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2017.06.27

ドッグフードは「薬」として進化を遂げていた|犬向け「療法食」の効果は人間向け以上

東洋経済オンライン

ドッグフードは、人間の食品よりも進化している面がある(写真:今井康一)

参照元:http://toyokeizai.net/articles/-/176608?utm_source=deschl&utm_medium=http&utm_campaign=link_back&utm_content=article

ドッグフードは、人間の食品よりも進化している面がある(写真:今井康一)

現在、国内の犬の飼育数は991万7000匹(2015年)。少子化のなか、飼い主にとって愛犬は「うちの子」も同然であり、その健康は一大関心事であろう。

最近では、2000年代前半のペットブームで飼われたワンちゃんたちが高齢化のピークを迎えつつあり、さまざまな病気を抱える場合も多い。そんなときに役立つのが、病気ごとに開発されている療法食(治療食)である。豊富な臨床実験データを基に開発された療法食は、人間向けでは考えられないほど治療効果が高いという。

30年以上ペットフード業界で活躍し、このたび『一流犬をつくる最強の食事法』を上梓した橋長氏に、愛犬の健康寿命を延ばすドッグフードの最新知識を語っていただいた。

人間の医学よりも先行している犬の治療食


『一流犬をつくる最強の食事法』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

ドッグフードは、人間の食品よりも進化している面があります。

最近では、人間の食品の世界で、機能性食品が増えています。「太りにくい」とか、「体脂肪が減りやすい」などという、特定の健康効果のある食品のことです。

あまり知られていませんが、健康効果という面ならば、人間の食品よりも犬の食品のほうがはるかに進歩しています。

人間の食品の場合、健康への効果といっても、病気に対する予防の効果がせいぜいで、しかも「○○になりにくい」という程度の、限られた効き目しかありません。

ところが、犬の食品の場合、予防効果どころか病気を治療してしまえる食品さえあるのです。

たとえば、人間も犬も、がんになる場合があるのは同じです。

人間の場合、がんの治療用の食事というのは完成していません。近年になって、脂質の割合を極端に高め、糖質をほとんど含まない、「ケトン食」という食事が注目され、がんに対する効果があるのではないかと研究が始まったところです。

ところが、犬の食事の世界では、すでに「がんに対応したドッグフード」は存在していて、実用化されているのです。これはもう15年以上も前のことです。

つまり、犬のがんは、食事療法で延命が期待できるわけです。

このことは、動物病院で愛犬のがん治療をしている飼い主さんはご存じでしょうが、一般にはあまり知られていません。

犬の病気を食事で治療できるのは、がんだけではありません。

肥満、皮膚病、尿石、腎臓病、糖尿病、心臓病、肝臓病、認知症……など、動物病院で診断されるほとんどの犬の病気には、それを治すための専用の食事があるのです。

犬の治療食が人間向けよりも発達したワケ

なぜ、人間の食事よりも犬の食事のほうが進化しているのでしょうか。

人間の食事の場合、人権の問題があり、極端な実験はできません。安全性の疑わしい食事を、やたらに試食させてしまえば、「人体実験だ」といわれてしまいます。

ところが、犬の場合、どんな食事を試食させても、人権問題は起こりません。実験ができるため、科学的な研究がやりやすくなります。

もっとも、実際には動物保護の法律がありますから、何でも実験できるというわけではないのですが、それでも、人間の場合よりは制限がかなり緩くなります。

このため、ドッグフードのメーカーでは、長年、科学研究を重ねて膨大なデータを得ており、ドッグフードの機能性は病気の治療まで可能になっているわけです。

たとえば、フランスのロイヤルカナンやアメリカのヒルズでは、徹底的な研究を積み重ねています。私はどちらの企業にも身を置いたことがあり、両企業の研究機関と工場を自分の目で見ています。

どちらの企業の研究所でも、あらゆる種類の犬種が飼育されていて、さまざまな食事を与えられており、データを取っていました。フードの内容や形状による違い、犬種ごとの違いなど、膨大なデータを蓄積しています。

