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2021.04.10

手術が15分程度で完結!白内障治療を医師が解説【白内障・後編】

kencom公式ライター:森下千佳

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現在、白内障でメインとなる治療は手術です。白内障手術は全国の多くの病院で受けられますが、どのような流れで治療が進むのでしょうか?白内障手術を数多く手がける、昭和大学眼科学講座教授の西村栄一先生に聞きました。

白内障はどうやって診断・治療はどう進む?

白内障が疑われる場合、視力検査、屈折検査、眼底検査などの基本的な検査に加え、「細隙灯(さいげきとう)顕微鏡検査」を行います。細隙灯顕微鏡検査は、細い隙間から出た光を目に当て、目の組織を見る検査です。白内障の場合は、水晶体の「にごり」が確認できます。

水晶体の中でも、どのあたりににごりがあるのか、にごりの強さ(白内障の進行具合)はどうかなど、総合的に判断され、白内障と診断されます。

白内障の治療には、目薬と手術がありますが、目薬はあくまで症状を抑えるだけのもので、加齢により一度進行してしまうと効果は期待できません。また、点眼を続けていても、白内障は確実に進行していきます。あくまでも症状を緩和する程度の治療だと捉えておく方が良いでしょう。

インターネットで検索すると「白内障が改善する」と謳った海外製の点眼薬も市販されていますが、その効果を証明するデータはまだ少なく、日本での認可は下りていないため、効果を保証することはできません。

現在、白内障を治せるのは手術だけです。手術と言うと不安になる患者さんも多いと思いますが、近年の白内障手術による術後成績は非常に良好で、全国の眼科クリニックで日常的に行われています。まずは眼科を受診しましょう。

白内障の手術とは?

白内障の手術は、簡単に言うと濁った水晶体を取り出して、綺麗な人工のレンズ(眼内レンズ)に入れ替えることです。眼球を小さく切開して、水晶体嚢(水晶体を包んでいる薄い透明な膜)に窓を開け、中身だけを取り出し、取り除いた水晶体の代わりに人工水晶体を入れて、ピントが合うように調整します。

手術は15分ほど。日帰りも出来るようになった白内障手術

参考:公益社団法人日本白内障屈折矯正手術学会HP「白内障とは」より

参考:公益社団法人日本白内障屈折矯正手術学会HP「白内障とは」より

一般的には、まず片方の目の手術を行い、一定期間をあけて視力が出るのを確認してから、もう一方の目の手術が行われます。手術は、通常15〜20分間ほどですが、目の状態によってはもっと時間がかかる場合もあります。麻酔をするので、手術中の痛みはほぼありません。日帰りで出来る施設もあります。

白内障の手術後、視力が回復する期間は人によって異なります。翌日からかなり見える場合もあれば、1か月程度経過してからよく見えるようになる場合もあります。

自分に合うレンズの選び方

眼内レンズは、厚みが変わらないのでピントを調節することができません。そのため、「どこにピントが合うレンズを選ぶか」が大切になってきます。眼内レンズには、「単焦点レンズ」と「多焦点レンズ」があり、自分にとって「どう見えたいか?」を考えてレンズを選択する必要があります。

単焦点レンズ

1か所だけにピントが合うレンズです。単焦点レンズは「遠く」「中間」「近く」の3つに分けられ、どこをはっきり見たいかによって、レンズを選びます。デスクワークや読書や手芸など、手元で目を使う作業が多い方は「近く」、車の運転やスポーツをする機会が多い人は「遠く」がはっきり見えるレンズがよいでしょう。

また、テレビを見たり、料理をしたりするときには、「中間」の距離がはっきり見えるレンズが便利です。しかし、希望の距離以外のところを見るにはメガネが必要です。例えば、「近く」のレンズを選んだ方が、「中間」や「遠く」のものを見るときは、メガネが必要になります。

多焦点レンズ

多焦点レンズは「遠く」「中間」「近く」全ての距離に焦点が合うレンズです。この先ずっと眼鏡なしで、「車を運転したい」「家の中のテレビも見たい」「本を読みたい」という方にはおすすめです。

