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2017.07.17

100km「ウルトラマラソン」が爆発人気の理由|エントリー開始たった30分で定員に到達!

東洋経済オンライン

近年、ウルトラマラソンの人気が急上昇している(写真:ChrisVanLennepPhoto / PIXTA)

参照元:http://toyokeizai.net/articles/-/180524?utm_source=deschl&utm_medium=http&utm_campaign=link_back&utm_content=article

近年、ウルトラマラソンの人気が急上昇している(写真:ChrisVanLennepPhoto / PIXTA)

日本テレビのチャリティ番組「24時間テレビ 愛は地球を救う」が今年も8月26~27日に放送される。しかし、その看板企画である「24時間マラソン」の挑戦者が、まだ発表されていない。例年は5月下旬から6月上旬には“指名”されているだけに、さまざまな憶測が飛び交っている。

筆者は無理やり人を走らせるような企画がこれだけ世間の注目を集めていることに違和感でいっぱいだったが、日本テレビもようやく気づいたのかもしれない。フルマラソン以上の距離を走る「ウルトラマラソン」の人気が近年、急上昇しており、特別な企画ではないことを。そこで今回は知られざるウルトラマラソン(以下、ウルトラ)の魅力と実情についてお教えしたいと思う。

ウルトラとはフル(42.195km)を超える距離のロードレースのこと。100kmが定番で、それ以上の距離を走るレースもある。現在は国内で年間、150大会ほどが開催されており、新たな大会も続々と誕生している。日本におけるウルトラの先駆け的な大会はサロマ湖100kmウルトラマラソン(以下、サロマ湖)で、今年(6月25日)で32回目を迎えた。サロマ湖の歴史を振り返ると、ウルトラ人気の上昇具合がわかるだろう。

エントリー開始28分で定員3550人に到達


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サロマ湖の第1回大会は1986年に開催され、五十数人のランナーでスタートした。そこから徐々に参加者が増加。100kmの部は1995年に1362人、2004年には3000人近くが集まり、近年は人気のため先着順(一般枠)となった。今年はわずか28分ほどで3550人の定員に到達。抽選倍率10倍の東京マラソンほどではないが、サロマ湖の出場権も“プレミアチケット”になっている。

しかも、出場するための費用も高額だ。大会のエントリー費用は100kmの部が1万7000円。オフィシャルツアーで東京から現地に向かうとすると、9万円前後がかかる。レースに参加するには10万円以上の予算が必要で、ここで100kmを走りたいという人がたくさんいるのだ。

筆者はウルトラマラソンを何度も取材しているが、出場するランナーの意識がこの10年ちょっとで大きく変わったと感じている。知らない人は、ゴリゴリの猛者が走っていると思うかもしれない。昔はストイックなランナーが多かった印象だが、近年はかなりマイルドになってきている。いたって普通の方々が参加しているのだ。なかにはメタボぎみのおじさんもいるし、先日取材した大会には、娘の影響で48歳からランニングを始めて、母娘(51歳と24歳)で100kmに挑戦した方々もいた。仮装で走る人や、1度もフルを走ったことがないのに100kmレースに出場する人も。ウルトラはカジュアル化しつつあるのだ。

それはランニング人気の2次現象ともいえるだろう。全国に1万人以上が参加する都市マラソンが次々と創設されたこともあり、日本のマラソン人口は爆発的に増加した。『ランナーズ』を発行しているアールビーズの調査(日本陸連公認コースを使用する対象大会の完走記録データを集計)によると、フル完走者は東京マラソンが創設される前年(2005年)が8万2930人で、その10年後の2015年には35万4072人まで膨れ上がっている。

ウルトラ完走者のデータはないものの、フル人口に比例する形でこちらも増加中だ。現在はサロマ湖以外にも、四万十ウルトラマラソン、チャレンジ富士五湖ウルトラマラソン、星の郷八ヶ岳野辺山高原100kmウルトラマラソンなど2000人以上の参加者を集めている大会がいくつもある。

ウルトラが活発化している背景には、フル完走者の増加は無関係ではないだろう。

ウルトラはフルよりもハードじゃない?

人はなぜ100kmも走るのか? ウルトラにはフルとはまったく違う魅力が詰まっていることが大きな理由だ。フルの場合、最初は「完走」が目標だとしても、気持ちは徐々に「タイム」へシフトしていく。ランニングを始めて数年間は右肩上がりでタイムは伸びる傾向にあるものの、ある程度のところで頭打ちになってくる。そうなると、走るのが面白くないなと感じてしまう。

そんなタイミングでウルトラに新たな“希望”を見いだすランナーが出てくるのだ。ちょっと意外かもしれないが、ウルトラはフルでタイムを目指して走るよりも、少しのんびりと取り組むことができるスポーツで、見方によってはフルよりも攻略が難しいとも言い切れない。

大会、天候によってレースの難易度が変わるものの、フルを5時間ほどで走る能力があれば、100kmの「完走」は十分に可能だ。100kmレースの場合、制限時間は「14時間」というのが一般的。フル5時間はキロ7分07秒ペースだが、それよりも1km当たり1分以上遅くても、完走できる“計算”になる。ウルトラは、「速さ」よりも、自分の体をコントロールして、いかにレースをうまく進めるかという「マネジメント力」が必要になってくる。そう、24時間テレビのマラソンのように“ちょうどいい時間”に武道館へ帰ってくる能力もマネジメント力だ。

