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2016.06.29

仕事の効率を上げる歩き方の秘密!学習・記憶能力をアップさせよう

KenCoM編集部

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歩くことがあなたの体を健康にするということは以前から言われていますが、一方で歩くことが脳の活性化に影響を与えることをご存知でしたか?今回は慶應義塾大学・環境情報学部で身体運動に関する神経科学研究をされている牛山潤一先生に、「歩く」という動きが脳にどのような影響を与えて、仕事にどう役立つと考えられているのかお話をうかがいました。

歩くと脳が活性化されて仕事の効率がアップ

「なんだか今日は集中できない。」
「やらなければいけない事があるのに、いまいちやる気がでない・・・。」
1日の始まりからこんな調子では、仕事の効率は低下し、生産性も上がりにくくなってしまいます。脳をすっきり気分な状態にして、仕事をはかどりやすくするために、まずは歩いてみませんか?

歩いたり、走ったりなどの有酸素運動をすると、心臓から脳に送られる血液の量が増えます。そうすると栄養素や酸素などが脳に分配され、おのずと脳が活性化をしていきます。この”脳が活性化した状態”で仕事をすれば、いつもより仕事の質や効率が高くなる気がしませんか?

継続して歩くことで、脳の記憶力が改善!?

2011年、アメリカの研究チームが有酸素運動(ウォーキングやランニング)を続けることで脳の中にある海馬の大きさが約2%大きくなるという論文を発表しました(※エリクソンら 米国科学アカデミー紀要、2011年)。
55歳〜80歳男女を120名集め、1年間ストレッチだけしていたグループと1年間有酸素運動をしていたグループとで分けていたそうですが、有酸素運動を続けていたグループの方がはっきりと海馬の体積が増加しています。

この研究から有酸素運動を継続することで、加齢による脳の萎縮を抑えることができるかもしれないということが分かりました。
ちなみに、海馬というのは、コンピューターのメモリのような役割を担う脳の器官で、日常的な知識記憶やエピソード記憶などを短期的に保存します。知識記憶というのは「”heart”と言ったら”心臓”」といったような簡単な知識の関連付けのことを言います。エピソード記憶というのは「何月何日に誰々が何々をした」というような文脈をもった記憶のことを指します。

つまり、歩くという有酸素運動を続けるだけで、海馬が活性化し、記憶が脳に定着しやすくなると考えられます。これは仕事における専門知識を記憶したり、取引先のお客さんとの細かなやりとりを覚えたりすることに役立ちますよね。

脳を刺激する歩き方で効果アップ!?

ただ自分にとって気持ちの良いペースでプラプラと歩いているだけでは、脳はそれほど活性化しません。
歩行において脳が関わっているのは、「歩行の開始や停止」「歩行のスピードの変化」「環境変化への適応」など。歩行を始める時には、意識が必ず必要になるので脳が関与します。また、歩行の速度に変化を加えたり、歩幅やピッチなどを変えて歩くスピードを変化させることにも脳が関わります。目の前に障害物があった時、またぐのか、迂回するのか、行かないのか、などの環境変化への対応にも脳が関わっています。

このように、脳を意識した歩き方をすることでより有効な刺激を与えることができます。「じゃあ、実際にどうやって歩けば良いの?」と思われた方は次のトピックで紹介していきますので、ぜひ参考にしてくださいね!

脳がより活性化する歩き方はパリコレ風!?

では実際に歩いてみようと思うけれど、脳を効果的に活性化させるためにはどのような歩き方が良いのでしょうか?実は、パリコレなどに出場している方々のモデルウォークが脳を刺激する非常に良い歩き方なんです。

「モデルウォーク?なんか難しそう。」と思ったあなた。今から紹介させていただく2つのことを意識するだけで、簡単に健康的かつ美しい歩き方になります。ぜひお試しください!

一歩一歩を大きくして、股関節の可動域をひろげる

歩くという行為には、一歩踏み出すごとに、様々な筋肉(腸腰筋・大腿四頭筋・前脛骨筋・大臀筋・中臀筋・大腿二頭筋など)が、バラバラのタイミングで、各々の活動レベルで動いています。これら全ての筋肉をあなたは意識して動かしているでしょうか?一歩進むごとに、「今私は前脛骨筋を収束させて・・・」などと考えて歩いているわけがありませんよね。これらの計算を全て脳がしてしまうと、歩いているだけで私たちの脳は疲弊してしまいます。

それでは、誰がこの計算を行っているかというと、脊髄の中にある「中枢パターン生成器」と呼ばれる器官なんです。この「中枢パターン生成器」は、それぞれの筋肉が、それぞれの役割に応じたタイミングで活動するようにババーッと情報を発信してくれます。この中枢パターン生成器は、股関節の筋肉の収縮にトリガーされて、駆動します。ですので、中枢パターン生成器が活発に働くためにも、歩くときに股関節をしっかりと振って歩幅を大きくすることが重要です。こうした歩き方は、同時に歩行による運動量も倍増させます。

つま先を上げて、かかとから着地

先ほど、歩行に関わる多くの筋肉は脊髄の中にある「中枢パターン生成器」によって動かされていると書きましたが、脳によって動かされている筋肉もあります。その代表例はスネの筋肉(前脛骨筋)。この前脛骨筋の役割は、歩く時につま先をピッと上向きにすることです。この役割は歩行において非常に重要なもので、つま先を上に向けられるということは一歩一歩、かかとから着地することができるということ。高齢者の方や脳卒中を患っている方などは、つま先が上がっておらずかかとから着地できないため、転倒しやすくなってしまいます。脳に刺激を与えるためには、つま先を上げて、かかとから着地する歩行を心がけるようにしてください。

朝の通勤で賢く歩いて、健康的な1日を

繰り返しになりますが、歩くときには、股関節を大きく振ることと、かかとから地面に着くようにすることを意識すれば運動量が増え、自然と脳が活性化します。

今回この記事で学んでいただいた知識は、今からでもお役に立てることができるかと思います。今日の帰りは一駅前で降りて家まで歩いてみませんか?

<お話を伺った方> 牛山潤一先生

■牛山潤一(うしやま・じゅんいち)
慶應義塾大学 環境情報学部 准教授 

専門は運動生理学、神経科学。人間の身体運動はどのように作られ、コントロールされるのか、また、新しい運動技能はどのようにして獲得されるのだろうか、といったトピックに対し、脳波や筋電図などを用いた、神経科学的なアプローチで研究を進めている。さらには、これらの基礎科学的な知見を、スポーツ・楽器演奏あるいは脳や身体に障害を負った人に対するリハビリテーションに応用することにも取り組んでいる。

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