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2023.09.07

「あせも」対策にベビーパウダーは有効?皮膚科専門医が解説

Lumedia

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まとめ

●あせも対策にベビーパウダーが良いといわれることがあるが、適切な研究で効果が示されたケースはない。
●米国の政府機関や医学会では「ベビーパウダーはあせもに効かない」「逆効果かもしれない」といった報告もなされている。
●あせも対策としてベビーパウダーは推奨されないのでご注意を。

皮膚科の外来では、患者さんから「ベビーパウダーって、あせも対策に良いんですよね?」というご質問をいただくことがあります。

確かに、ベビーパウダーは「赤ちゃんのあせもや、おむつかぶれに効果的」とメーカー等が宣伝するケースがあります。また、ベビーパウダーという名称ですが、大人のあせも対策としてベビーパウダーが使われることもあるようです。

身近な製品であるベビーパウダーを使うだけで、あせもを予防したり治したりすることができるのであれば、とても便利ですよね。
では、本当にベビーパウダーはあせもに有効なのでしょうか?

今回の記事では、皮膚科専門医が「ベビーパウダーはあせも対策に良いのかどうか?」について検証してみます。

この記事を書いた医師

やさひふ(Yasahifu)
医師 / 皮膚科専門医 / 医学博士

Lumedia 編集長。怪しい医療情報に惑わされる患者さんを多く見た経験から Lumedia の立ち上げを決意。 皆さんのすこやかなお肌を守るため、Twitter で科学的根拠に基づいたスキンケア情報発信中。

【目次】
1.ベビーパウダーはあせもに有効なのか?
2.世界の専門家はベビーパウダーを推奨しているのか?
3.適切な対策で正しく皮膚トラブルを乗り越えましょう!

ベビーパウダーはあせもに有効なのか?

結論から言うと、「あせも対策にベビーパウダーが良い」という説には、現時点では特に適切な根拠がありません。
ベビーパウダーがあせもを予防したり、治したりできるのかについて調べた結果を報告した論文が、残念ながらこれまでに存在しないのです (*) 。

そもそも、ベビーパウダーとは一体何でしょうか?
ベビーパウダーは、タルクという鉱物やコーンスターチなどを主な原料とした粉末です (参考文献 1) 。ただ、成分などに厳密な定義があるものではなく、医学的な裏付けのある製品とは言えません。

(*) 世界中の論文を検索できる PubMed や Google Scholar というデータベースで、「あせも ベビーパウダー」と英語で検索しても、その効果を実際に調べた研究論文は見つかりませんでした (具体的には、あせもを意味する “miliaria” や “heat rash” というワードと、ベビーパウダーを意味する “baby powder” や “talcum powder” というワードを組み合わせて検索しました) 。

世界の専門家はベビーパウダーを推奨しているのか?

では、「世界の専門家はベビーパウダーをあせも対策に推奨しているのか?」を調べてみましょう。

まず、世界の医師の教科書とも言える「UpToDate」という Web サイトでは、あせもの解説ページでベビーパウダーについて言及すらしていません (参考文献 2) 。特に研究結果もありませんから、取り上げる必要性がないと判断しているのかもしれません。

次に、アメリカ合衆国保健福祉省 (日本の厚生労働省に相当します) が運営している MedlinePlus という Web サイトは、「ベビーパウダーは、あせもを治しませんし、予防しません」と明言しています (参考文献 3) 。

さらに、アメリカ家庭医学会のホームページでは、「ベビーパウダーはやめましょう。汗の出口を余計に詰まらせてしまうかもしれません」と警告しています (参考文献 4) 。「効果がない」というよりは「有害かもしれない」というニュアンスで書かれているのです。

以前の記事『あせもの原因と対策を皮膚科専門医が解説!オススメの市販薬は?』でも説明していますが、そもそもあせもとは、大量の汗をかいてエクリン汗腺 (かんせん) が詰まることで生じる皮膚トラブルです。したがって、ベビーパウダーのせいで汗の出口がつまると、むしろあせもに悪影響が出るかもしれないのですね。

以上のように海外の医学サイトや学会による解説を見てみると、

●専門家たちはあせも対策としてベビーパウダーを推奨してはいない
●むしろ逆効果になる可能性を懸念している

というのが現状と言えるでしょう。

有効性がはっきりせず、副作用のリスクもあるとなると、あまり積極的に使う意味はなさそうです。

ちなみに、ベビーパウダーはおむつかぶれ対策としても医学的には推奨されていません。有効性が示されていないことに加え、赤ちゃんが粉を吸いこんだ場合に肺などに悪影響が出るかもしれないこと、皮膚から粉末が吸収された場合にむしろ毒になるかもしれないことが懸念されています。

前述した UpToDate ではベビーパウダーについて「有害な製品なので使用を避けましょう」と記載されています (参考文献 5) 。あせも対策もそうですが、市販品での対策がむしろマイナスに働くこともあるので要注意ですね。

おむつかぶれについては、おむつの頻繁な交換と洗浄によって、お尻が排せつ物にさらされる時間を短くすることで予防が可能です (参考文献 5) 。

適切な対策で正しく皮膚トラブルを乗り越えましょう!

今回の記事では、ベビーパウダーがあせも対策に有効なのかについて検証しました。
結果として、有効と言えるだけのデータはなく、むしろ逆効果のおそれもあることがわかりました。よかれと思って行った行為によって、症状が悪化しては残念ですよね。

あせもの対策や治療については、専門家が推奨している方法を以前の記事『あせもの原因と対策を皮膚科専門医が解説!オススメの市販薬は?』で解説しているので、ぜひそちらを参考にしてください。

適切な対策で正しく皮膚トラブルを乗り越えましょう!

COI

本記事について、開示すべきCOIはありません。

COIの開示基準については、日本内科学会の『医学研究の利益相反(COI)に関する共通指針』に準じています。より詳細はこちらをご覧ください。

参考文献

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