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2021.01.15

鶴は千年亀は万年:めでたい鳥、瑞鳥の鶴はことわざでも特別扱い【健康ことわざ#5】

日本ことわざ文化学会:渡辺慎介

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鶴は千年亀は万年  御伽草子「浦島太郎」(室町時代)に掲載。その他多数

意味:長生きでめでたいことをいう。

解説

NHKテレビに「チコちゃんに叱られる」という番組があります。5歳のチコちゃんの出す質問に大人が答えられないと「ボーっと生きてんじゃねーよ!」のセリフで叱られるバラエティ番組です。その質問に一度だけ正解をしたことがあります。問題は「どうして亀は長生きなのか?」でした。答えは「心拍数が少ないから」であったと記憶しています。どんな動物も心臓の鼓動を15億回繰り返す頃に、寿命を終えます。それをどこかで読んだことがありましたから、答えは想像できました。ただし、15億回に例外があります。例外は人間で、その数をはるかに超えて長生きします。
 
このことわざは、鶴は千年、亀は一万年生きると主張しています。実際には鶴も亀も、そんなに長く生きません。ほかの鳥や動物よりも長生きなので、そのように表現したのでしょう。このことわざから、面白い川柳が作られました。「鶴が死ぬのを亀が見ている」です。万年生きる亀は、鶴の死に立ち会う確率が高いのは確かです。これは、亀の立場から見ています。鶴から見れば、「亀の年を鶴が羨む」となります。欲望には限りがないことを譬えることわざです。千年も生きる鶴が、自分より長生きの亀の歳を羨むのですから、確かにそういう意味になります。

江戸時代から鶴は特別な鳥だった

今の時代、鶴を見ることができるのは、日本の中でごく限られた地域だけです。しかし、江戸時代には鶴は江戸にも飛来していました。歌川広重の描いた「名所江戸百景」の一枚「箕輪金杉三河しま」には、タンチョウの舞い降りる優雅な姿が見られます。ことわざにも、「雀の千声鶴の一声」が江戸時代前期から使われていました。議論百出する中で、事を決定づける短い言葉が「鶴の一声」です。鶴は特別な鳥、しかも高貴な鳥なのです。まさに「鶏群の一鶴」の譬えの通りなのです。
 
長寿をめでたいとする一方、ことわざ「命長ければ恥多し」は、加齢に伴う不首尾・不如意による恥を指摘します。徒然草の中で、兼好法師は「命長ければ恥多し、という言葉もあります。長くとも四十に足りないくらいで死ぬのがちょうどよいのではないでしょうか」と書いています。そう書き残しておきながら、法師は40どころか、70歳近くまで生きました。我々俗人は恥など気にせずに、堂々と長生きしましょう。

執筆者プロフィール

■渡辺 慎介(わたなべ・しんすけ)
日本ことわざ文化学会会長 横浜国立大学名誉教授 

物理学が専門であるが、定年後はことわざの面白さ、奥深さにのめり込んでいる。写真を趣味とするも、ことわざのため最近は写真から縁遠い。

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