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2021.01.27

お酒好きは要注意。年間6万人が発症する「慢性すい炎」【慢性すい炎・前編】

kencom公式ライター:森下千佳

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年末年始の暴飲暴食でなんとなく不調が続き、「肝臓の数値が気になる」といった声を良く耳にします。しかし、その不調、実は肝臓ではなく「すい臓」が原因なのかも?
すい臓と言われてピンとこない方も多いかもしれませんが、生きる上で非常に重要な役割を担う臓器です。今回のテーマである「慢性すい炎」は、初期症状に気づきにくい厄介な病気です。原因となる飲酒を楽しまれている方も多いでしょう。この病気について、東京医科大学病院消化器内科 主任教授の糸井隆夫先生に聞きました。

糸井 隆夫(いとい・たかお)先生

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東京医科大学病院消化器内科 主任教授
東京医科大学病院副院長
東京医科大学病院国際診療部部長
1991年東京医科大学卒業。同年より東京医科大学消化器内科入局、2016年より現職。その他、昭和大学北部病院消化器病センター兼任講師、国立がん研究センター中央病院内視鏡部非常勤職員、中国南京医科大学客員教授、筑波大学光学診療部非常勤講師、東京医科歯科大学消化器内科臨床教授、慶應義塾大学消化器内科客員教授を兼任。日本消化器病学会奨励賞、日本消化器内視鏡学会賞、日本胆道学会賞など多数。

沈黙の臓器「すい臓」に迫る慢性すい炎ってどんな病気?

そもそも「すい臓」の機能とは

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東洋医学で人体の内臓を示す言葉、「五臓六腑(ごぞうろっぷ)」。五臓とは(心臓・肺臓・肝臓・腎臓・脾臓)を、六腑とは(胃・小腸・大腸・膀胱・胆嚢・三焦)を意味していて、その中に、すい臓は含まれていません。昔はわからなかったほど、身体の奥深くに位置している小さな臓器です。

大きさは成人で15cmほど。 ちょうど胃の裏側あたりに位置していて、背骨の前側にあります。日頃は意識する機会の少ない臓器ですが、非常に大きな役割があります。

主な役割は2つ。1つは、「すい液」という消化液を分泌することです。すい液の中には多くの消化酵素が含まれていて、炭水化物や、脂質、タンパク質を分解する酵素を出して消化を助けます。
もう1つは、インスリンなどのホルモンを分泌して、血糖値を一定濃度にコントロールする働きです。

すい臓がダメージを受けたり、疲弊してインスリンの分泌が低下したりすると、血糖値が上昇し糖尿病を招くほか、消化不良を起こして下痢が続くなど様々な不調が起こります。
すい臓は小さいですが非常に大切な臓器だと言えます。

慢性すい炎は時間をかけて進む病気

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「すい臓」に炎症が起きる病気には、激しい炎症がすい臓内で一気に起こる「急性すい炎」と、時間をかけてすい臓の組織が蝕まれていく「慢性すい炎」の二種類があります。

中でも「慢性すい炎」は小さな炎症がすい臓のあちこちで繰り返し起こることで、正常な組織が壊されて線維が増えて硬くなり(繊維化)、ゆっくりと働きが失われていく病気。
慢性すい炎が進行してしまうと完治は望めず、合併症やすい臓の機能低下による様々な症状が起こります。年間およそ6万7000人が医療機関を受診していて、その数は年々増加しています。

慢性すい炎の主要原因は「アルコール」

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すい炎になりやすい人の特徴は、「お酒を飲む量が多いこと」そして「脂っこい食べ物が好きなこと」です。
実際に、男性の慢性すい炎のおよそ7割はお酒の飲み過ぎが原因とされており、飲酒量が増えれば増えるほど発症しやすくなります。
アルコールを過剰に摂取すると、それに対処しようとして沢山のすい液が分泌され、すい臓を酷使する原因となります。大量のアルコールに加えて脂っこいものも食べていれば、それを必死に消化するために負担が増し、炎症を起こすようになります。

一方、女性はアルコールが原因の方は3割ほどで、およそ5割は「特発性」と呼ばれる原因不明のすい炎です。また、最近では若年で慢性すい炎を発症する「遺伝性すい炎」や、遺伝性すい炎以外にもすい炎になりやすい遺伝子変化があることがわかってきました。