栄養素に関する研究が行われているのはもちろんですが、私が驚いたのは、医療分野ごとに専門の研究セクションがあり、専門の獣医が研究をしていることでした。

たとえば、犬の歯科医がドライフードの形状について歯の健康の観点から研究し、理想のフードの形を見つけようとしているのです。

また、最近では、犬という動物は本来何を食べてきたのかという食性の観点からも、研究と商品化が進んでいます。

犬の歯の構造や腸の長さ、唾液に炭水化物を消化するアミラーゼが含まれていないことなどからも、犬は本来肉食であることがわかっています。そして犬の祖先であるオオカミなど肉食動物は、加熱していない食べ物を食べる、いわゆる”生食”であり、犬にとっても加熱した食品よりも生食のほうが消化吸収に負担がかからないという結果も出ているのです。

こうした「肉食」「生食」を研究して作られているニュージーランド産のK9ナチュラル、犬が本来食べるべきフードを研究し、消化に負担がないよう作られているZiwiPeak(ジウィピーク)、ブッチなどといったナチュラル志向のフードも、現在では多く販売されるようになっています。

犬のがん療法食は、ヒルズが実用化させています。

ワンちゃんが動物病院でがんだと診断されると、病院がヒルズのがん療法食を問屋から仕入れて処方します。

この療法食は糖質を限界まで抑えたもので、糖質しかエネルギー源にできないがん細胞を兵糧攻めにするものです。

手術などほかの治療を施すことができない場合でも、この療法食により、がんを患ったワンちゃんの寿命は最大で300日延びるのです。つまり、がんのワンちゃんを約1年間、延命させる効果があるわけです。

1年と聞くと、「短い」とお思いの人もいるかもしれませんが、犬の1年はかなり長いものです。

子犬は1歳になると、人間でいうと18~20歳に当たります。成犬になると、年齢が1歳増えるごとに、人間の年齢では4歳ずつ増える計算です。

たとえば、8歳の犬を人間年齢に換算してみます。最初の1年で人間でいえば20歳になり、後の7年は7×4で28歳増えますから、合計で、人間年齢の48歳ということです。

このように考えると、成犬の1年は、人間の4年と同じ意味になります。すると、がん療法食でワンちゃんが約1年の延命をすれば、人間では4年も延命したのと同じということなのです。

もし、末期がんの人が、ある食事を食べることで4年間、延命できるとしたら画期的です。開発に成功すれば、またたく間に世界中に普及するでしょう。

ところが、犬の世界ではがん療法食が、もう、現実となっているわけです。

犬に多い尿石も改善

犬は尿石になりやすい動物で、動物病院に来る犬に最も多い病気の1つが尿石です。

ドッグフード大手メーカーであるアメリカのヒルズや、フランスのロイヤルカナンには、尿石を治療するドッグフードがあります。

これを食べるだけで、ワンちゃんの尿石が消えていくのです。

人間の尿石の場合、それを食べるだけで石が消えるなどという便利な食事はありませんから、この療法食についてもドッグフードは人間用の食品よりも進化している証拠だといえるでしょう。

