2023.06.01
スタミナ回復の救世主。アスパラガスを徹底分析【旬野菜図鑑】
©️yumi koizumi
野菜を多く食べる人は脳卒中や心臓病、ある種のがんにかかる確率が低いという結果が多くの研究から導き出されています。しかし、日本人の野菜類平均摂取量は、目標の350gに届かず「健康にいいことはわかっているが、十分な量の野菜を摂取できていない」のが現状です。
本連載『旬野菜図鑑』では毎月旬の野菜をピックアップ。栄養や選び方を、管理栄養士の前田量子さんに教えていただきます。
6月の旬野菜は“アスパラガス”です。関連記事では、アスパラガスの美味しさをシンプルに味わうレシピもご紹介しておりますので、合わせてご覧ください。
アスパラガスの魅力
独特な歯応えと甘みが美味しいアスパラガス。炒め物や肉巻きなど、どんな料理にも合う名脇役。そんなアスパラガスには、実は注目すべき栄養がたっぷり詰まっているのです。
スーパーなどの店頭では通年出回りますが、露地栽培の旬は5~6月頃。今回はアスパラガスの栄養、選び方、保存方法までご紹介します。
【栄養】疲労回復やスタミナアップに役立つ!
アスパラガスはアスパラギン酸というアミノ酸とルチンという成分が特徴です。アスパラギン酸は、栄養ドリンクに含まれるほど疲労回復効果が期待できる栄養素。ほかにもたんぱく質や様々なミネラル、ビタミンが含まれています。
アスパラギン酸
アスパラガスに多く含まれる栄養素で、名前の由来もアスパラガスから発見されたから。アミノ酸の一種で、体内では作れない必須アミノ酸です。アスパラギン酸はエネルギー代謝にかかわるため新陳代謝を高めたり、疲労回復やスタミナ増強が期待できます。
ルチン
食事摂取基準には記載されていませんが、ビタミン様物質(※)であるルチンが穂先に含まれていると言われています。ルチンはビタミンPとも呼ばれ、ビタミンCとともに血管を強くする働きがあります。そのため脳卒中など出血性疾病の予防、血圧低下作用も期待されています。
※ビタミンと似た重要な働きをしていますが、体内合成量で足りて欠乏症がないことからビタミンとは区別されている栄養素です。生命維持のため必要というよりは、疾病予防や健康維持の役割が注目されています。
ビタミンE
末梢神経を広げ、血行を良くする働きもあることから肩こりや頭痛冷え性など、血行不良から生じる不調の改善にも期待される栄養素です。生のアスパラガス(100g)には1.5mgが含まれ、成人の摂取目標である平均6mgの25%が摂れます。脂溶性ビタミンのため、食用油や種実類に多く含まれる傾向にあり、カロリーも必然的に上がってしまうのですが、アスパラガスはたったの21kcal。低カロリーで、ビタミンEがしっかり摂れる貴重な存在です。
さらに、ビタミンEは、広く細胞膜に存在しており、細胞の老化を防ぐことから生活習慣病の予防効果が期待されています。また、血液中LDLコレステロールの酸化を防ぐため、動脈硬化予防にも欠かせない栄養素です。
葉酸
葉酸は細胞の新生や造血作用を促す栄養素です。細胞膜の増殖が盛んな胎児が正常に発育するために特に重要な栄養素であり、妊婦、授乳婦は積極的に摂るとよいでしょう。
また、ビタミンB12とともに赤血球のもととなる赤芽球が作られるのを助けるため造血のビタミンとも呼ばれています。生のアスパラガス(100g)には190μg(マイクログラム)含まれており、成人男性女性ともに推奨量の約80%を摂れます。
カリウム
カリウムは体液の浸透圧を調整したり、神経や筋肉の情報伝達にも関係している栄養素で特筆すべきは塩分排出作用でしょう。そのため血圧低下、脳卒中予防につながることが様々な実験や疫学調査により分かってきています。
カリウムを多く含む食材は、野菜全般、きのこ、海藻、芋類、大豆や果物などが知られています。生のアスパラガス(100g)にはカリウムが270mgが含まれており、成人男性の目安量の10%、女性の10%以上を摂ることができます。
特有の栄養素:アスパラプチン
最近、理化学研究所が発見したアスパラ独自の成分“アスパラプチン”。これは血圧の上昇を抑える働きがあるとされ、アスパラガスの“はかま”部分に多く含まれていると考えられています。はかまは、茎についている小さな三角形の葉のような部分です。せっかくの栄養素ですので、アスパラガスを食べる時は、はかまを取らずに調理しましょう。
【選び方】美味しいアスパラガスの特徴は?
