メニュー

2021.06.19

意外と知らない「アク(灰汁)」のこと。全部取り除いたらダメなのはなぜ?

kencom公式:管理栄養士・磯村優貴恵

記事画像

おうち時間が長くなり、自宅で料理をする機会が増えた方や料理を始めたという方も多いのではないでしょうか。

今までは適当にやり過ごしていた下ごしらえを丁寧にし始めると、意外と気になるのが「アク(灰汁)抜き」という工程。今回は料理をするときに気になる「アク」について、アクとは何か、なぜ「アクをとる」という工程があるのかなどお話しします。

アクとは何か?

肉を煮込んだ時にもわもわと浮いてくる「アク」。ナスやごぼうなどの野菜の下処理の際にレシピに記載されている「水にさらしてアクを抜く」という言葉。
一体「アク」とは何なのでしょうか。

動物性と植物性ではアクの正体は異なりますが、一般的にアクはえぐみや苦味、渋味といった、口に入れたときに「まずい!」と感じるものになります。
これらを抜く(アク抜きをする)ことにより、食材のうまみを感じやすくなる上に、食感もよくなり、見た目にも美しく仕上がるとされています。

動物性のアクと植物性のアクの違いは?

前述のとおり、同じ「アク」でも動物性と植物性とでは正体が異なります。

肉をゆでたり煮たりしたときに白~茶色のもわもわとしたものが表面に浮いてきますが、この動物性の食材から出てくるアクは、タンパク質などが水に溶け出て熱によって変性したものです。
ここには栄養素やうま味も含まれているのですが、えぐみなど独特なクセなども溶け込んでいるために、アクを取り除くことでより料理を美味しく見た目良く仕上げられます。

一方で、野菜を調理する際に「水(酢水)にさらす」や「下ゆでする」といった記述があるのもアク抜きのためです。

植物は動物に食べられないように、自らえぐみや苦味など動物が嫌うものを作り出すことで、身を守って種の保存へとつなげています。それが植物性の「アク」になります。
寒い冬を乗り越えて暖かい春に芽吹く山菜にアクが強いものが多いのも、動物や虫から身を守るためなのです。

しかし、山菜などに多く見られる独特な苦味は、私たち日本人にとって「春の味覚」として好まれていることもあります。
また、ごぼうはアクを抜きすぎるとごぼう独特の風味も失ってしまうため、アクをどのくらい抜くかは食材によって変わってきます。

アク抜きは塊を狙え!

肉類から出るアクは、こまめに取ろうとするとなかなか取り切れないため、ある程度アク同士が集まって大きな塊になってからすくうと一度にたくさん取れます。

一般的にアク取りは、専用の目の細かいアク取り用の網を使うことで、美味しいスープはそのままにアクのみを取り除けます。
しかし、煮込み料理でアクが散ってしまい取りづらい時は、レードルの底を軽く煮汁(ゆで汁)の表面にあて、鍋の中心でくるくると円を描くように回して水流を作ると、鍋のふちに集まりやすくなりますよ。

アクを取る時は、水を張ったボウルを用意しておきましょう。取ったアクを網(レードル)ごと水に浸すときれいに洗い落とせて、次のアク取りの際に調理器具をきれいな状態で使うことができます。
その他にも、落とし蓋として厚手のキッチンペーパーや、くしゃっと丸めて凹凸を付けたアルミホイルを使えばアクが繊維や凹凸部分に絡まり取れやすくなります。

アク抜きの方法

野菜のアク抜きは加熱前に行うものと加熱することで抜くものがあります。

水にさらす

ごぼう、れんこん、ナスなどは切ってから水にさらすことでアクとなる成分が水に溶け出ます。
ごぼう、レンコン、ウドなどは水にさらす際に酢を少量加えると変色も防ぐことができます。

茹でる

ホウレンソウや春菊などの葉物野菜はさっと茹でることでアク抜きをします。
葉物野菜は長時間茹でると色が悪くなったり、葉がボロボロになったりしますので、あくまでも短時間にとどめましょう。
また、茹でた後に冷水にさらして水気を切ることで余熱による加熱防止になります。

とぎ汁や灰でアク抜き

大根も意外とアクが強いとされる食材ですが、茹でる時に米のとぎ汁を使うことでとぎ汁に残っている糠(ぬか)にアク」を吸着できます。
同様にタケノコも茹でる際に糠を加えてアク抜きをします。

山菜でおなじみの蕨(わらび)は、灰とお湯を混ぜ合わせたものにひと晩つけておくことでアク抜きをします。
これは灰のアルカリ性の性質を利用したもので、アルカリ性の液体部分にアクが溶け出てくるのです。

アクはうま味!取りすぎ注意

肉やごぼうなどのアクの中にはうま味や独特な香りも含まれますので、とりすぎてしまうと食材の良さを損なうこともあります。

野菜を水にさらす時は5~10分程度にとどめる、茹ですぎないなどといった点に注意すると、食べるときに不快に思われるアクはとりつつも、「風味」や「うま味」として必要な成分は残すことができます。
特にごぼうは水にさらすと水が変色するため、何度も何度も水を替えがちですが、ごぼうの風味を活かすためには水を何度も変える必要はありません。

冬場に行うことが多い鍋料理では、肉と野菜を一度に同じ鍋に入れていきますが、肉からも野菜からもアクが出てきます。
そのため、こまめにアクをとった方がほかの食材にアクが付着するのを防げますし、しゃぶしゃぶのように短時間の火入れで済むものは長時間食材を入れっぱなしにしておかないことも大切です。
アクは適度にとりつつもとりすぎには注意をしましょう。

素材の良さを活かして

上手にアク取りをすることで、料理はよりおいしく、きれいに仕上がります。
しかし、摂りすぎると食材独自の風味やうま味を損なうことにもなりますので、適度にとって食材の良さを活かした料理を楽しんでください。

磯村 優貴恵(いそむら・ゆきえ)

記事画像

大学卒業後、大手痩身専門のサロンにて管理栄養士としてお客様の身体をサポート。その際に具体的な料理提案の必要性を感じ、飲食店の厨房にて約3年間の料理修行を行う。
その後、特定保健指導を経て独立。現在は、茶道教室にて茶事講座や茶事での茶懐石の献立提案~調理を行うほか、子供から大人まで家族みんながおいしく食べられて健康になれるよう、レシピ・商品開発や執筆など幅広く活動中。

この記事に関連するキーワード