲酒が歯周病のリスクであるという研究報告があります。さらに、お酒を飲むと歯を磨かずに寝てしまうことが多いと思います。そのタイミングで、歯磨き習慣が崩れて歯周病リスクが高まります。また、ストレスや疲労で免疫力が下がると、歯周病菌に対する抵抗力が落ちます。健康なときは、悪い菌に対して体の抵抗力が勝っている。しかし、仕事のストレスが強かったり、体力が落ちることにより、歯周病菌が局所的に勝って、歯周病が進行することがあります。

昔から、妊娠中には虫歯や歯周病が悪くなるというのも、全身状態に影響する例のひとつです。

――歯科ドックの活用は、歯の2大疾患だけでなく口腔がんなどの予防にもなる。

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日本歯科ドック学会では今年20周年を迎えました。学会認定の専門医は今のところ約600人で、学会認定施設は全国に20数施設あります。歯科ドックは、口中のがんなども含めて、口の中を総点検するための検査です。所要時間は1時間半ぐらい。健康調査票に始まり全身所見、口腔外検査(唾液検査、顔貌の視診、唾液腺・リンパ節の触診、顎関節症関連の検査)、口腔内検査(口腔粘膜検査、パノラマエックス線検査、う蝕検査、歯周病検査、咬合検査)などを実施して1万円程度です。※オプションで歯周病や虫歯の細菌検査、専用機器を用いた口腔がん検査も1万円で追加が可能。

この検査では保険は適用されませんが、より詳細に自分の口腔内の状況を調べておきたいと思ったら歯科ドックも活用してみてください。

毎日の歯磨きが歯の健康を左右する

すべての人にとって、歯磨きは毎日の生活に組み込まれているはず。それでも虫歯や歯周病を防ぐことができないのは、100点の歯磨きができていないと考えるべきだろう。最後に小川先生から歯を健康に保つためにアドバイスをいただいた。

「歯を磨くという簡単なことですが、毎日実践するのは意外と難しいものです。いつも正しく磨けていると思っていても、私たち歯科医から見ると磨けてない所が必ずあります。その磨き方を続けていれば、同じところを磨き残しているため、自然と詰めが甘くなる箇所が出てきます。私たち歯科医だって虫歯になりますからね。例えばアメリカでは歯の健康課題を解決するために、『フロス・オア・ダイ』なんてキャッチコピーを使っていたんですよ。予防と早期発見のあわせ技で、歯をしっかり残す習慣をつくりましょう」。

「歯の健康特集」バックナンバー

取材協力

<著者プロフィール>

■桶谷 仁志(おけたに・ひとし)
1956年北海道生まれ。早稲田大学卒。20代半ばからトラベルライターとして国内のほぼ全県と海外30数カ国に取材し、雑誌、新聞等に寄稿。2000年には副編集長として食のトレンド雑誌「ARIgATT」を企画、創刊。03年から雑誌「日経マスターズ」(日経BP社)で最新医療を紹介する「医療最前線」を約3年間、連載。日経BPネット「21世紀医療フォーラム」編集長も務める。現在は食、IT、医療関連の取材を幅広く手がける。著書に『MMガイド台湾』(昭文社)『パパ・サヴァイバル』(風雅書房)『街物語 パリ』(JTB)『乾杯! クラフトビール』(メディアパル)など。

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