メニュー

2017.07.11

【脱メタボ特集②】肥満最大の敵は”食欲”!メタボ予防の秘訣は満腹中枢とエネルギーの調整

KenCoM公式ライター:桶谷仁志

記事画像

肥満やメタボ対策を訴求する商品が出ている昨今、残念ながら脱メタボの特効薬はまだない。やはり個人レベルで、少しずつ意識を変えていくのが最も効果的だ。しかし、私たちの身の回りには高エネルギーで、おいしい食品や料理があふれ、どれもが手ごろな価格で手に入ってしまう。さらに、食欲を助長するアルコール類も多種多彩だ。

前回に引き続き、メタボ対策における最大のキーポイント「食欲」との向き合い方について、肥満予防のスペシャリストである東京慈恵会医科大学大学院の和田先生にお話を伺った。

和田高士(わだ・たかし)先生

記事画像

東京慈恵会医科大学大学院・健康科学教授

【略歴】
1985年東京慈恵会医科大学内科系大学院卒。
1993年東京慈恵会医科大学・内科学講師。
1996年東京慈恵会医科大学附属病院総合診療室・診療医長。
2000年東京慈恵会医科大学健康医学センター・センター長。
2009年より東京慈恵会医科大学大学院・健康科学教授。
医学博士。日本人間ドック学会・副理事長。

脱メタボは人の持つ欲との戦い

さまざまなダイエット法が次々と生まれていく。流行を取り入れて瞬間的にダイエットに成功するも、すぐに生活習慣が乱れてリバウンドすることもめずらしくない。

脱メタボが難しいのは、「食欲」という人間の最も根源的な欲望との戦いだからです。また、あまり動かず、楽をしたいという欲望との戦いでもあります。テレビだって、昔はテレビのある場所まで行かないとチャンネルは変えられなかった。今はリモコンですから、動かなくてもよくなりました。人間は放っておくと、食べたいものを気が済むまで食べて、楽して動かないでいたいと思い、そのために工夫する動物です。

そんな強烈な食欲と、昔より動かなくてもよくなった便利な環境に打ち克って、減量に取り組むには、並大抵ではない意思と努力が必要です。体重を減らすには、昔も今も便利な特効薬はありません。原則として、入ってくるエネルギーから消費するエネルギーを引いた結果が、体重に反映されます。ただそれだけの話で、減量のためには入ってくる食事のエネルギーを減らすか、消費するエネルギー、つまり身体活動を増やすかしか方法はないのです。

食事か運動かの2者択一だが、そうなると比較的、実践しやすいのが食事対策だ。運動で減量するには一定の時間の確保が必要だし、40代以降は、運動しなくても消費される基礎代謝量が低下するため、消費エネルギーを増やすのがどんどん難しくなってくる。

効率良く、しかも健康的に減量するための黄金配分は食事7、運動3の比率だと言われています。だからこそ、まずは食生活にメスをいれましょう。食事のコントロールで、最初に気を配るべきなのは、スーパー、コンビニなどで売っている個々の食品のエネルギー量です。パックの飲料や食品などには、必ず「栄養成分表示」が付いていて、その中にエネルギー量表示があります。

例えば、ある牛乳のパックにはエネルギー141kcalと表示されています。しかし、注意すべきなのは、表示はパック全体のエネルギー量だとは限らないことです。100mlあたりなどの注記がある場合は、1本全体のエネルギー量を計算するようにします。250ml程度の飲料でも、1本で250kcalにもなる高エネルギー商品もあるんですよ。ちなみに、一般的な成人の1日の必要エネルギー量は2000~2300kcal前後です。スナック菓子なんかは1袋400kcalもありますから、それだけで1日の必要エネルギー量の5分の1程度を摂ることになります。

3食しっかり食べた上に、間食にスナック菓子&ジュースなんてやっていたら、すぐにエネルギーオーバーになってしまいますね。こうして摂取エネルギー量を細かく意識するだけで、脱メタボに一歩近づきます。スマホやPCなどに、一日に摂取したエネルギーを記録していけば、自分の生活習慣を見つめなおすことができますよ。

満腹を感じるまで20分!エネルギーを抑えながら食事の時間を意識しよう

昼食に弁当を持っていくなら、野菜を多めのご飯を少なめにして、1食あたりを600kcal前後に抑えたい。しかし、昼食の時間すらもしっかり取れないとなると、市販のお弁当やファーストフードで済ませることもあるだろう。

市販のお弁当のカロリーは700~900kcalくらいが一般的です。最近は、カロリー表示のあるお弁当も多いので、それを参考にするとよいでしょう。ファーストフードにおいても、栄養表示基準にもとづいて、メニューに含まれるエネルギーの情報を公開しているケースが多いですね。こうして摂取するカロリーを確認するとともに、食べるメニューの代替を意識していくと、摂取カロリーをぐっと抑えることができます。

外食におけるカロリーの目安をご紹介しましょう。例えばカツ丼は900kcal、牛丼は800kcalもあります。これを鉄火丼にすれば650kcalに減らせます。スパゲッティなら、カルボナーラは830kcalですが、ペペロンチーノにすれば560kcalです。居酒屋なら、同じ焼き鳥でも皮なら2本で380kcalですが、つくねは2本で130kcalです。

食事に気を配る場合、エネルギーを計算するところから始めて、少し慣れてきたら、油を多く使う料理を減らすことを考えたい。

同じ茄子でも調理法によって摂取エネルギーに大きな差がある

同じ茄子でも調理法によって摂取エネルギーに大きな差がある

ここで注意したいのは、野菜を使ったメニューです。茄子を例にあげると上の図のように調理方法でエネルギーに大きく開きがでます。天ぷらにすると素焼きの約10倍ものエネルギーになってしまうのです。

