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2017.04.18

ペットはかわいいだけじゃない!人に与える健康と幸せのヒミツ【東京農業大学・太田教授インタビュー】

KenCoM編集部

古くから人間たちのパートナーとして親しまれてきた犬や猫。最近ではペットたちの愛くるしい写真や動画が次々とSNS上で公開され、書籍やグッズが販売されるなど注目が集まっています。多くの人たちが愛して止まない、ペットが与えてくれる癒しとは何なのか?

人と動物の関係性をテーマに研究を行う、東京農業大学・太田光明教授のお話から、そのヒントが見えてきました!

<お話を伺った方>太田光明教授

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■太田 光明氏
東京農業大学 農学部バイオセラピー学科 動物介在療法学研究室教授・農学博士。
東京大学畜産獣医学科卒業。動物が人に与える効果を研究し、東京大学、大阪府立大学、麻布大学などで学生の教育に当たった。「高齢者がペットを飼うことで医療費の削減が期待できる」という切り口から動物介在療法・活動の可能性を探り、犬や猫を中心に多数の論文や著書を執筆している。

ペットを飼うことで人は健康になれるのか?

ペットとの絆が「幸せホルモン」を生み出す

個人差はあれども、ペットを飼うことで人は健康に「なれる」と考えています。例えば犬を飼った場合、散歩は日課としてやらなければなりません。そうすれば健康に大切な歩く習慣が自然と身につきます。

こうしたフィジカルな面に加えて、メンタル面にもペットの存在は重要です。最近の研究により、人とペットが接すると脳内では幸せや信頼を感じさせる「オキシトシン」が分泌されていることが分かってきました。

――どのような効果があるのでしょうか?

オキシトシンは母親が赤ん坊を抱くときに分泌されることから、「幸せホルモン」とも呼ばれています。このホルモンは男性も持っていて、恋人や家族といった心を許せる相手と一緒にいると分泌されることがわかりました。

このオキシトシンが、ペットと一緒にいても分泌されることが最近の研究から実証されはじめています。つまり、家族と一緒にいるときのような安心感、信頼感を得ることで幸せを感じられるんです。

――信頼が幸せに繋がるのは面白いですね。

また、飼い主と視線を合わせているとペットもオキシトシンを分泌していることが分かっています。相互に多幸感を得られるからこそ、本能的に人間のパートナーとして親しまれてきたのではないか、と思いますね。

犬の飼育での学びは、子育てにも活かせる

犬の研究を進めると、飼い主から「待て」「お座り」と言われた時にもオキシトシンが分泌されていることが分かりました。飼い主の期待に応えるためにがんばっているからで、後で褒められたりおやつをもらえたりすることを理解しているのです。人間でいうやる気が出ている状態ともいえるでしょう。

もちろんどの犬種でもいいわけではありませんし、なにより人とペットとの信頼関係が重要になってきます。

――人間関係でも同じことが言えそうですね。飼育におすすめな犬種はあるのですか?

日本の住宅サイズに合わせるならば、中型のビーグル犬や柴犬がオススメです。10キログラム前後であれば、万が一犬の足が不自由になっても運んであげられますから。犬も人も無理なく暮らせるサイズが大事です。

また育てるときは、褒める/叱るの割合を8:2にすることを意識しましょう。人と同じように、ペットには「嫌なことをされたら2度としない」という脳の仕組みが備わっているので、適切な叱り方は暮らしの上で重要です。犬を育てることで、子育てに活かせる学びも得られます。

――確かにペットだからと褒めるだけでは至らない部分も多いです。

犬を研究する人が多いため、ここまでわかってきていますが、猫を専門に研究する人材は少ないのが現状です。ただ、猫には独自の不思議な力があるのではないか、という議論がされていますよ。

自由気ままな猫の魅力は未知数

あのゴロゴロ音に癒し効果がある?

猫の持つ不思議な力とは、喉鳴らしの音にあります。2003年にアメリカのカリフォルニア大学UCデービス校の行動学者ベンジャミン・ハートが、あのゴロゴロ音には、人の骨折や傷を癒す効果があるとの仮説を唱えています。それは猫には狩りの修正があるので、その際に負った傷を治すのにこうした機能があるのではないかという説です。

また、飼い主の体調や機嫌が悪いと、このゴロゴロ音を聞かせて慰めてくれるともいいます。しかし、現状では研究が進んでいないので、精神的に満たされているという枠は出られないのが課題ですね。

――猫を飼うならどんな子がオススメですか?

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母猫と少しでも長くいた子がいいですね。猫の癖である甘噛みや爪を立てる際の力加減は、実は母猫が教えてくれるものなんです。こうした猫の社交性は人では教えられません。

――他にも猫を飼う上で良い点はありますか?

猫はキレイ好きな動物です。トイレはきちんと決められた場所でするし爪とぎも自分でできます。そのため、犬と比べると散歩がない分、飼育の手間がかからないことが良いですね。

ペットを飼うときに覚えておきたいこと

飼い始めは40代・50代がベスト

初めてペットを飼うなら、40代・50代からはじめるのがオススメです。高齢者になって急にペットを飼い始めてしまうと、ライフスタイルの変化から逆にペットがいることに苦痛を感じる可能性があります。それは毎日の散歩やトイレ掃除、身体が大きくなれば抱き上げるのも大変と、幸せや喜びを感じにくくなるからです。

だからこそ体力と気力が充実している40代・50代のうちにペットのいる暮らしを経験しておけば、高齢者になっても勝手が分かっているのでこうしたリスクを軽減できるはずです。

将来ペットが亡くなった時の"ペットロス"のために犬と猫を同時に飼う

ペットロスは避けて通れない問題です。そこで私が提案したいのは、犬と猫を1匹ずつ飼うこと。飼う時期をずらせば、ペットロスのショックを緩和できるのではないかと考えています。これは人間だけではなく、ペットたちにも有意義なことだと思います。

――2匹飼うことにどんな意味があるのでしょうか?

室内用のペットが1匹では、日中家族がいなければその子はずっと1匹で閉じこもることになります。犬と猫、もしくは猫2匹でも、相手がいれば一緒に過ごすことができるので、ペットのストレス対策にも有効だと感じます。彼らもストレスによって体調を崩すことだってあるんですよ。

ペットの持つ健康への可能性

太田教授が「タッチ」と言うと自然と手を出すしらゆきちゃん

太田教授が「タッチ」と言うと自然と手を出すしらゆきちゃん

もっとペットへの理解が深まれば、ペットのいるライフスタイルが当たり前になり、健康寿命をのばすひとつの要因になるかもしれません。例えば欧米ではペットの持つ癒し効果を、病気の治療に役立てる「介在動物」の動きも出てきているんですよ。日本でも医学的アプローチから研究が進めば、ペットの価値はより高まるのではないでしょうか。

ペットは人に癒しをくれる小さなパートナー

これまで「なんとなく」のイメージだったペットの癒し効果が、少しずつ解明されていることが分かりました。ペットとのコミュニケーションから『幸せホルモン』が分泌され、人もペットも幸せな気分になるというのは、苦楽をともにした友人や仲間のような関係といえそうです。

もちろん、実際にペットを飼うと単にかわいいだけではなく、一定の手間や労力はかかります。そのため、どんな世話が必要なのかを、事前に理解しておくことが大切です。ただペットを飼うことで得られる幸せは、この記事でご紹介した通りです。もし少しでも「飼ってみたい」や「動物が好き」と思っているなら、人生を彩る小さなパートナーたちに目を向けてみてくださいね。

(取材・文・撮影:KenCoM編集部)

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