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2021.04.03

本当に効くの?安全性は?新型コロナワクチンの基礎知識【医師によるコラム】

MYCODEトピックス

新型コロナワクチンについてどんな疑問をお持ちですか?(写真:Shutterstock.com)

参照元:https://mycode.jp/topics/diseases/covid-19/covid19_vaccine.html

新型コロナワクチンについてどんな疑問をお持ちですか?(写真:Shutterstock.com)

はじめに

2021年の2月から新型コロナウイルスワクチンの医療従事者への先行接種が始まりました。

このワクチンはファイザー社とビオンテック社という製薬大手の開発による輸入ワクチンで、これ以外に2種類のワクチンが数か月以内に日本での接種開始が予定されています。いずれも輸入ワクチンです。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)には、現状有効な治療法がありません。そのためワクチンによる予防が感染収束のために大きな期待を寄せられているのです。

ただ、今回のワクチンは今までのインフルエンザのワクチンなどとは、全く製法の違うワクチンです。その実際の有効性はどのようなもので、どのような副作用(ワクチンの場合副反応)が予想されるのでしょうか?今回はその点をなるべく分かりやすくご紹介したいと思います。

*なお本記事は2021年3月5日時点での情報を元に執筆されているものです。

ワクチンの仕組みと種類

皆さんはワクチンというと、どのようなものを思い浮かべますか?毎年接種するインフルエンザワクチンでしょうか?お子さんのいる方は、4種混合ワクチンや水ぼうそう、風疹のワクチンなども馴染みがあるかも知れません。

これまでのワクチンは、大きく生ワクチンと不活化ワクチンに分けられます。

生ワクチンというのは、その病気の病原体(主にウイルス)を、培養することによって弱毒化して、それ自身を接種するものです。つまり、その病気に「軽くかかる」のです。水ぼうそうのワクチンや風疹のワクチンはそのタイプで、ほぼ無症状なのですが、体はその病気に感染して、それを治すことによって、病気にかかりりにくくするのです。

一方で不活化ワクチンというのは、インフルエンザワクチンがその代表で、ウイルスそのものではなく、それを不活化して増えないような状態にし、バラバラにしてその一部だけを使うものです。人間の体はウイルスの一部分を主に認識して、それに対して免疫を作るので、その性質を利用しているのです。

不活化ワクチンは病原体そのものを利用していないので、その効果は少し弱いのが欠点ですが、もともと生きている病原体ではなく、死んだその一部だけを使うので、安全性は非常に高いと言えます。これまで日本で使用されているワクチンは、生ワクチンか不活化ワクチンのどちらかです。

しかし、今回日本で接種が開始されたファイザー社などのワクチンと、その後に接種が予定されている、モデルナ社やアストロゼネカ社のワクチンは、生ワクチンでも不活化ワクチンでもなく、全く新しいワクチンなのです。

それは一体どのようなものなのでしょうか?

遺伝子を利用したワクチン

ファイザー社のワクチン(商品名:コミナティ筋注)は、コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチンと説明されています(以下省略してmRNAワクチンと記載します)。この長い名前の意味は、遺伝子の1つであるRNAの、構造を作り変えて投与するワクチン、という意味です。

人間でもウイルスでも、その体の情報は遺伝子という形で保存されています。人間はすべての遺伝情報を持つDNAと、タンパク質を合成する時に、DNAの一部を複製して作られるRNAの、2種類の遺伝子の担い手を持っています。その一方でウイルスは、DNAかRNAのどちらか一方しか持っていません。そして、新型コロナウイルスが持っているのはRNAだけです。

ウイルスというのは、この遺伝子(DNAかRNA)と、それを守るタンパク質だけで出来ています。これまでのワクチンは、ウイルスのタンパク質を使用するものでしたが、このファイザー社のワクチンには、ウイルスの遺伝子の一部だけが使用されていて、タンパク質は含まれていません。この点がこれまでのワクチンとは大きく違う特徴です。

このワクチンはウイルスの特徴的なタンパク質の元情報になる遺伝子(RNA)を、特殊な技術で人間の細胞に取り込まれやすく変化させて、それを脂質ナノ粒子という、特殊な入れ物に入れて、使用するというものです。

このワクチンを肩の三角筋という筋肉の中に注射すると、主に筋肉の細胞にワクチンの中のRNAが取り込まれ、そこで人間の細胞がRNAからウイルスのタンパク質の一部を合成します。それが体の免疫細胞に認識されると、不活化ワクチンと同じ仕組みで免疫が誘導されるのです。

これまでのワクチンはタンパク質を体に入れたのですが、このワクチンはその元である遺伝子だけを体に入れるのです。その点が従来のワクチンとの最大の違いです。

(写真:Shutterstock.com)

参照元:https://mycode.jp/topics/diseases/covid-19/covid19_vaccine.html

(写真:Shutterstock.com)

それでは、なぜ今回、普通のワクチンではなく、遺伝子ワクチンが開発されたのでしょうか?

