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2021.06.23

つながりが私たちの健康を左右する。運動でも栄養でもない健康づくりの新常識

東京都健康長寿医療センター研究所:村山 洋史

いつまでも元気でいるため必要なものはなんでしょうか。
私たちは健康維持のために意識的に身体を動かしたり食事に気をつけたりしていますが、研究によると、当たり前に言われていた運動や食事よりも健康長寿に影響することがあるといいます。

これについて、『「つながり」と健康格差』著者で、公衆衛生学と老年学を専門に研究する村山洋史(むらやまひろし)さんに解説していただきました。

長寿に影響するのは「つながり」だった

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健康は多くの人の関心事です。しかし、巷には健康に良いとされる運動や食品などの情報が溢れかえっています。学術研究をみても、様々なライフスタイルと健康との関連を調べた研究がたくさんありますが、一体、どういったライフスタイルが健康に良いのでしょうか。

これまでの研究結果をまとめ、「結局、何が一番長寿に影響するのか」を検証した論文が2010年に発表されました(1)。
図1はその結果です。グラフの棒が長いほど、長寿に強い関連を持っていることを意味します。タバコを吸わない、アルコールを飲みすぎない、運動する、太りすぎないといったライフスタイルが健康や長生きに良いのは誰でも知っていますし、皆さんも納得できると思います。しかし、それら以上に長寿に影響するライフスタイルがあったのです。それが「社会とのつながりを持つこと」でした。

Holt-Lunstad J, Smith TB, Layton JB. Social relationships and mortality risk: A meta-analytic review. PLoS Medicine 2010; 7(7): e1000316.(論文より筆者が図を作成)

Holt-Lunstad J, Smith TB, Layton JB. Social relationships and mortality risk: A meta-analytic review. PLoS Medicine 2010; 7(7): e1000316.(論文より筆者が図を作成)

この結果には、つながりと健康について研究してきた私たち研究者も驚きました。つながりと健康が関係するとはいえ、まさか禁煙や運動よりも強い影響とは思っていなかったからです。

私たちの健康は、自身の行動や意志のみで決まるわけではなく、知らず知らずのうちに周囲の人々の振る舞いや考え方に影響されています。
つながりは日常の中に当たり前のように存在し、わざわざ気に留める人は少ないでしょう。また、禁煙、禁酒、運動、ダイエットが長生きや健康につながるといわれても、それらに取り組むのはなかなか難しいものです。しかし、「普段の生活の中でのつながりが長生きや健康に良い影響を与えています」といわれると、すでに多くの人が持っているものですし何となく安心できます。

驚くべきつながりの威力。肥満は伝染する!?

おもしろい研究をご紹介します。米国の研究で、5000人以上の人が持つつながりを分析したものです(2)。その結果、驚くべき事実が分かりました。

・ある人Aが肥満だった場合、約50%の確率でその友達Bは肥満になる。
・Bの友達であるCは、Aと直接関係がなくても20%の確率で肥満になる。
・さらに、Cの友達であるDは、AとBと直接関係がなくても10%の確率で肥満になる。

なんと、肥満は「伝染」していたのです。もちろん、肥満は感染症ではありませんので実際には伝染はしません。しかし、まるで「伝染」しているかのような様子が観察されています。

実は、ここには人々が持つつながりが大きく関係しているのです。人間は、関係が近い人の考えや行動様式に影響されやすいことが知られています。この分析をしたハーバード大の元教授・クリスタキスは「行動の模倣」と呼んでいます。
これは、ミラーニューロンという脳内神経細胞が関与していることが脳科学で証明されています。肥満になるような食生活をしている友人が近くにいると、それだけで自分も同じような食生活になりやすくなるのです。

また、周囲に太った人がいると肥満に対する認識や態度が寛容になりがちです(「規範の広がり」と呼ばれます)。そのため、周囲の人は肥満というものを許容しやすく、結果として肥満になりやすかったわけです。
この伝染は、肥満に限らず笑いや幸福感といったポジティブな側面でも観察されています。幸せそうな人の近くにいると、自分まで幸せな気分になってきたという経験がある方も多いのではないでしょうか。

健康を左右する、2つのつながり

社会とのつながりと一言にいっても、色々な側面があります。大きくは「構造的側面」と「機能的側面」に分けることができます。

構造的側面には、つながりの「大きさ」(例:知り合いが何人いるか)、「種類や多様性」(例:知り合いにどのくらい違う職業の人が含まれているか)、「太さ」(例:どのくらいの頻度で連絡をとっているか)などが含まれます。構造的側面の総称として、「ソーシャルネットワーク」という言葉が使われます。
一方、機能的側面には、つながりを通してやり取りされる支援を意味する「ソーシャルサポート」、つながりに対する「満足感」、つながり不足に起因する「孤独感」などが含まれます。

