メニュー

2017.07.28

20代から『スマホ老眼』が起こる!?目の酷使と不調の関係とは【眼科医インタビュー①】

KenCoM公式ライター:桶谷仁志

記事画像

朝起きてスマホでニュースをチェックし、職場ではパソコン作業、帰り道はスマホで動画やゲームを楽しむ。パソコンやスマホ、タブレットといった便利すぎる電子機器が生まれたため、今の私たちは常時なにかの画面を見ているのではないだろうか。疲れ眼やドライアイ、さらには「スマホ老眼」なる言葉が聞かれるようになり、眼の健康について改めて知見を深めるべく、杏林大学医学部付属病院眼科医師・山田先生のもとを訪ねた。

そこで分かったのは、眼に対する常識が少しずつ変わってきていることだ。さらに、眼の疲れによって他の部位の不調を引き起こすという最新の眼科事情を伺った。

山田昌和(やまだ・まさかず)先生

記事画像

杏林大学医学部附属病院・アイセンター医師

【略歴】
1986年 慶應義塾大学医学部卒業、同眼科学教室入局
1993年 米国Duke大学アイセンター研究員
1997年 慶應義塾大学眼科講師
2003年 国立病院機構東京医療センター感覚器センター・部長
2013年 杏林大学医学部眼科学教室・教授

専門は角膜疾患、ドライアイ、斜視弱視。原因がわかりにくい眼疲労感や不快感など不定愁訴と扱われがちな症状の病態やメカニズムの解明に興味を持っている。

スマホやPCを見続けることで「スマホ老眼」を引き起こす

記事画像

一昔前の常識は、20歳を過ぎると近視の進行は止まり、次の節目は老眼が始まる50代とされていた。しかし、技術の発展とともにそんな常識も変わってしまったという。

今は昔と違って、社会人になってから近視になるケースがものすごく多い。これはおそらくPCの普及と関係していると思います。PCという発光体を見つめることが、仕事の中で多くなってきた。紙とPCやスマホの違いは、それ自体が発光していることです。そのせいで疲れが蓄積するのではないか。メカニズムは詳しく分かっていませんが、人間の眼は発光体を見つめることに、あまり慣れていないんです。

もうひとつの要因は、近くを凝視すること。凝視する場合、人間の眼は実はじっとしていなくて、細かいピント合わせと細かい位置合わせをずっと繰り返しています。眼球を上下左右に動かす筋肉と、眼の中でピント合わせをしている毛様体の筋肉が、ずっと微妙に動いています。それが大きな負担になるんです。

眼が疲れた時には、”遠くの緑を見るといい”とよく言われたが本当なのだろうか?

遠くのものは位置があまり動かないから、それをリラックスして見ていると、負担が少なくなって、眼が休まるというロジックです。ところが、近くのものをみるときは負担が大きくなる。しかもPC画面やスマホ画面は見るポイントが多く、細かく変化もしますね。ゲームなんてやっていると、なおさら細かい動きを追いかけなければならない。画面が近くなるほど、眼の動きの角度も大きくなる。スマホのような小さな画面では、さらに眼の負担がさらに大きくなります。

その結果、眼の疲労が蓄積し、筋肉の緊張が高まった状態が続いて、近くのピント合わせもしづらくなる。こうした症状を「スマホ老眼」と呼んでいます。本来、若い人は、近くにピントを合わせる力が強いはずなのに、それができなくなって老眼のような状態になるわけです。

近くのものにピントを合わせる眼の能力は10代の後半がピークで、以降は年齢とともに落ちていきます。通常は、ゆっくりとその能力が落ちていき、日常生活に不便を感じるようになるのは40代くらいから。ところが、PCとスマホを凝視する生活が続くと、疲労が蓄積して、20代後半から30代前半のうちに老眼のような眼になってしまいます。

「50分画面を見たら10分休む」が作業時の目安

20代・30代で「老眼」と診断されるのは辛いものがある。治療はできるのだろうか?

もちろん、若いうちであれば、眼を休ませれば回復します。休養をとることです。ただ、仕事でPCを長時間使わざるをえない人などは、「よし休もう」と思ってもなかなか完全に休むのは難しい。かといって、「〇×時間以内に制限」というのも、年齢や個人差があるので一概には言えません。

以前、IT企業に勤務されている方が、眼を酷使しすぎているからと”仕事を6時間以内に抑える旨を診断書に書いてほしい”といわれました。しかし、こうした事例に対して、医学的なエビデンスがないので対応するのは難しいのです。厚労省の研究班が出したガイドラインでは「50分画面を見たら10分休むべき」という目安を示しています。若い人だったら、もう少し無理はきくと思いますが、作業の間に一定の休憩を入れるというのが原則になります。

「スマホ老眼」は学会や厚労省の定義では「IT眼症」とも呼ばれる。その症状は深刻な眼精疲労によるものとほぼ同じで、「眼のピントが合わせにくい」「ものが二重に見える」「眼が痛い・重い」などが特徴的。ドライアイも併発し、重症化すると体の不調を訴えることもある。

眼精疲労がたまると併発する症状で多いのは頭痛、肩こりですね。頭痛は、もともと偏頭痛のある人なら、その偏頭痛がひどくなるなど、人によっていろいろです。不眠症状も出たりします。眼の疲れそのものばかりではなく、PCを使った仕事全体から来るストレス症状だとも考えられますから、対処法も単純には決められません。