色々な理由がありますが、一番の理由は時間です。実は今回の新型コロナウイルスに対しても、従来のような不活化ワクチンが開発されています。しかし、ウイルスを培養してタンパク質を増やすのには時間がかかるので、多くのワクチンは2021年中には間に合いそうにありません。

遺伝子のワクチンは特定の配列を簡単に合成出来ますから、迅速にワクチンが作れますし、ウイルスの変異が起これば、それに合わせて遺伝子の配列を変えることも、比較的簡単に出来るのです。それが今回の新型コロナワクチンの一番の利点です。

今実際に日本で接種されているワクチンはファイザー社のものだけなので、ここまではそれに基づいて説明しました。

今準備中の2つのワクチンのうち、モデルナ社のものは少し製法は違いますが、基本的にはファイザー社のものと同じmRNAワクチンです。一方でアストラゼネカ社とオックスフォード大などによる共同研究のワクチンは、アデノウイルスベクターワクチンという、また別の製法によるワクチンです。

簡単に説明すると、ウイルスの遺伝子を接種する、という点ではファイザー社やモデルナ社のワクチンと同じですが、その乗り物として、実際のウイルスを使用するという点が違っています。このウイルスは新型コロナウイルスではなく、チンパンジーに感染するアデノウイルスという風邪のウイルスを使っているのです。

つまり、発想は生ワクチンに近いのですが、病気の原因そのものではなく、新型コロナウイルス遺伝子を組み込んだ他のウイルスを感染させる、という点が大きな違いです。

2021年2月5日にアストラゼネカ社のワクチンは製造販売承認を申請済みで現在審査中です。2021年3月5日にモデルナ社のワクチンも製造販売承認申請が武田薬品工業株式会社より提出されています。

遺伝子を利用したワクチンの長所と短所

今回の新しい製法による新型コロナウイルスワクチンの長所は、前述のように、「早く」「沢山」「確実に」作れる、という点にあります。

ウイルスが変異しても、その対応は迅速に行うことが出来るでしょう。遺伝子のワクチンにも多くの種類がありますが、mRNAワクチンについては体の中で長くは存在出来ないので、遺伝子が体に影響を与える可能性は低い、と考えられています。

その一方で幾つか心配な点もあります。RNAのような遺伝子は非常に壊れやすいものです。そのためにワクチンの保存や温度管理などは厳密に行わないと、ワクチンが効果を示さない、という可能性もあります。

特に最初に接種が開始されたファイザー社のワクチンは、マイナス70度から80度くらいの超低温で保存しないといけないという、非常に保管の難しいワクチンです(もう少し高い温度でも保存出来る、という報告も最近あり調整がされているようです)。モデルナ社のワクチンもそこまでではないものの、冷凍保存が必要で、その管理には従来のワクチンより多くの手間がかかります。

ファイザー社のワクチンについてはポリエチレングリコールという成分が含まれていて、それに対してアレルギーがある人には接種が出来ません。

従来のワクチンより複雑な反応が体で起こるため、発熱などの副反応も多くなることが想定されます。それではワクチンの実際の効果と副作用(副反応)はどうなのでしょうか?

ファイザー社のワクチンの有効性

日本で唯一接種が開始されている、ファイザー社のワクチンを中心に説明しましょう。

まず、有効性については、発売前の臨床試験において、ほぼ95%の有効性が確認されています(※1)。この有効性というのは、ワクチンを通常の2回接種した場合、接種しない場合と比較して、発熱などの症状が出る新型コロナウイルス感染症が、95%減少した、ということを示しています。

今接種されている一般的なインフルエンザワクチンの有効率は、同じ基準を用いると50%程度ですから、今回のファイザー社のワクチンは非常に強力な効果を持っている、と言うことが出来ます。

これは臨床試験における有効性ですが、イギリスやイスラエルなどでは、実際に一般への接種が開始されて以降のデータも発表されていて、概ね臨床試験に近い効果が確認されています。イスラエルのデータでは、2回目の接種後7日以降、症状のある感染を、94%予防したという結果が報告されています(※2)。

モデルナ社のワクチンについては、約94%と、これもフィザー社のワクチンとほぼ同等の、高い有効性が臨床試験では確認されています(※3)。

一方でアストロゼネカ社のアデノウイルスベクターワクチンは、同様の臨床試験において約70%の有効率が報告されています(※4)。これはインフルエンザワクチンと比べれば遙かに高い有効性ですが、ファイザー社やモデルナ社のRNAワクチンと比較すると少し見劣りのする結果です。