新鮮で美味しいアスパラガスは、濃い緑色をしています。
・全体的に緑色が濃い
・太さが均一
・切り口が変色しておらず、みずみずしい
・穂先はピンとし、穂がしっかりしまっている
スーパーに並んだたくさんのアスパラガスから、上記の特徴をチェックして新鮮で美味しいものを選びましょう。
【保存法】アスパラガスは立てて保存しよう
冷蔵保存する
アスパラに含まれる葉酸は、光や熱に弱く、日の当たる場所に放置しておくだけで葉酸が分解されてしまうといわれています。購入後は、乾燥しないようにラップで包むか、保存袋へ入れてすぐに冷蔵庫へ。早めに食べるようにしましょう。
冷蔵庫では、立てて保存するのがおすすめです。アスパラガスは上に伸びていく性質があるため、横にして保存すると上に向かって伸びようとして、エネルギーを消費してしまいます。
冷凍保存する
栄養重視なら“生のまま冷凍保存”
すぐには食べきれない場合は、冷凍保存がおすすめです。凍ったまま炒め物や煮物、揚げ物などに使うことができます。
硬い部分をピーラーで剥いてから保存袋のサイズに合わせて切り、食べやすい量ごとにラップに包んで保存袋に入れてから冷凍しましょう。
手軽に調理したいなら“加熱してから冷凍保存”
加熱してから冷凍保存する場合は、硬めにゆでましょう。これは解凍したときに、やわらかくなりすぎるのを防ぐためです。
上手に加熱する方法
お湯でゆでる場合
1. 皮が硬い下部の部分をピーラーで剥く。
2. なるべく直径の大きなフライパンや鍋に3cmほどの水を入れ、沸騰したところに入れて1分ほど目安にゆでる。この時アスパラは、なるべく切らないほうが栄養成分を逃さず美味しく仕上がる。ゆで時間は太さによっても変わるため、固めを意識し加減する。
3.網にとって水にさらさず、冷凍する場合は、なるべく涼しいところで冷ます。
レンジ加熱する場合
1. アスパラは長さがあるため、クッキングシートに並べて包む。または耐熱皿にのせてラップをかけてもよい。アスパラガス100gあたり電子レンジ600wで1分を目安に加熱する。
2. 水にさらさず、冷凍する場合はなるべく涼しいところで冷ます。
“生のまま冷凍”と”加熱してから冷凍”はどちらがいい?
保存する場合、加熱後と生のまま、どちらが良いかを比べてみました。今回は、
加熱する①:ゆでてから冷凍
加熱する②:レンジ加熱してから冷凍
加熱しない:生のまま冷凍
の3パターンで比較しました。
【加熱してから冷凍のメリット】
・解凍するだけで食べることができるため、サラダのトッピングやお弁当にそのまま使える
【生のまま冷凍のメリット】
・加熱することで減ってしまう栄養素の損失を防げる
・保存方法がラク
・食感がよい
生のまま冷凍したほうが、若干苦味を感じるものの食感が良いという結果になりました。見た目は、色味はどちらもほぼ同じ、加熱してから冷凍したものは皮部分にしわが寄りやすいです。個体差や太さによっても味わいが異なるため、ご家庭の調理シーンに合わせて保存方法をお試しください。
【豆知識】太いものと細いものどちらを選ぶ?
旬の時期は、いろいろな太さのアスパラガスが出回ります。基本的にはお好みの太さを選んでよいですが、おすすめは太いもの。アスパラガスの下処理で下部の硬い皮をピーラーで向きますが、細いものは中心の柔らかい部分がより少なくなってしまうからです。
また、同じ金額でも細いものは本数が多い傾向でお得に感じますが、皮の損失や手間を考えると太い方が経済的です。
旬野菜を食卓に取り入れて、美味しく健康的な生活を
多くの研究で、野菜を多く食べる人は脳卒中や心臓病、ある種のがんにかかる確率が低いという結果が出ています。『健康日本21(第二次)』によると、生活習慣病などを予防するための目標値のひとつに
野菜類を1日350g以上食べること
が掲げられています。毎日の食卓に、旬の野菜を取り入れて、美味しく健康な食生活を送りましょう。
記事情報
引用・参考文献
著者プロフィール
前田 量子(まえだ・りょうこ)
管理栄養士 野菜ソムリエ ロジカル調理研究家。
著書『ロジカル調理』『ロジカル和食』『考えないお弁当』をはじめ、電子レンジの加熱時間や法則を書いた『ロジカル電子レンジ調理』が2022年2月に発売。調理科学で普段のもやもや悩みをすっきり解決 。スーパーの食材で本当に美味しく&家族が楽しみにしてくれる定番家庭料理を作れるようになる料理教室主宰。
制作
文・レシピ:前田量子
イラスト:小泉由美