では、尿石を治療するドッグフードは、どんな仕組みになっているのでしょうか。

尿石というのは、酸性の液体の中では溶けます。通常、おしっこは、酸性でもアルカリ性でもなく中性ですから、尿石はそのままでは残り続け、ワンちゃんは苦しむわけです。

ところが、尿石を治療するドッグフードを食べると、おしっこが少し酸性になります。

毎日、これを食べているとおしっこはずっと弱い酸性のままですから、尿石が少しずつ溶けて消えるのです。

この療法食の効果はすばらしく、尿石のワンちゃんのほとんどがこのフードによって治ります。

人間も動物ですから、体の構造の基本は犬と同じです。おそらく、同様の理屈で、療法食をつくることは不可能ではないはずです。

でも、人間の場合、人体実験ができませんから、残念ながら、なかなか実現は難しいようです。

糖質制限食を先取りしていた肥満の療法食

やはり動物病院に来るワンちゃんに多いのが肥満ですが、これに対する療法食はもちろんあり、ロイヤルカナンやヒルズが出しています。

肥満の療法食では、一般的なドッグフードに比べて食物繊維が多く含まれています。食物繊維を増やす利点はいくつかあります。 

まず、食物繊維にはカロリーがありません。ほかの成分を普通の総合栄養食と同様にした場合、必要な栄養を損なうことなく、低カロリーになります。

次に、食物繊維が多いと、カロリーの割に満腹感があります。食物繊維は胃の中に入ると水を吸収して膨らむからです。そのため、ワンちゃんは空腹を感じずに肥満解消となるわけです。

そして、最も注目すべきことは、食物繊維を増やすと、糖質制限になることです。炭水化物は食物繊維と糖質でできています。ですから、ドッグフードの炭水化物の量を同じにした場合、食物繊維を増やすと糖質が減ることになります。

つまり、食物繊維を増やした療法食とは、糖質制限食でもあるわけです。

日本では人間のダイエット法として糖質制限食が広まってきましたが、犬の肥満のための療法食は、もっと以前から定着していました。

糖質が少なければ少ないほど、食後の血糖値が上がりにくくなります。血糖値が上がらないことで、肥満ホルモンともいわれるインスリンをあまり出さなくてもすみます。肥満ホルモンが少なくなるので、やせていくわけです。

このメカニズムは人間も犬も同じですが、ドッグフードメーカーであるロイヤルカナンやヒルズでは、研究を重ねた結果、人間の場合よりもずっと以前から糖質制限食の効果に気づいていたわけです。糖質制限食であるこの療法食を処方されると、その効果は絶大で、肥満したワンちゃんはたちまちやせるのです。

素人判断で療法食を与えるのは危険

このほか療法食の研究が進んでいるのは、やはり犬に多い皮膚病(食事が原因のもの)や、腎臓病、肝臓病などです。

ただし、療法食は基本的に獣医さんが処方しますので、自分の飼っているワンちゃんの具合が悪くなったら、まずは動物病院に行くことが大切です。

療法食については獣医さんの処方を必要とするという法的な縛りはないので、ネットでも買うことはできます。

しかし、素人判断は危険なのでお勧めできません。

たとえば、判断を誤って、減量が必要なワンちゃんに高栄養の療法食を与えてしまうと、かえって太ってしまいます。

間違った判断をしないためにも、獣医さんに診てもらって処方してもらうのがよいでしょう。

というのも、ワンちゃんの療法食というのは、非常に効果が高いからです。病気の種類によっては、素人判断を誤ってしまうと命にかかわる場合すらあります。

ワンちゃんの療法食は人間の薬に近いもので、効果が高い分だけ慎重な取り扱いが必要だと考えてください。

現在、動物病院に来るワンちゃんの3大疾病が皮膚病、尿石、肥満です。これに続くのが、心臓病や糖尿病、認知症、腎臓病など、人間と同じような病気です。

ワンちゃんの場合、これらの病気のすべてに療法食がありますが、一般の飼い主さんが自己責任で判断するのはかなり難しいと思います。

やはり、具合が悪くなったら獣医さんに診てもらい、療法食を処方してもらうのが原則でしょう。

ただ、獣医さんによっては療法食を使うよりも手術を優先させる人もいます。理由はさまざまですが、中には、療法食の効果をあまり知らない先生もいます。それというのも、ワンちゃんの療法食はここ10年ほどで急速に進歩したからです。

また、獣医さんには、療法食よりも手術のほうが経済的なメリットが大きいという人もいるようです。

手術より食事のほうが、飼い主さんとワンちゃんに与える負担は少ないでしょうから、こういう場合は動物病院を変えるのも一法かもしれません。

どういった治療を選択するのかも飼い主さんの自己責任というのが建前ですが、少なくても、ワンちゃんの療法食は効果が高いことだけは知っておいたほうがよいと思うのです。

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橋長 誠司:ピーリンク顧問

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