ただ、スコットランドでの接種者を解析した結果では、1回の接種後でも、ファイザー社のワクチンをしのぐ入院予防効果が確認されたという報道もありました。また接種間隔によっては有効率が82.4%に高まった、というデータも報道されていますが、まだ確実なものではないと考えておいた方が良いようです。

現状のワクチンの有効性は、せいぜい接種後1~2か月程度の期間のもので、それ以降の長期の有効性は不明です。また、ワクチンの有効性は主に症状のある感染者の数で比較されているため、無症状の感染を防ぐ効果があるかどうかは分かりません。つまり、感染自体を収束させる効果があるかどうかはまだ不明なのです。

また、最近イギリス、南アフリカ、ブラジルなどで相次いで変異ウイルス株が報告されています。特に南アフリカで多く検出されている変異ウイルスは、免疫の反応が弱くしか現れない可能性が指摘されています。まだ不明な点が多いのですが、アストラゼネカ社のワクチンは変異ウイルスに対して予防効果を示さなかった、という報告もあります(※5)。

ファイザー社やモデルナ社のワクチンについては、この変異ウイルスへの有効性は不明ですが、実験的な研究では、ワクチンの効果はかなり低いことが想定されています(※6,7)。

ファイザー社のワクチンの副作用(副反応)

mRNAワクチンはこれまでのインフルエンザワクチンなどと比べると、打った場所が腫れたり、痛みが出たり、一時的に発熱や頭痛があったり、といった、ワクチン接種で一般的に見られる副作用(副反応)は、かなり多いことが臨床試験で報告されています。つまり、接種してから数日は熱や痛みのような症状が出ることを、ある程度予想して生活していないといけません。

ただ、こうした症状は数日以内にはおさまる一時的なものです。

現状強い副反応として注意が必要なのはアナフィラキシーという、全身の強いアレルギー反応です。アナフィラキシーが起こると、全身にじんま疹が出たり、のどの奥が腫れて呼吸が苦しくなったりします。重症化すると、呼吸困難や血圧の低下などが起こることもあります。

ファイザー社とモデルナ社のmRNAワクチンはアメリカにおいて、2021年1月18日までの間に、ファイザー社のワクチンが9943247回、モデルナ社のワクチンが7581429回接種されていて、その副作用(副反応)の集計が発表されています(※8)。

その結果によると、ファイザー社のワクチンでは100万接種当たり4.7件、モデルナ社のワクチンでは100万接種当たり2.5件のアナフィラキシーが報告されています。これを見るとファイザー社のワクチンの方がアナフィラキシーが多いという印象ですが、ファイザー社のワクチンが先行して接種されていましたから、その影響がそうした結果を生み出した可能性もあります。

つまり、どちらかがより安全ということではなく、同じくらいのリスクはあると、そう考えた方が現時点では良さそうです。

幸いなことにアナフィラキシーでの死亡の事例は上記の報告の中にはありません。ただ、アナフィラキシーは他のワクチンを含めて、薬や食品などのアレルギーのある人に多い、という傾向がありますから、アレルギー症状のある人は、接種により注意が必要、ということは言えると思います。

まとめ

今世界で接種されている新型コロナウイルスワクチンのうち、ファイザー社とモデルナ社のmRNAワクチンとアストロゼネカ社のウイルスベクターワクチンが、世界的な有効性と安全性の基準を満たしていることは間違いがありません。

その有効性は従来型のウイルスに対して、2回の接種後1~2か月以内、という限定付きですが、充分な有効性があるものです。ただ、無症状の感染を抑えられるのか、という点と、変異型のウイルスに対しても効果があるのか、という点はまだ分かっていません。

ワクチンの安全性も短期的には確認されていますが、インフルエンザワクチンより、発熱や痛みは強く、アナフィラキシー症状の発症も多い点には注意が必要です。特に他のワクチンでアレルギーの出たことのある人や、アナフィラキシーを経験したことのある人、特定の薬や食べ物で強いアレルギーのある人は、医師と必ず事前に相談の上、接種を決めるようにして下さい。また、長期の安全性については、これからの経過を見る必要があります。

皆さんもワクチンに対しては、色々な期待と不安があると思います。これまでの情報の範囲では、もう世界中で充分な人数に接種されているワクチンなので、その限界や副反応について理解した上で、冷静に接種の判断をして頂くのが良いと思います。


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執筆者

医師 石原藤樹先生
プロフィール:1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。

参考文献

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