痛みがなくなったら要注意!の理由

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慢性すい炎の症状は進行具合によって変わっていきます。
初期の頃はみぞおちや背中あたりにシクシクする重い痛みを感じることが多く、胃の痛みだと誤解されることも少なくありません。
しかも「進行するほど痛みが徐々に薄れていく」のが慢性すい炎の特徴です。これはすい臓自体が壊れて硬くなり、痛みの元となるすい液が出なくなるためです。

水道の蛇口を思い切りひねると勢いよく水が流れて水圧が増しますよね。これと同じようにお酒をたくさん飲んですい液が増えると、すい管内の圧が増して引っ張られるため痛みが出ます。
しかし、慢性すい炎が進むとすい液を出す細胞が硬く萎縮してどんどん消えていき、すい液が出なくなります。
すると蛇口をひねっても水が出ない、水圧がかからない状態となるので痛みが消えるというわけです。『痛みが消えて調子が良くなった』と思っているうちに、すい臓の線維化は確実に進んでしまうのです。

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さらに進むと、すい臓はどんどん萎縮していき、CTで見るとすい臓がどこにあるかも分からない程小さくなってしまいます。 すい液が出ないことによる消化吸収の悪化によって、下痢や、脂肪便、体重の減少といった症状が現れます。また、すい臓からのインスリン分泌も低下するため、糖尿病も引き起こしやすくなります。

すい臓がんリスクは12倍に!慢性すい炎の合併症

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慢性すい炎の代表的な合併症は、のう胞、すい石、狭窄の3つになります。
のう胞は、大きくなると周りを圧迫して痛みの原因になりますし、すい石はすい管や胆管を詰まらせる原因になります。
また、すい管が狭くなってしまうすい管狭窄やすい臓の中を走る胆管の狭窄があると、すい液や胆汁の流れが悪くなって痛みや黄疸を発症することもあります。

そして、最も悪い合併症の一つとして「すい臓がん」があります。慢性すい炎はすい臓がんのリスクを約12倍に高めることもわかってきています。

早期発見で進行は止められる!!

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自覚症状が乏しいため早期発見が難しく、進行すると元に戻すことが出来ないため、これまで「慢性すい炎」=「治らない病気」と捉えられてきました。
しかし、近年日本では、「早期慢性すい炎」という定義ができ、早期の慢性すい炎の症状に早く気がつき、早期に治療を行えば、進行を食い止めると考えられています。

急性すい炎を繰り返す患者さんや軽い腹痛、腹部不定愁訴(ふていしゅうそ:明確な原因がないにもかかわらず不調があること)などを訴える患者さんのなかには、比較的早い段階の慢性すい炎の方が存在しているのではないかと考えられ、早く治療を開始するようになってきています。

線維化して硬くなったすい臓は元に戻ることはありません。そのため慢性すい炎はいかに早く発見し、進行を止めるかが大切です。

すい臓の病気リスクをリストでチェック!

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早期発見のためには、ご自身で「すい臓の病気になりやすいかどうか」のリスクを知っておくことも非常に大切!
糸井先生があげる、以下の10項目をチェックして身体のケアをしていきましょう。

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いかがでしたか?チェック項目のうち5つ以上当てはまった方は、慢性すい炎のリスクが高いです。
特に①の「お酒が好きで、ほとんど毎日飲んでいる」方は要注意!
前に挙げたとおり、すい臓を痛める最大の原因になります。

また、上の項目は生活習慣病全般に当てはまるので、他の病気を併発する可能性も高まります。1つでもチェックが入った方は生活改善をしていくことをオススメします。

慢性すい炎は早期で止めることが大事

気が付かない間に進む可能性のある慢性すい炎の怖さがお分かりいただけたかと思います。現在症状がなくてもチェックリストに当てはまったら要注意です。
慢性すい炎は特に早期発見・治療が大事になる病気。
どのように治療が進むのかについて、後半でも糸井先生にご登場いただき、詳しく解説いただきます。

著者プロフィール

■森下千佳(もりした・ちか)
フリーエディター。お茶の水女子大学理学部卒。テレビ局に入社し、報道部記者として事件・事故を取材。女性ならではの目線で、取材先の言葉や見過ごされがちな出来事を引き出す事を得意とする。退社後、ニューヨークに移住。当時、日本ではなかなか手に入らなかったオーガニック商品を日本に届けるベンチャー企業の立ち上げに関わる。帰国後、子宮頸がん検診の啓発活動を手がける一般社団法人の理事を経て現職。一児の母。