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2021.07.14

運動不足、ストレス増。コロナ禍の閉経期女性が気をつけるべきこと

kencom公式ライター:森下千佳

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新型コロナウイルスにより外出頻度が減り、家庭との時間が増えた一方で、人との関わりや、趣味の時間が持ちにくくなるなど生活が変化しました。

この環境変化が、心身ともに体調を崩しやすい閉経期前後の女性の心身にどう影響を及ぼしているのでしょうか。京都大学医学部産婦人科・池田裕美枝先生に聞きました。

更年期障害を理由にキャリアを諦める女性が増加?

現在の更年期(45歳〜55歳頃)にあたる女性は、バリバリ働く現役世代。第2次ベビーブームに当たり、現在仕事に就いている女性の4人に1人が更年期を迎えていると言われるほどです。

しかし、池田先生によると、その世代の女性の中には更年期障害を理由に昇進を辞退したり、退職したりする場合も多いそうです。めまいや倦怠感、鬱状態はホルモンの影響で一時的なものですが、この時期に会社を休んでしまうなど、今までのように仕事ができなくなり、働く自信がなくなってしまうのです。

そして特に今、診察をしていて感じるのは、コロナによる経営不振なども重なっているのか、更年期障害を理由にキャリアや収入を失って生活を追い込まれている方が増えていること。働きながら更年期障害を経験する女性が増えるにも関わらず、周りの理解や社会制度が追いついていないのです。

コロナ禍で、更年期症状の悪化も

さらにコロナによる影響で、更年期障害の増加も懸念されています。

長い外出自粛やフィットネスジムの休業などで運動機会が減った結果、運動不足になる人が増えています。また、外出機会が減ると日光に当たることで活性化する「ビタミンD」が不足します。筋肉量の減少やビタミンD不足により、骨粗鬆症や関節疾患が増える可能性があります。

いわゆる「コロナ太り」も実感している方は多いのではないでしょうか。ストレスで自律神経が乱れ、様々な更年期の症状が悪化したり、閉経後の方々では糖尿病、高血圧などの生活習慣病全般が増えることなどが、十分考えられます。

更年期の不調改善、まずは何から始めるべき?

呼吸をコントロールして、自律神経を整える

更年期障害は、交感神経と副交感神経の2つからなる自律神経を整えることが一番の解決策です。

私たちの内臓はほとんどすべて、自律神経によって自動的にその機能が調整されているため、私たちの意思で自由に動かす事はできません。しかし、唯一「肺」だけは、私たち人間が意識的にその動きを調節できる臓器です。

ゆっくりした呼吸をすることによって副交感神経を優位にすることができます。ほとんどの自律神経異常は交感神経過多によるものなので、ゆっくりした呼吸で副交感神経優位の状態を一定期間保つことが症状改善につながります。

日常的に、ゆっくりと呼吸することも効果的ですし、呼吸と全身運動を組み合わせたヨガやピラティス、太極拳などもおすすめです。最近では、オンラインでできるクラスも増えているので、ぜひ生活に取り入れてみてください。

セロトニンを上げて、「更年期ウツ」を防げ!

女性ホルモンのエストロゲンが急激に減少すると、脳内の神経伝達物質「セロトニン」が不足します。精神の安定が崩れやすくなり、不安や、悲しみ、イライラ、怒り、恐怖など、さまざまなネガティブな感情が暴走しやすくなります。
ですから、更年期の時期は「意識的にセロトニンを上げる習慣」を取り入れましょう。

セロトニンは日光を浴びたりリズミカルな運動を行うことで活性化されます。朝、日光の下で毎日15分程度ウォーキングやランニング、縄跳びなどをしてみましょう。

更年期を軽く、楽に乗り越えるために「最も大切な事」

自律神経のバランスを整えるために最も大切なことは、「自分を優しくいたわる」ことです。

ストレスや自分を追い詰めるような考えは、更年期症状を悪化させます。この時期の不調や体力、やる気の喪失は「ホルモンのせい」で「あなたのせい」ではありません。そして、更年期はエストロゲンの減少が落ち着けば必ず終わります。更年期の時期は仕事も家事もこれまでの6〜7割くらいできていればよしとして、自分をいたわることを意識してみてください。

