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2021.03.10

コレステロールが多い卵、健康のためには制限したほうがいい?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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卵は完全栄養食と言われますが、コレステロールを多く含むことでも有名です。健康のために、卵やコレステロールを含む食品はどの程度摂ればいいのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、PLOS Medicine誌に2021年2月9日ウェブ掲載された、コレステロールと卵の摂取量と心血管疾患リスクについての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

卵等のコレステロールの高い食品は制限するべき?

血液中のコレステロール、特にLDLコレステロール値が高いと、心筋梗塞などの心血管疾患のリスクが高まり、生命予後にも悪影響を与えるという知見は、多くの精度の高い疫学データに裏打ちされた事実で、スタチンに代表されるコレステロール降下剤によりその数値を低下させ、リスクの低減に繋がることもまた臨床試験で実証されています。

ただ、それでは食事のコレステロールを減らせば、スタチンと同じような心血管疾患リスクの低減作用があるのかと言うと、その点については明確な結論が得られていません。

以前は食事のコレステロールを、1日300mg以下にすることが、国内外のガイドラインにおいて推奨されていましたが、最近のメタ解析においてコレステロールの摂取量が、必ずしも血液中のコレステロール濃度を反映していないという知見が明らかになりました。現行のアメリカのガイドラインにおいては、食事のコレステロールの摂取量の基準値は設定されていません。

卵の黄身には200mg近いコレステロールが含有されていて、このためコレステロール制限食という観点からは、卵を制限するかどうかが常に問題となります。

卵の摂取量と健康との関係についても同様の問題があり、卵を多く食べると心血管疾患リスクが高くなるという報告がある一方、比較的新しい報告の多くは、1日1個程度の卵では、健康面の悪影響はないとする結果になっています。

コレステロール摂取量と健康の関係を調査

今回の疫学データはアメリカにおいて、登録時50~71歳の521120名の一般住民を対象として、中間値で16年という長期の経過観察を行っています。

その結果、観察期間中に129328名が死亡し、そのうち38747名は心血管疾患による死亡でした。

多変量解析の結果、卵を2分の1個摂取する毎に、総死亡のリスクが7%(95%CI: 1.06から1.08)、心血管疾患による死亡のリスクが7%(95%CI:1.06から1.09)、癌による死亡のリスクが7%(95%CI: 1.06から1.09)、それぞれ有意に増加していました。

また、コレステロールの摂取量が300mg上乗せされる毎に、総死亡のリスクは19%、心血管疾患による死亡リスクは16%、癌による死亡リスクは24%、こちらも有意に増加していました。

卵の摂取増加による死亡リスクの増加は、総死亡のリスクの63.2%、心血管疾患による死亡リスクの62.3%、癌による死亡リスクの49.6%が、コレステロールの摂取によるものと推測されました。

更にはこの卵の摂取を、コレステロールを低減した代用卵や、卵の白身、他の魚やナッツなどの蛋白源に変更することで、死亡リスクはそれぞれ低減されることも推測されました。

コレステロールも卵も摂りすぎは控えて

このように、今回の最新の疫学データにおいては、明確にコレステロールの摂取と卵の摂取が、心血管疾患などの死亡リスクの増加と結び付いていて、最近のメタ解析とはまた異なる結果となっています。

この問題はまだ解決しているとは言えませんが、コレステロールも卵の摂取も、どの程度の制限が適切かはともかくとして「取りすぎは健康に禁物」と、そう捉えておくのが現時点ではバランスの取れた考え方であるようです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36