ドライアイは多くの「スマホ老眼」の人に見られる初期症状です。画面を見つめると、まばたきが少なくなるので、ドライアイになりやすいと考えられます。われわれ医師が処方するドライアイの目薬は、涙液の分泌を刺激したり、眼の表面をしっとりさせる効果が1時間くらい続くので眼の負荷が軽くなって、疲労が軽減されます。しかし、市販の目薬はビタミン剤が主な成分なので、ほとんど気休めに近い。ドライアイで悩んでいる人は、一度は眼科を受診し、専用の目薬を処方してもらうことをお薦めします。

眼鏡やコンタクトレンズの過調整はNG!気づきにくい疲れ目の原因

単純な原因で、眼が疲れやすくなったり、肩がこったりしているのに、本人がそれに気づかないケースも意外に多い。眼鏡やコンタクトレンズに原因が隠されていたりする。

眼鏡やコンタクトレンズを使っている方に多いのが、”視力の過調整”が常態化していることです。販売店で眼鏡を作るときには、機械で近視の度数を測りますね。機械で測ると人間は少し緊張するので、近視が強く出やすい。販売店によっては、この数値に合わせて眼鏡やコンタクトレンズを作るので、度が強くなりがちです。そういう眼鏡をかけていると、少し目に力を入れないとピントが合いにくいので、裸眼でいるよりも疲れやすくなります。こうした知識を持つ販売店であれば、少し度が弱めのレンズを使ったり、利き目がよく見えるように調整して片方はほんの少し度を落としたりするのです。

医師の基準で近視の眼鏡を作る場合、両目で1.0程度に調整します。夜中に運転するドライバーなら、もう少し視力が出たほうがいいかもしれませんが、オフィスで働いているような人なら1.0で十分でしょう。むしろ、眼鏡の度をもっと落としている方もたくさんいます。PC作業が多い人は、それほど遠くを見る必要はないわけですから、両目で0.7あれば十分だと思います。もう一つ、PCやスマホについてアドバイスすると、どちらも画面のブルーライトを抑えたり、画面をモノクロにしたりする機能を使えば、眼の負担が軽減できます。

自覚症状のない眼病の可能性もある。その場合は、病気の治療が最優先だ。

眼精疲労には休養が一番ですが、疲労の原因があれば、それを見つけ出して治療したり、矯正したりするのが先決です。例えば、片方が乱視なのに、矯正なしの眼鏡をしているのもよくありません。また乱視の場合は、レンズの角度がずれると、見えづらくて、疲れる。さらに近視と同じで、乱視を100%矯正するとかえって負担が増すので、矯正は生活に支障がない範囲で緩めにしておくのがコツです。

また、疲れ目の裏に、深刻な病気が隠れていることもありますから要注意です。例えば緑内障で視野が少し欠けていたり、白内障で水晶体が少し濁って見えにくくなっていると、それだけで眼は疲れやすくなりますが、自覚症状はないのが普通です。斜位(しゃい)という眼の方もいます。普段は表に出ないのですが、両目がものすごくリラックスしているときに、右と左の眼がずれる症状です。この場合、普段は無意識に眼の位置をまっすぐに合わせているわけですから、普通の人より眼が疲れやすいのです。斜位の軽いものはプリズム眼鏡で矯正できますし、重症だった場合は手術で治療もできますよ。

若い人のコンタクトレンズも注意です。長時間の装着・誤使用によってドライアイの傾向があります。さらに、「スマホ老眼」の症状を訴える人も多いですね。こうした状態を放置しておくと、将来どうなるのかは現状わかっていません。今のうちから眼を酷使しすぎないよう、眼を休めるように意識してくださいね。

眼精疲労が慢性化する前に、画面から離れる習慣を意識しよう

「スマホ老眼」は深刻な眼精疲労が原因だ。別名を「IT眼症」と言い、最近では幼い子供の「IT眼症」も問題になりつつある。

眼を動かすなどで眼の筋肉を鍛えることはできないか、と最後に質問をしてみた。山田先生の答えは「毛様体は鍛えられないので、根本的な解決にはなりません」とのこと。ただし「眼をぐるぐる動かしている間は画面を見なくてすむし、気分転換になるからリラックス効果はあるでしょう」とのことだった。現代のライフスタイルでは、無理やり視線をそらすぐらいの意識をしなければ、起きている限り画面を見続けているのが当たり前になりつつあるのかもしれない。許されるのであれば、1時間に10分程度の休憩時間を意識してとってみよう。

インタビューの後半では、40代・50代の眼の健康をテーマに山田先生にお話を伺った。そこから分かったのは、40代以上の成人に対して、20人に1人が失明リスクを抱えているかもしれないという驚きの事実だ。ぜひ次の記事もご一読いただきたい。

記事はコチラ

取材協力

<著者プロフィール>

■桶谷 仁志(おけたに・ひとし)
1956年北海道生まれ。早稲田大学卒。20代半ばからトラベルライターとして国内のほぼ全県と海外30数カ国に取材し、雑誌、新聞等に寄稿。2000年には副編集長として食のトレンド雑誌「ARIgATT」を企画、創刊。03年から雑誌「日経マスターズ」(日経BP社)で最新医療を紹介する「医療最前線」を約3年間、連載。日経BPネット「21世紀医療フォーラム」編集長も務める。現在は食、IT、医療関連の取材を幅広く手がける。著書に『MMガイド台湾』(昭文社)『パパ・サヴァイバル』(風雅書房)『街物語 パリ』(JTB)『乾杯! クラフトビール』(メディアパル)など。

この記事に関連するキーワード