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2017.03.02

旅で健康になれる?ヘルスツーリズムのすすめ【健康旅特集①】

KenCoM編集部

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古今東西、人は旅をします。
古くはメッカやエルサレムへの巡礼の旅、三蔵法師は仏典を求める旅、新大陸を求めたコロンブス、世界一周を達成したマゼランなど。
彼らは新しい何かを求めて、命がけで旅をしました。

時は変わって現代、中世までと比べると随分気軽に海外へも旅立つことができるようになりました。
では現代における、その旅の価値を、改めて考えてみたいと思います。

現代では、余暇の1つとして、旅は活用されていますが、実は健康を目的とする”ヘルスツーリズム”の実施や研究が進められているとのこと。

旅で健康になれるとは本当でしょうか?
今回は「ヘルスツーリズム」を研究テーマとし、官公庁、大学、旅行会社、施設等と様々な研究活動を進めている琉球大学大学院・観光科学研究科教授の荒川雅志先生にお話を伺いました。

<お話を伺った方>荒川雅志先生

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■荒川雅志(あらかわ・まさし)先生

1972年福島県生まれ。琉球大学観光産業科学部・観光科学研究科教授。
大学時代に始めたパワーリフティング競技で全日本学生選手権(56kg級)優勝、アジア選手権代表に選出された。卒業後は、トレーナーとして従事。その後、琉球大学大学院教育学研究科修了、福岡大学大学院医学研究科社会医学系修了。医学博士。長寿者のライフスタイル研究、沖縄健康素材の研究、地域資源を生かした日本型ヘルスツーリズムのモデル開発を全国で行う。日本の大学で初の「ヘルスツーリズム論」専門科目を開講。ヘルスツーリズム研究の第一人者、海洋療法学者。

旅で健康になれるってホント?

うつ病に対する旅の効果は報告されている

――“ヘルスツーリズム”というのは、健康を目的とした旅だと理解していますが、実際に、旅で健康になれるのでしょうか?

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2005年BMJ(British Medical Journal)の研究で、南米のホンジュラスで2週間かけて行われた調査があるんですね。軽度のうつ病の人をホンジュラスの島に連れて行って、海の美しい場所に滞在させるんです。“ドルフィン療法”というイルカと一緒に泳ぐセラピーを行ったグループと、イルカなしで泳いだグループとの両者でうつの改善傾向が見られたそうです。
2週間、その地域ならではの資源(今回の場合は海・イルカ)を活用しての滞在が、うつの改善に効果があるということが、証明されたのです。

一般に、ヘルスツーリズムというとメタボ対策の旅が多いのですが、実は旅の効果というのは、心への効果が一番大きいのではないかと私は考えています。

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――メンタルヘルスは大きな社会課題の1つですね。

そうなんです。WHO(世界保健機構)の発表した調査によると、2020年には、世界の死因の第2位が精神疾患からの死亡になる、と言われているんですよ。日本でもメンタルヘルスへの対策は急がれていますし、今後このメンタルヘルス市場は拡大していくと考えています。

ストレス対策は社会的に力を入れていくべき課題の1つだと思います。企業が社員のリフレッシュのために、社員旅行等に投資をすることで、メンタルケア、生産性の向上などにつながるのではないかと。
もちろん長期は難しいと思いますが、できれば2泊3日、少なくとも1泊2日で、1年に1回でも時間を作ることが望ましいですね。

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そもそもヘルスツーリズムって?

地域の資源を生かした、健康を目的とする観光旅行

――そもそもヘルスツーリズム、というのは何でしょうか?

