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2023.03.17

物忘れを防ぐ!? 良い生活習慣で脳の働きを活発に【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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「アレ、なんだったっけ?」と、さっきまで覚えていたことが思い出せない物忘れ。加齢現象として誰にでもあることですが、できることなら身体だけでなく脳機能も健康をキープしたいところです。

今回ご紹介するのは、British Medical Journal誌に、2023年1月25日ウェブ掲載された、加齢に伴う物忘れに対する、生活習慣の影響についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

加齢に伴う物忘れを防ぐには?

認知症の多くが物忘れから始まりますが、加齢に伴う物忘れ自体が、病気ということではありません。

加齢に伴って徐々に記憶を留めて置く能力が低下し、新しいことを覚えることが難しくなり、また短い時間で確認した事項を忘れてしまうことが多くなるのは、「生理的な範囲の加齢現象」というように考えられています。

そうは言っても、加齢に伴う物忘れを予防したい、記憶の働きを若いままで保ちたい、というのは、殆どの方が希望していることではないかと思います。

認知症とその前段階である軽度認知機能障害の予防のためには、食生活や運動、禁煙や節酒などの、所謂「健康的な生活習慣」が、重要であることが、これまでの多くの疫学データから分かっています。

ただ、これは病気としての認知症のリスクについてで、生理現象としての物忘れは含まれていません。

それでは病的ではない自然の物忘れの予防にも、生活習慣の改善は有効なのでしょうか?

生活習慣と物忘れの関係を調査

今回の研究は中国において、60歳以上の認知機能低下のない一般住民に、食生活や運動習慣、社会生活などの生活習慣の調査を施行。

またアルツハイマー病の遺伝的リスクとして知られている、アポE遺伝子のε4という変異の有無を検査し、その後の物忘れの進行と認知機能低下に対する、生活習慣の影響を検証しています。対象は平均年齢が72.23歳の29072名で、10年を超える長期の経過観察を行っています。

生活習慣としては、野菜や魚、食物繊維を多く摂り、動物性脂肪を控えるなど、健康長寿に結びつくと考えられている食生活、1週間に中等度までの強度であれば150分以上の運動習慣、地域の活動などへの週2回以上の社会参加、知的ゲームをするなどの週に2回以上の脳を使う活動、喫煙や飲酒の有無の6項目が取り上げられ、悪い状態(健康的な項目が皆無か1項目のみ)に対する、良い状態(上記項目の4項目以上で健康的)の、物忘れに対する影響を検証しています。

その結果、生活習慣が悪い状態と比較して良い状態を維持していると、物忘れの長期の進行が、有意に抑制されることが確認されました。これはアポEの遺伝子変異のあるなしで違いはなく、アポEε4陽性群でも同様の効果が認められました。

生活習慣が悪い状態に比較して良い状態であると、軽度認知機能障害のリスクは29%(95%CI:0.68から0.73)、認知症と診断されるリスクは89%(95%CI:0.10から0.12)、いずれも有意に低下していました。

個別の生活習慣毎に見ると、最もその有効性が高かったのが食事で、次に脳を使う活動の習慣、運動習慣の順になっていました。

良い生活習慣が、認知症と物忘れの両方を予防する

このように、一般的に良い健康習慣とされる、食事、運動、禁煙などの生活習慣を継続することにより、認知症のリスクのみならず、病気ではない物忘れの進行も予防が可能であることが、今回のデータからは明確に示されていて、脳の働きの維持のためには、生活習慣の重要性が大きなものであることは、ほぼ間違いがないと言って良いようです。

記事情報

参考文献

著者/監修医プロフィール

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36