外食が中心になると、どうしても油分の多い料理を食べる機会が多くなりますね。というのも、油ものは食味がよいし、腹持ちがいいから、満足感がずっと長く続くのです。しかも、外食産業にとっては、焼き茄子を出すよりも、油炒めや天ぷらを出すほうが、調理時間がずっと短くすむし、スタッフの手間もかからない。低コストで、お客が喜ぶのだから、油を使った料理を中心に据える店が多いのは当たり前です。

こうしたことを意識して外食時でも、煮たり焼いたりする料理を中心に食べるようにすればいい。そうすれば自然に全体のエネルギーは下がります。

エネルギーカット以外にも気をつける点はあるのだろうか?

前回のお話で、食事を開始してから満腹中枢が動き出すまでに15分~20分のタイムラグがあることをご紹介しました。食事でエネルギーを抑えるとなると、腹持ちが悪くなるのでメインディッシュを食べる前に、キャベツやレタスなど生野菜を丼1杯分ぐらい食べることをオススメしています。満腹中枢が刺激されて食事の量が減らせる上に、満腹感を得られるので一石二鳥です。食欲とエネルギーを調節することを始めることが、メタボにならない生活習慣づくりの第一歩になります。

次に、脂質が高い食事を続けていると、どんな健康リスクがあるのかをご紹介しましょう。

血中の脂肪は蓄積し、動脈硬化の原因に

日ごろ耳にすることの多い「中性脂肪」は日々の食事が大きく関係する。脂質は血液にどんな影響をもたらすのだろう。

血液の中性脂肪(TG)や悪玉コレステロール(LDL-Cho)の数値が上がると、血液は脂肪を多く含んだ状態になります。よく血液がドロドロになるっていいますよね?その様子が分かる写真をお見せしましょう。

東京慈恵会病院に勤務する医師の血液検査の結果。左に行くほど中性脂肪が多く、白く濁っているのが分かる

東京慈恵会病院に勤務する医師の血液検査の結果。左に行くほど中性脂肪が多く、白く濁っているのが分かる

これは院内の医師から採血したものを、遠心分離機にかけた時のものです。血液は様々な成分でできているため、1時間もおけば分離していきます。右から中性脂肪が少ない順に並べているのですが、一番左までくると油膜みたいなものが浮いているのが分かりますね。

一般的な健診の際にも同じことが分かるのですが、自分の血液を見ることができません。そのため、身体の中でなにが起きているのかを認識することが難しいのです。血液は全身の血管をめぐります。脂質過多の状態が続くことで血管内に脂質が沈殿し、血流を妨げてしまう。そうやって動脈硬化が起こります。

動脈硬化が起こるとどうなるのかが、分かりやすい写真をご紹介します。

心臓付近で動脈硬化を起こした患者の血管。太さ3mmにもかかわらず、血が流れる余裕はほとんどない

心臓付近で動脈硬化を起こした患者の血管。太さ3mmにもかかわらず、血が流れる余裕はほとんどない

心臓の冠動脈は、かなり太そうなイメージがありますが、直径はわずか3mmしかありません。3mmの血管が、1日に10万回動く心臓に酸素と栄養分を与えているわけです。それが、80年も続いていく。消費できない脂肪が血管の中で少しずつ溜まっていき、やがて血流に影響を与えてしまうのです。

動脈硬化が進んだ血管は細くなるが、節制すれば元に戻るのだろうか。

薬では血管に脂が溜まるのを止めることはできても、一度溜まった脂を減らすことはかなり難しいのです。手術で血管にカテーテルを入れて、脂が溜まって硬くなった部分を削ったり、ステントという器具を入れて膨らませ、なんとか血管の狭窄部分を広げることはできますが、それは限られた血管のみしかできません。

自覚症状が出る頃にはかなり症状が進行している場合があります。医療機関にかかるほど重症化する前に、日ごろの節制を意識してもらえればと思います。

日々の食事は身体の中に反映されていく

心筋梗塞や脳卒中、腎不全など深刻な疾患の一歩手前の現象が動脈硬化だ。動脈硬化で狭窄を起こした血管の写真を見て、定期健診の数値を考え合わせ、自分の血管のことが本気で心配になったら、超音波エコーやCT、MRIなどの検査を一度、受けてみるのもいいだろう。費用は少しかかるが、自分の血管の硬さや狭窄の有無をビジュアルに確認した上で、脱メタボに取り組めば、真剣味も違ってくるはずだ。

次回は、和田先生が考える脱メタボのためのより具体的なノウハウを伝授してもらう。こちらもぜひご参考に。

次の記事はコチラ

取材協力

<著者プロフィール>

■桶谷 仁志(おけたに・ひとし)
1956年北海道生まれ。早稲田大学卒。20代半ばからトラベルライターとして国内のほぼ全県と海外30数カ国に取材し、雑誌、新聞等に寄稿。2000年には副編集長として食のトレンド雑誌「ARIgATT」を企画、創刊。03年から雑誌「日経マスターズ」(日経BP社)で最新医療を紹介する「医療最前線」を約3年間、連載。日経BPネット「21世紀医療フォーラム」編集長も務める。現在は食、IT、医療関連の取材を幅広く手がける。著書に『MMガイド台湾』(昭文社)『パパ・サヴァイバル』(風雅書房)『街物語 パリ』(JTB)『乾杯! クラフトビール』(メディアパル)など。