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日本が観光立国を目指す中で、ニューツーリズムといって、エコツーリズム(※)、グリーンツーリズム(※)、産業旅行など、新しくテーマ性の強い旅が観光庁を中心に発信されていますが、その流れの1つとして、「ヘルスツーリズム(※)」が生まれました。
ちなみに、政府が観光立国を目指す中で、文部科学省から琉球大学に観光科学科を作るようにというお達しがありました。そのため琉球大学に観光科学科が出来たんです。

観光資源という価値を、「健康資源」としていかに活用するかということを日々研究しています。
実は、あらゆる観光の資源が健康資源として生かすことができるんです。

※編集部注:エコツーリズム、グリーンツーリズム、ヘルスツーリズムともに平成19年の観光立国推進基本計画で定義されています。エコツーリズムとは「観光旅行者が、自然観光資源について知識を有する者から案内又は助言を受け、当該自然観光資源の保護に配慮しつつ当該自然観光資源と触れ合い、これに関する知識及び理解を深める活動」、グリーンツーリズムとは「農山漁村地域において自然、文化、人々との交流を楽しむ滞在型の余暇活動で」、ヘルスツーリズムとは、「自然豊かな地域を訪れ、そこにある自然、温泉や身体に優しい料理を味わい、心身ともに癒され、健康を回復・増進・保持する新しい観光形態」と定義されています。

――観光資源というのは具体的に何でしょうか?

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地域固有のあらゆる素材を表します。そのなかでも、気候・自然・食・文化の4つが優れていること、揃うことが、世界的な保養地、リゾートになり得る条件と言われています。これを健康という側面から照らした時にどう活用できるかというのを考えています。

私のいる沖縄の場合は、海が重要な観光資源ですが、海は人類最古の治療の場だったとも言われています。海水浴、レジャーというこれまで観光資源としてだけの活用から、健康資源として活用するために、全天候型の海洋療法(タラソテラピー)施設と共同研究も行っています。

ヘルスツーリズムには主に3つの価値が必要だと考えています。

  1、機能的価値
  2、安全・安心の価値
  3、情緒的価値

まず機能的価値というのは、エビデンスで証明する効果のことですね。また、安全・安心はヘルスケアなので前提として必要です。さらに、この2つのみでは不十分で、作り手の思いや、背景となるストーリーや文化などを生かした情緒的価値が必要になります。この3つが揃うことで「行きたいな」となるんですね。

大学では1の機能的価値の証明をし、それを広く世間に伝えていくことを支援しています。

沖縄で最大の観光資源、海を生かした旅のプログラム

――タラソテラピーというのは、具体的にどんなことが行われるんですか?

ビーチサンドウォークも沖縄ならではのヘルスツーリズム
(写真提供:荒川雅志教授)

ビーチサンドウォークも沖縄ならではのヘルスツーリズム (写真提供:荒川雅志教授)

たとえば、海水のプールに入ったり、浮力を生かした水中運動をしたり、海の地形・海岸線を生かして砂浜を潮風に当たりながらウォーキングをしたりします。それから、海の素材、たとえば海藻を使ったスパもあります。また、海草を食べたり(スパの世界では“スパ・キュイジーヌ”という)、海泥でパックをしたり。日本でも古来から海に浸かったり潮風を浴びる「潮湯治」というのがあるんですよ。

ヘルシーな素材を生かした食事療法、スパキュイジーヌ
(写真提供:Chiva-som)

ヘルシーな素材を生かした食事療法、スパキュイジーヌ (写真提供:Chiva-som)

――いろいろあるんですね!聞いているだけでも気持ちよさそうです。効果というのはいかがでしょうか?

水の抵抗性を指圧効果として生かす療法”Water Shiatsu”すなわちWATSU (写真提供:沖縄WATSUセンター)

水の抵抗性を指圧効果として生かす療法”Water Shiatsu”すなわちWATSU (写真提供:沖縄WATSUセンター)

やはり、リラクゼーション効果・癒し効果が大きいと言われています。
たとえば、水の抵抗性を指圧効果として生かすWATSU(ワッツ)という療法もあるのですが、その第一人者が沖縄に移住してきたこともあり、カンナタラソラグーナという海洋療法施設で行われています。
ワッツでは、「よく眠れるようになる」「不定愁訴が改善する」「プチうつがよくなる」などのことが、我々の研究でわかっています。

海藻を使ったスパ(写真提供:ザ・テラスホテルズ)

海藻を使ったスパ(写真提供:ザ・テラスホテルズ)

ヘルスではなく、豊かさを含めた"ウェルネス"を目指したい

――これらを通じて、健康になっていけると考えてよいのでしょうか?