知られざるウルトラの常識とその魅力

フル経験者でも、ウルトラの“常識”に驚かされるだろう。まずはスタート時間。100kmの場合、朝4~5時となる。暗闇のなかを走るため、ヘッドライトをつけているランナーも少なくない。交通規制をしていないことがほとんどなので、歩道を走り、信号では止まることもある。

そして、フルと比べて、高低差のあるレースが多い。たとえば、丹後ウルトラ100kmマラソンは標高150mほどの峠を3回、同400m超えの碇高原牧場を上って下る。街中でのレースが難しいという理由が大きいが、フルのようにタイムを気にしているランナーが少ないこともあり、高低差のあるコースのほうがチャレンジ精神をかき立てられるようだ。

フルとの違いでいうと、「給食」もかなり重要になってくる。フルはスポーツドリンクだけでもゴールにたどり着くかもしれないが、ウルトラではそうはいかない。エイドステーションではおにぎり、うどん、カステラ、果物などが提供され、さらにランナー自身もエナジージェルなどを携帯している場合がほとんど。ゴールまでエネルギーが切れないように、レース序盤から小まめに捕食していくことになる。

それから「ウエア」の選択もポイントだ。ウルトラではレース後半にランナーの荷物を預かってくれるエイドステーションがある。気象条件、体調に合わせて、ウエアもうまくコーディネートしていく。空調の効いている部屋で読んでいるとピンと来ないかもしれないが、レース終盤のウエアが天国と地獄を分ける可能性があるのだ。ウルトラはフルと比べて温度差が大きい。日中はTシャツ姿で快適だったとしても、夕方になると冷え込んでくる場合があるからだ。

またウルトラでは「ウォーク」や「休憩」がレース攻略のカギとなる。たとえば100kmレースを50kmまでキロ7分、次の30kmをキロ8分、ゴールまでの20kmをキロ9分のペースで進むと、12時間50分という計算になる。着替えの時間10分を加えて、ジャスト13時間だ。かといって、そのペースで実際に走るのではなく、急勾配の上り坂や給水・給食中はウォークで進む場合もあるし、レース後半では休憩時間も多くなる。それを加味したうえでのペースになる。

フルのベストシーズンは11~4月だが、ウルトラの場合は4~6月と9~10月。これも気温が影響している。フルは好タイムが出るように気温が低い時期が好まれるものの、ウルトラは走る時間も長く朝夕は冷え込むだけでなく、レース終盤ではウォークや休憩の時間が増えるため、フルより気温が高い時期に開催されている。

たとえば、4月後半のチャレンジ富士五湖ウルトラマラソン(100kmの部)。今年はコンディションに恵まれ、完走率は例年より少し高い71.53%だった。しかし、平均気温が3.6度しか上がらなかった2013年の完走率は49.82%と、天候によってレースの“難易度”が大きく変わってくる。参考までにいうと、東京マラソンの完走率は97%ほどだ。

「完走者」がたたえられる文化

ウルトラに参加するランナーたちの大半は「自己ベスト」で走ることよりも「完走」することが大きな目標となる。サロマ湖は制限時間が13時間ということもあり、完走率は50~80%と厳しい。10回完走すると「サロマンブルー」という称号が与えられ、翌年大会以降からブルーゼッケンが授与される。さらに20回完走すると「グランドブルー」となり、ゴールドゼッケンで走ることができる。ウルトラにはタイム以上に「完走者」がたたえられる文化があるのだ。

ゴールシーンもフルとは少し違う。感動のあまり、涙を流しながら、フィニッシュを迎えるランナーがフルよりも圧倒的に多い。100kmの場合、フルを2回走ってもまだ15km以上もある。その距離を自分が走っていることを想像するだけでも、涙腺が緩んでくる人もいるだろう。24時間テレビのマラソンのように「サライ」が頭のなかを駆け巡るかもしれない。

ウルトラは地域の経済効果という面でも魅力的だ。フルは日帰りで参加するランナーも少なくないが、ウルトラはスタートが早朝で、ゴールが夕方。そのため、開催地の近くで2泊するランナーが多く、レース後には飲食店も大いににぎわうことになる。

ちなみに100kmという距離は東京を軸に考えると、群馬県の高崎、千葉県の銚子あたり。大阪からだと和歌山県の熊野、三重県の鈴鹿あたりになる。普通電車で行くとなると、2時間ほどの行程だ。それを自分の脚だけで駆けていく。ランニング好きなら、日の出前から日の入りまで、丸一日走っていられるのも“幸せ”なことだろう。しかも、ゴールの“達成感”は間違いなくフル以上のものがある。フルに飽きた方や、新たなことに挑戦してみたい方は、ぜひともウルトラマラソンにチャレンジしていただきたい。限界を超えた先で、新たな自分に出会えるはずだから。

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酒井 政人:スポーツライター

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