メニュー

2021.03.17

血圧の左右差と病気リスクの関係とは【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

記事画像

人間には多少の左右差があって当たり前ですが、大きく差がある場合は要注意。左右の手で測った血圧に大きな差があると、そこには何か病気が隠れているかもしれません。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、Hypertension誌に2021年1月ウェブ掲載された、血圧の左右差と心血管疾患リスクの関連についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

大きな血圧の左右差は病気のサインかも

高血圧が心血管疾患の大きなリスク因子であることは、多くの疫学データから実証されている事実ですが、実際には高血圧を含む因子から算出されたリスクと、実際の疾患の発症とは一致しないことが、しばしばあることも指摘されています。

つまり、同程度の高血圧があり他の脂質異常症などのリスク因子にも差がないのに、一方は心筋梗塞を発症しもう一方は発症しない、ということがある訳です。

こうした事例の1つの説明として、同じ高血圧であっても細かく分類すると他の要素に差があって、それが疾患のリスクの差に繋がっているのではないか、という考え方があります。

そして、その1つの因子として注目されているのが「血圧の左右差」です。

右腕の血圧と左腕の血圧では、完全に一致することはむしろ稀で、少しの違いはむしろあることは当然です。ただ、極端に差があるというのも通常ではあまりないことで、一定レベル以上の血圧の左右差には病的な意味があるというのが、一般的な考え方になっています。

これまでの報告によると、血圧に10㎜Hg以上の左右差があるのは、高血圧の患者のうち11%、一般人口の4%に見られるとされています。また血圧の左右差は、心血管疾患や糖尿病などで多いという報告もあります。

左右差が広がるにつれ、生命予後が悪化することも

今回の研究では、これまでの24の臨床研究に含まれる、トータル53827名の患者データをまとめて解析したところ、収縮期血圧の左右差が5㎜Hg広がるごとに、総死亡のリスクが5%(95%CI: 1.02~1.08)、心血管疾患による死亡のリスクが6%(95%CI: 1.02~1.11)、それぞれ有意に増加していました。

この収縮期血圧の左右差による総死亡リスクの上昇は、血圧差が5mmHgを超えると明確化していました。

このように、今回のメタ解析によっても血圧の左右差が広がるにつれ、高血圧の患者さんの生命予後が悪化することは、かなり明確に示されています。

左右差が5mmHgを越えて持続するときには、より心血管疾患のリスクは高いと判断して慎重に経過を観察し、特に10mmHgを超えるような時には、血管の狭窄の可能性も疑って精査をすることが望ましい、と考えられました。

左右の差にも留意して

一般臨床の場で血圧の左右差に気を配ることは、決してたやすいことではありませんが、今後はより一層、外来でも気を配りながら診療に当たりたいと思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36