先にご紹介した「ライフスタイル別での長寿への影響」の研究では、つながりの構造的、機能的側面の両者の死亡率への影響を調べています(1)。この論文は、関連するテーマの論文の結果を統合して結論を出す方法(メタ分析と呼ばれます)を採用しており、ここから導かれた結論は信頼性が高く、強い根拠となります。
結果、構造的つながりが多い人に比べて少ない人は死亡率が57%増加し、機能的つながりが多い人に比べて少ない人は死亡率が46%増加していました。つながりの構造的側面も機能的側面も、少ない人は多い人に比べて死亡率が約1.5倍高いということです。

別の研究では、一人暮らし、社会的孤立、孤独感が死亡率にどのくらい影響しているかをメタ分析で調べています(3)。一人暮らしは32%、社会的孤立は29%、孤独感は26%、それぞれ死亡率を上昇させていました。一人暮らしと社会的孤立は構造的側面、孤独感は機能的側面であり、この研究でも構造的・機能的の両側面が死亡率に影響することが示されています。

死亡率を認知症、心疾患、脳血管疾患に置き換えても同様の傾向があります。例えば、オランダの研究者が行ったメタ分析では、社会参加活動をしていないこと、人との交流頻度が低いこと、孤独感を抱いていることは、認知症発症のリスクをそれぞれ41%、57%、58%上昇させていました(4)。

幸福感との関連はどうでしょうか。身体的にも精神的にも社会的にも良好な状態と表す「ウェルビーイング(well-being)」に関連する要因をメタ分析した研究では、「ウェルビーイングの高低に強く関連するのは、つながりの量(構造的側面)よりも質(機能的側面)」と結論付けています(5)。機能的つながりは、死亡や疾病発症といった客観的な事象だけでなく、幸福感のような主観的な事象にも良い影響を持っているのです。

多様なつながりを持つことが大事

では、どうやって機能的つながりを強化すれば良いのでしょうか。
構造的つながりを強化するのであれば、人を紹介したり、自宅を訪問したり話しかけたりすればよいのですから、見方によっては対策はシンプルです。しかし、孤独感やつながりの満足感を改善するのは一筋縄ではいきません。

言えるとすれば、家族や友人、近所の人などとの交流を密にしながら、いざという時に頼れる関係を築くこと、そして自分の世界を広げて様々な人と付き合って、自分にとって一番しっくりくる関係を見つけること、これが鍵になります。
「自分にはこういう人が合うから」と付き合う相手を固定化することなく、また「新しい知り合いを作るのは面倒だな」と現状維持を優先することなく、多様なつながりを受け入れる寛容さが大切です。

参考文献

(1) Holt-Lunstad J, Smith TB, Layton JB. Social relationships and mortality risk: A meta-analytic review. PLoS Medicine 2010; 7(7): e1000316.
(2) ニコラス・A・クリスタキス, ジェイムズ・H・ファウラー(鬼澤忍, 訳). つながり:社会的ネットワークの驚くべき力. 講談社, 2010.
(3) Holt-Lunstad J, Smith TB, Baker M, et al. Loneliness and social isolation as risk factors for mortality: A meta-analytic review. Perspectives on Psychological Science 2015; 10(2): 227-237.
(4) Kuiper JS, Zuidersma M, Oude Voshaar RC, et al. Social relationships and risk of dementia: A systematic review and meta-analysis of longitudinal cohort studies. Ageing Research Reviews 2015; 22: 39-57.
(5) Pinquart M, Sörensen S. Influences of socioeconomic status, social network, and competence on subjective well-being in later life: A meta-analysis. Psychology and Aging 2000; 15(2): 187-224.

村山洋史(むらやま・ひろし)

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1979年生まれ。2009年東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(保健学博士)。東京大学高齢社会総合研究機構、ミシガン大学公衆衛生大学院を経て、2021年より東京都健康長寿医療センター研究所・研究副部長(テーマリーダー)。2012年日本公衆衛生学会奨励賞、2015年公益財団法人長寿科学振興財団長寿科学賞、2020年日本疫学会奨励賞などを受賞。専門は、公衆衛生学、老年学。著書に『「つながり」と健康格差』(ポプラ社)。

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