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2017.07.11

【脱メタボ特集①】早食いはNG、歯磨きはOK?メタボを予防する生活習慣のポイント

KenCoM公式ライター:桶谷仁志

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太るのはあっという間。ところが節制しても体重が減らない!これが40代、50代からのメタボ(メタボリックシンドローム)の辛いところだ。「年だから仕方ない」「これくらいならまだまだ」などと自分を慰めつつ、定期健診の結果から目をそらすうちに、ベルトの穴は足りなくなり、小さな段差につまづき、駅の階段を登ると息切れが……。どこかで大きく方針転換しないと、重い健康リスクを招くかもしれない。

そこで、メタボリックシンドロームの研究を行う、和田高士教授(東京慈恵会医科大学大学院健康科学)を訪ね、今年で10年目を迎えたメタボ健診(特定健診・特定保健指導)や企業の定期健診、人間ドックなどのデータ解析から見えてきた、脱メタボに向けたセオリーを教えていただいた。

和田高士(わだ・たかし)先生

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東京慈恵会医科大学大学院・健康科学教授

【略歴】
1985年東京慈恵会医科大学内科系大学院卒。
1993年東京慈恵会医科大学・内科学講師。
1996年東京慈恵会医科大学附属病院総合診療室・診療医長。
2000年東京慈恵会医科大学健康医学センター・センター長。
2009年より東京慈恵会医科大学大学院・健康科学教授。
医学博士。日本人間ドック学会・副理事長。

健康診断の結果を「成績表」として活用する

平成26年に厚労省が行った調査では40~50代男性における肥満の割合は3割を超えている。健診後のメタボのアラートは効果的なのだろうか?

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一定の効果はあるかもしれませんが、まだまだ十分だとは思えません。特定健診でも人間ドックでもそうですが、私は健診の数字の出し方、見せ方に問題があると思っています。”C判定だから生活習慣を改善してください”、”これが基準値で、この数字が上回っているから心筋梗塞のリスクがある”と言われても、多くの場合ああそうかで終わってしまう。生活に支障がなく、しかも元気に働けていると「今すぐ何とかしなくては」とは思えないのでしょう。

とはいえ健診結果を見て、自分がどんな状況にいるのかを的確に把握する術はないのだろうか?

新版 検査と数値を知る事典 日本文芸社;  (2015) (参考文献①)より一部抜粋。田先生が考案した検査結果の割合を順位づけするというもの

新版 検査と数値を知る事典 日本文芸社; (2015) (参考文献①)より一部抜粋。田先生が考案した検査結果の割合を順位づけするというもの

そこで私が考えたのは、健診結果を成績表にできないかということです。上の表は平成25年の国民健康・栄養調査報告から算出した、いわば「検査値ランキング」になります。全体を100人として、各項目の重症度の順位付けを行っています。100位は、全体の1%以下とお考えください。

40歳代・男性を例にとりましょう。収縮期血圧が150~159(mmHg)だとすると97~98位となります。100人中96人が自分より成績が良く、健康的で、心筋梗塞や脳卒中のリスクが低いと考えられるといった具合です。ほかにも中性脂肪が180 mg/dLだとしたら73~74位となり、成績として見るとかなり下位の方にいることが分かります。

もっと詳細に計算するなら、人間ドック学会が発表した「2014年度の集積データ解析」を参考にするのがいいでしょう(参考文献②)。これは、2014年度の人間ドックデータ169万3902名(210施設)を対象にデータ解析したものです。例えば、男性収縮期血圧(降圧薬非使用)を見ますと、50代で140(mmHg)を超えている場合、自分は下から5.4%の中にいることが分かります。検査値ランキングに当てはめると100人中94位以下の成績ということです。

自分より良い数値の人が世の中にたくさんいることを実感できれば、「これはやばい・・・」と意識を変えることができるのではないでしょうか。

「食べすぎ」「早食い」は太る!データから見る肥満になりやすい生活習慣

和田先生が人間ドック受診者13693名を対象に調査した研究から、メタボになりやすい生活習慣が明らかになった(参考文献③)。

男性の場合、肥満促進要因は上位から「食事量過多」「早食い」「動物性脂肪過多」「家族関係良好」「糖分過多」「間食・夜食あり」「夕食が外食」となりました。また逆に、肥満抑制要因は上位から「歯磨き習慣」「定期的運動」「ストレス」となっています。

「早食い」が肥満促進要因になるのは、脳の満腹中枢との関係です。食事をして、お腹がいっぱいになったかどうかは脳で感じます。ところが、胃袋がいっぱいになって、それを脳が感じるまでには15~20分もかかるのです。そのため「早食い」をしてしまうと、満腹を感じる前にどんどん胃に入れることができるので過食気味となり、肥満リスクを上げてしまうのです。多忙なビジネスパーソンであれば、仕事のちょっとした隙間時間に急いでランチを食べることもあるでしょう。それが癖づいてしまい、常に早食いをしているようであれば気をつけた方がいいですね。(参考文献③)

それと朝食の有無に注目すると、「朝食を毎日食べる」「朝食を食べない」がもっとも肥満が少なく、週2日食べている人がもっとも太るという結果になりました。食生活の乱れも、太りやすい環境を作ってしまうのではないかという懸念があります。(参考文献④)

食事のメニューだけでなく、食べ方にもポイントがある。そしてメタボ予防に効果的なのが、毎食後の歯磨き習慣だ。

今回の結果から私が特に注目するのは「歯磨き習慣」です。「定期的な運動」と並んで、男女ともに上位の肥満抑制要因になっています。男性においてはトップの肥満抑制要因です。食後に歯磨きをすると、間食、夜食を防止する効果があるからだと考えられます。また、歯磨き習慣で歯を大事にしている人は、健康への意識が高いのではないかとも見られます。健康的な体型維持の意識付けのためにも、食後の歯磨きを推奨したいですね。

様々な検査値の改善に効く方法とは?

