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2021.06.11

軽い返事に重い尻:返事が早いのはよいのだが…【健康ことわざ#15】

日本ことわざ文化学会:渡辺 慎介

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軽い返事に重い尻:馬角斎編「日本俚諺大全」(1906~1908年)大阪滑稽新聞社。

意味:はいはい、と返事はいいのに、実際はなかなか行動に移さないこと。

解説

「この書類はこうこうこのように処理してください」とお願いしたとき、「ハイ」という返事にもかかわらず、いつまでもその仕事を片付けてくれない人がいると、依頼した人は相手に不信感を持ち、場合によっては相手に注意することになってしまいます。

それが度重なれば、文句や叱責に繋がることにもなります。返事はいいのだか実際に行動に移さない人は、少々困りものです。それを簡単な言葉で的確に表現したのが、このことわざです。

語調もよく、「軽い」と「重い」の対比語を巧みに使った言い回しに感心してしまいます。「山椒は小粒でもぴりりと辛い」のことわざのように、8文字12音の小粒でありながら、ぴりりとした鋭い風刺がきいているのを感じます。

情景がすぐに思い浮かぶ秀逸な句です。物忘れは誰にでもあることです。私のような後期高齢者は、食事の前に頼まれたことなど、食事の間にもうすっかり忘れてしまいます。

どうして物忘れをするのか

ものを頼まれたとき、その用件が自分の興味から遠く離れていれば、忘れる確率は高くなります。頼まれごとを、いわば上の空で聞いていますからすぐに忘れるのです。

これは誰にもあることですが、さらに極端になったのがADHD(注意欠如・多動症)であると言われています。その症状には、活動に集中できない、気が散りやすい、物をなくしやすい、物事を忘れる、順序だてて活動に取り組めない、などがあるとされています。従来子どもに多い症状だと考えられてきましたが、大人になってから症状が現れる方もいます。ADHDによる物忘れは、本人の意思とは無関係です。
 
この世界は様々な人がいて成り立っています。精神的に身体的に、悩みを持つ人は少なくありません。SDGsに標榜されるように、すべての人が働きがいのある社会を目指すためには、私たちが広い心を持って多様な人間関係を受け入れていくことが大切です。

時には「軽い返事に重い尻」のような状況になることもありますが、目の前に困っているひとがいいたら自分にできるサポートをしようという前向きな姿勢を持っていたいものです。

執筆者プロフィール

■渡辺 慎介(わたなべ・しんすけ)
日本ことわざ文化学会会長 横浜国立大学名誉教授 物理学が専門であるが、定年後はことわざの面白さ、奥深さにのめり込んでいる 写真を趣味とするも、ことわざのため最近は写真から縁遠い

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