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健康になれる、ということについては、まず、健康の定義を明確にした方がいいと考えています。

そもそも僕は、健康には2種類あると思っているんです。1つは英語で「health」という概念で、ある意味不健康な人を対象とする「不調を改善する」というイメージです。もちろん、不健康を改善することは大事ですが、それよりも「wellness」という、生きがいや楽しさ、人生の豊かさを含む健康観が重要だと思います。より幸せや豊かさを感じられる生き方をするために、旅を活用いただきたいのです。
ですので、たとえ数日の旅でも、“ウェルネス”と言う意味での健康になれると考えています。
旅は一過性のものなので、医学的な定義の中で体重が減少した、メタボが改善した、という効果を求めるのは難しいと思いますが、ただ、生活習慣を変えるきっかけは作れるはずです。このきっかけづくりこそが実は、最新の行動変容理論でもあるのです。

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――ウェルネスですか!いい言葉ですね。ちなみにメタボ改善はできませんか?

転地療法と言いますが、昔から「湯治」や「保養」というような体を癒すような旅は1週間以上、できれば1~3ヵ月の旅が基本です。体を変えるにはそのぐらい必要だと思いますが、普通のビジネスパーソンに長期のお休みを取ることは難しいと思うのです。一方で、宿泊型新保健指導という新しい特定保健指導が厚生労働省研究班で開発されました。これは、やはり生活習慣を変えるきっかけを旅で作り、心を変えて、そして帰った後に健康行動を取り始めるというものです。

ちなみに、実際は僕自身、健保さんからの相談を受けることもありますが、メタボ改善よりも、「メンタルを何とかしてほしい」という相談が多いんですよ。
なので、(既にうつ病の方の治療は難易度が高いと思うのですが)社員旅行に行くなら、社員が「リフレッシュできた」や「生産性が上がった」と感じること、引いてはうつ病の予防を目的として行うのがよいと思いますよ。

たくさん歩いたり、プログラムをぎゅうぎゅうに詰め込んで大変なヘルスツーリズムのプログラムは、むしろ逆効果です!(笑)

――ちなみに最低何泊あればよいでしょうか?

なかなか休みが取れないという声も多いのですが、できれば、2泊3日、最低でも1泊2日は使っていただきたいですね。沖縄なら海洋療法ですが、都内近郊でしたら、温泉施設もよいと思います。

旅の効果の本質は?

旅で日ごろのダメージを払拭し、心と体をリセット

――なるほど。では、ビジネスパーソンにとっての旅はどう活用すればよいでしょうか?

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ツーリズムの本質は“保養”“魂の癒し”です。ですから、帰ってから元気になれるような「リフレッシュ」「リセット」の旅が大事なんです。日常生活の中では回復しきれない、蓄積したストレスやダメージを払拭することを目的とするのがよいと思います。
最低1年のうち3日以上。できれば1週間以上の休みをとって、心の底からリフレッシュ、リセットする旅をおすすめします。

1年の延長は、人生なんですよ。
だから、日本人が1年の中に、すなわち、人生の中に当たり前のように旅を組み込むような時代が来てほしいと思っています。

ヨーロッパでは政策として3週間以上のバカンスを取ることを定めている国もあります。日本人に3週間は難しいですから(笑)、最低1年間1回、3日間です。

――1年の延長は人生!本当にそのとおりですね。

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第1回は、心身の健康に効く旅の効能について伺いました。
旅は心のリセットなんですね。皆さん、1年に3日、旅に出かけられそうでしょうか?

次回第2回では、荒川先生自身の旅のご経験や人生の中での印象的な旅についてお伺いし、さらに第3回で、具体的なおすすめの施設や過ごし方について伺いたいと思います。
次は3月6日(月)公開予定です。

(取材・文・撮影:KenCoM編集部)

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参考文献

Christian Antonioli,et al. Randomised controlled trial of animal facilitated therapy with dolphins in the treatment of depression. BMJ 2005;331(7527):1231.

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