自分の適正体重を判断する目安として、よく使われるのが20歳のときの体重だ。特定健康診査質問にも「20歳の時の体重から10kg以上増加している」という項目があり、「2014年度の集積データ解析 その2」では、40代男性の46.7%、50代男性の48.8%が「はい」と答えている(参考文献⑤)。

人間は18歳から20歳くらいの時期に、体がほぼ完成します。それ以後は、脳の重さが増えるわけではないし、手足が伸びるわけでもなく、骨が太るわけでもない。そのため、成人後の体重増加は、体にとっては不要なものだと考えられます。多くの人は、年齢が上がると基礎代謝量が落ちて、同じ生活習慣を続けると自然に太ってしまう。

特定健診では、20歳時点からの体重増加につい一応の許容範囲を10kgとして、それ以上かそれ未満かを聞いています。さらに、東京大学や筑波大学などの研究から、20歳時から10kg以上太ると、糖尿病の発症リスクが3倍になるといった結果が報告されています。

肥満を5%改善するだけでも健康リスクが下がる、という研究結果も報告されているようだ。

健康的な適正体重は、BMI(ボディ・マス・インデックス=体格指数)で判定できます。BMIの計算式に基づいて、自分の基準範囲が求められます。身長(メートル)×身長(メートル)×18.5は必要。一方、身長(メートル)×身長(メートル)×24.9以下には押さえたいものです。

例えば身長170cmであれば、53.5~72.0kgまでが標準体重です。もし20歳のときに65kgだった人が、40歳の時点で75kgになっているとすると、糖尿病のリスクがかなり高まっていると言えます。

また、私の著書でも引用していますが、肥満の人が5%の減量で肝機能の指標となるASTは6U/L、γ-GTPは20U/L低下。さらに中性脂肪(TG)は60mg/dLも低下するといった研究結果も発表されています。肥満は万病の元ですが、逆に言うと、肥満をある程度解消すれば、ほとんどすべての検査数値が好転することが分かっているのです。

肥満気味の人は改めて健診結果と生活習慣を見つめてみよう

和田先生のインタビュー第1回は、「健診と生活習慣」にフォーカスをあてて問題点を教えていただいた。もし、少しでも肥満が気になるという方は、改めて健診結果を確認すること、そして、食事習慣を改めて見つめ直してみよう。もし、メタボリックシンドロームのアラートが鳴っているのであれば、ぜひ脱メタボへの一歩を踏み出してほしい。

しかし、最初に立ちはだかるのが「食欲の壁」だろう。インタビューの第2回では、食をテーマに和田先生から意識すべきポイントをうかがった。合わせてご一読いただきたい。

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▼参考文献

① 和田高士 新版 検査と数値を知る事典 日本文芸社; (2015)  pp282-286
② 公益社団法人日本人間ドック学会の2014年度の集積データ解析(その1) 140 万人の基本検査項目データについて -2015年度人間ドック健診の有用性に関する大規模研究委員会分担研究資料-
③ 和田 高士(東京慈恵会医科大学健康医学センター)、福元 耕、常喜 真理、吉澤 祥子、中崎 薫、橋本 博子、栗栖 敦子、浦島 充佳、池田 義雄(2004.12)「肥満者の生活状況:22の生活要因による解析(原著論文)」、『肥満研究(1343-229X)』10巻3号、pp282-286
④ 和田高士・長谷川泰隆・伴秀行(2012)「1週間あたりの朝食摂取日数とメタボリックシンドローム発症のコホート研究」、『日本未病システム学会雑誌』、18(1)、pp106-108
⑤ 公益社団法人日本人間ドック学会の 2014 年度の集積データ解析(その2) 140 万人の特定健康診査質問票について -2015 年度人間ドック健診の有用性に関する大規模研究委員会分担研究資料-

取材協力

<著者プロフィール>

■桶谷 仁志(おけたに・ひとし)
1956年北海道生まれ。早稲田大学卒。20代半ばからトラベルライターとして国内のほぼ全県と海外30数カ国に取材し、雑誌、新聞等に寄稿。2000年には副編集長として食のトレンド雑誌「ARIgATT」を企画、創刊。03年から雑誌「日経マスターズ」(日経BP社)で最新医療を紹介する「医療最前線」を約3年間、連載。日経BPネット「21世紀医療フォーラム」編集長も務める。現在は食、IT、医療関連の取材を幅広く手がける。著書に『MMガイド台湾』(昭文社)『パパ・サヴァイバル』(風雅書房)『街物語 パリ』(JTB)『乾杯! クラフトビール』(メディアパル)など。