また、必要に応じて婦人科に相談したり、セルフケアも忘れないでください。
頭が痛かったら鎮痛剤を飲むように、風邪気味のときは栄養をとって早く寝ようと心がけるように、更年期が原因で自分の身体に不調を感じているなら自分にお手当てをしなくてはいけません。様々な不調は、心と身体が「助けて」と言っている証しです。後回しにすると、そのうち後戻りができないほど悪化する可能性もあるので、覚悟を持って向き合って欲しいと思います。

更年期の不調への向き合い方が、健康な老後を導く

日本人女性の平均寿命は86歳です。一方で、女性の健康寿命は73歳と言われています。多くの高齢者が、人生の最後13年間を要介護で生きているわけです。

女性が要介護になる主な理由は、「骨折」「関節疾患」「認知症」。これらの疾患は、どれも女性ホルモンの減少が関係しています。
男性に比べて女性はもともと骨も細くて骨密度が低いのですが、更年期に女性ホルモンが下がると、ガクッと骨密度が落ちます。全身の骨がもろくなりやすく、軽く転んだだけで骨折しやすくなってしまいます。また、女性ホルモンによって柔らかく保たれてきた関節周りも痛みや炎症が頻発しやすくなります。
認知機能にも女性ホルモンは影響していて、更年期の女性は物忘れが激しくなる傾向があります。

このように女性ホルモンは全身に作用していますが、閉経したら皆が病気になるわけではありません。元気でイキイキしたおばあさんは周りに沢山いらっしゃると思います。女性ホルモンがなくなっても、ご自身が生活スタイルを変え、ケアをすれば大丈夫なのです。
だからこそ、更年期を迎える女性はこの過渡期をきっかけに正しい知識を身につけ、自分の身体に向き合い健康に投資することで、これから待っている素敵な人生に備えることができます。

更年期に向き合うことが、日本の未来を変える

こう言った話は、なかなか自分ごとにできないかもしれません。
しかし、長期的な視点で考えると、今ご自身が自分の健康のために投資をするということは、将来の子どもや孫のためでもあります。また、増え続ける日本の医療費の問題を考えれば、一人ひとりが健康でいる事は小さくも確かな社会貢献でもあります。

ぜひ、ご自身の健康を振り返るきっかけにしてください。

池田 裕美枝(いけだ・ゆみえ)

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京都大学医学部 産婦人科 医師
2003年京都大学医学部卒業。舞鶴市民病院、洛和会音羽病院にて総合診療科研修後、三菱京都病院での産婦人科研修、神戸市立医療センター中央市民病院産婦人科副医長などを経て現職。リバプール熱帯医学校リプロダクティブヘルスディプロマ修了。2013年米国内科学会fellowship exchange programにてメイヨークリニックで女性医療研修。1児の母 2016年「総合診療医ドクターG」に出演。日本産科婦人科学会専門医、日本女性医学学会女性ヘルスケア専門医、日本内科学会認定医、日本プライマリケア連合学会認定医、日本医師会認定産業医

著者プロフィール

■森下千佳(もりした・ちか)
フリーエディター。お茶の水女子大学理学部卒。テレビ局に入社し、報道部記者として事件・事故を取材。女性ならではの目線で、取材先の言葉や見過ごされがちな出来事を引き出す事を得意とする。退社後、ニューヨークに移住。当時、日本ではなかなか手に入らなかったオーガニック商品を日本に届けるベンチャー企業の立ち上げに関わる。帰国後、子宮頸がん検診の啓発活動を手がける一般社団法人の理事を経て現職。一児の母。

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