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2020.12.25

今、新型コロナウイルス感染症に有効とされる治療薬とは?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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世界各国で、新型コロナウイルス感染症の治療薬の研究が進んでいます。今の時点で、どの程度有効な薬が開発され、どれくらい使われているのでしょうか?

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、British Medical Journal誌に2020年9月4日ウェブ掲載され、同年10月15日にアップデイトされた、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の、WHOによる薬物治療ガイドラインです。

▼石原先生のブログはこちら

現在、有効なコロナ治療薬はある?

現行、多くのガイドラインにおいて推奨されているのは、人工呼吸器管理が必要なような重症事例において、抗ウイルス剤レムデシビルと、ステロイド剤(主にデカドロン)の全身投与です。

日本においてもこの2種の薬剤のみが、新型コロナウイルス感染症の保険治療が認められています。

このうちステロイドの使用については、RECOVERYという大規模臨床試験において、重症の事例での36%の死亡リスク低下が確認され、JAMA誌のメタ解析においても、治療後28日の時点での34%の総死亡リスクの低下を認めています。

そうした結果を受けて今回のガイドラインにおいても、酸素飽和度が90%未満となったり、呼吸数が1分に30回を超えるような呼吸困難の状態では、ステロイド治療を行うことが比較的強く推奨されています。

この場合のステロイドの使用量は、デカドロン6ミリグラムを7~10日使用するというのが基本的な使用法で、それ以外にプレドニンを1日40ミリグラムなども、代用として使用が許可されています。

レムデシビルは有効ではないという結果に

一方でレムデシビルについては、最初の中国での臨床試験では明確な効果が確認されず、その後中国以外の主に欧米での臨床試験において、入院事例の快復までの期間を短縮する効果が確認され、治療後29日時点の総死亡のリスクを27%低下させる傾向を示しましたが、有意な差は付いていません。

この結果をどうとらえるのかは微妙なところですが、WHOの今回の判断は、トータルに見て有効とは言い難いというもので、最初のガイドラインでは弱い否定という判断になり、10月のアップデイトでは明確に推奨しないという表現になっています。

文面を読むと、何となく中国の臨床試験の方に、より重きを置いているというような感じがあり、WHOの立場を考えると微妙な感じもするのですが、客観的に見てステロイドは短期の生命予後を有意に改善していますが、レムデシビルはそうではないので、そうした観点からは今回の判断にも妥当性があるというようには言えるかと思います。

現状、推奨する薬はステロイドのみ

そんな訳で候補薬は多くあるものの、結果として現時点で推奨しうるのは、重症の事例におけるステロイドのみというのは心細い感じがありますが、良くも悪くもそれが今の医療の現状なのです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36