ただし、多焦点ならではの見え方の問題もあります。単焦点レンズと違い、ピントがやや甘くなります。デジタルカメラで例えると、単焦点レンズの見え方が1000万画素の写真だとすると、多焦点レンズは500万画素の写真のようなイメージです。例えば絵や写真など、繊細な違いを見極める必要があるような職業の方には向きません。

また、多焦点レンズは夜間に光を見たときに、滲んだり眩しかったりすることがあります。性格的に細やかな方や完璧主義の方だと、見え方に満足できない場合もありますので、多焦点レンズはお勧めしません。また、単焦点レンズに比べて費用が高い、といったデメリットがあります。

白内障治療を受ける前にチェックしたいポイント

白内障手術は、全国の多くの病院で日常的に行われていますが、どのように病院やドクターを選べば良いのでしょうか?抑えておきたいポイントを聞きました。

point1 執刀症例数&口コミをチェック

病院名や肩書きではなく、執刀数をチェックしてみましょう。白内障の手術は、他の外科の手術とは違い一人でもできる手術です。手術は大きい病院の方が安全だと思われがちですが、経験が豊富な開業医の先生も沢山いらっしゃいます。執刀する先生の手術数、熟練度を判断材料にすることが非常に重要だと思います。インターネット等で公開されている実際に手術を受けた患者さんの体験談も、大変参考になるので一度調べてみてはいかがでしょうか。

point2 リスクや眼内レンズの選び方についてしっかりと説明をしてくれるか?

手術の方法や、眼内レンズの選び方、費用、リスク、術前術後の準備やセルフケアについてなど、納得のできる説明があることは基本です。また、疑問や不安について、医師やスタッフが十分に対応してくれるかどうかも選ぶ際の重要なポイントです。

point3 保険診療内の治療が基本。自由診療の治療は注意

「高額な治療」=「質の高い治療」ではありません。白内障手術は基本的には保険診療内で十分治療が可能です。高額なレンズやレーザー等を使った治療を勧められた際には、保険診療内でできる治療も合わせて検討しましょう。

手術を受けるタイミングは?

「視力が落ちたかな?」「視界が霞むな…」と感じたら一度眼科に相談に行く事が大切。中には、緊急治療が必要な病気も隠れていることもあります。手術のタイミングは任意ですが、もしご自身で判断がつかないようなら、主治医の先生に「手術をすべき時が来たら、教えてください」と伝えておき、定期検診を受けておくと良いと思います。

水晶体は加齢とともに硬くなるので、年齢を重ねるごとに手術で取り出すのが難しくなってしまいます。眼内レンズは一生ものなので、早く手術を受ければそれだけ快適な生活が長くなることから、最近では50代で手術を受ける方が増えています。白内障手術によって水晶体の機能が入れ替えられるため、老眼や近視、遠視、乱視といった目の悩みを解決できることがあります。

白内障手術は、日本でも年間150万件以上行われる一般的な手術ですので、先延ばしすることなく対処してほしいと思います。

西村 栄一(にしむら・えいいち)先生

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昭和大学 眼科学講座 教授
昭和大学藤が丘リハビリテーション病院 眼科 診療科長 

【プロフィール】
1995年 昭和大学医学部卒業後、昭和大学藤が丘病院眼科 助手、講師を経て、2010年より University of Utah, John.A.Moran eye center Post Doctoral Research Fellow、 2012年に昭和大学医学部眼科学講座 講師 、2013年に昭和大学藤が丘病院眼科 講師 、2014年に昭和大学藤が丘病院眼科 准教授を勤めたのち、2015年より現職。

【資格】
日本眼科学会 眼科専門医、日本眼科学会 眼科指導医、公益社団法人日本白内障屈折矯正手術学会 理事、公益社団法人日本眼科手術学会 理事、日本白内障屈折矯正手術学会雑誌 編集委員長

著者プロフィール

■森下千佳(もりした・ちか)
フリーエディター。お茶の水女子大学理学部卒。テレビ局に入社し、報道部記者として事件・事故を取材。女性ならではの目線で、取材先の言葉や見過ごされがちな出来事を引き出す事を得意とする。退社後、ニューヨークに移住。当時、日本ではなかなか手に入らなかったオーガニック商品を日本に届けるベンチャー企業の立ち上げに関わる。帰国後、子宮頸がん検診の啓発活動を手がける一般社団法人の理事を経て現職。一児の母。

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