メニュー

2020.12.07

新型コロナ、発症後ウイルスを拡散させてしまう期間は?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

記事画像

昨年末、中国で新型コロナウイルスへの感染が初確認されてから、もう一年が経ちます。この一年の間に研究は進み、このウイルスの特徴がいろいろわかってきました。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、Lancet誌に2020年11月19日ウェブ掲載された、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の、ウイルス増殖期間と感染可能性とを検証した、システマティックレビューとメタ解析の論文です。

▼石原先生のブログはこちら

コロナ感染はどのような条件で広がるのか?

第3波と呼ばれるような感染拡大が国内に広がり、「個々の自覚と感染対策をより厳格に」とは言うものの、常日頃から気をつけている人は「言われるようなことは全てしているし、これ以上何をどうすればいいの?」というような気分であると思いますし、一方で「俺は俺の好きなように生活するんだ!」という人は、何を言われても言うことは聞かないし、気をつけることもないのですから、これはもうどうしようもありません。

そこで矢張り医療従事者の立場としては、どのような条件で感染が拡大するのか、どのような状況では感染は広がらないのか、そうした点についての科学的により正確な知見を見つけてゆくしかない、という気がします。

コロナ感染後は、長期間身体の各所でウイルスを検出

ただし、感染9日目以降は増殖しない

今回の研究では、これまでの実際の患者データをまとめて解析する手法で、新型コロナウイルスが感染者の身体でどのくらいの期間検出され、どのくらいの期間周囲への感染が成立してしまうのかを、他のコロナウイルスとも比較して検証しています。

新型コロナウイルスについての79の研究の、トータル5340名のデータを解析した結果として、上気道における平均のウイルス遺伝子検出期間は、17.0日(95%CI:15.5から18.6)で、下気道では14.6日(95%CI:9.3から20.0)、便中では17.2日(95%CI: 14.4 から20.1)、血液中では16.6日(95%CI:3.6から29.7)、となっています。

報告された最も長い遺伝子検出期間は、上気道では83日、下気道で59日、便中では126日、血液中で60日となっていました。この遺伝子検出期間は、年齢が高くなるほど長くなっていました。

これだけ長期間身体の各所からはウイルス遺伝子が検出される一方で、発熱などの症状が出現後9日目を超えて、生きて増殖可能なウイルスが検出された事例はありませんでした。

つまり、ウイルスの遺伝子自体は、感染後非常に長期間検出されるのですが、ウイルスの増殖は症状出現後9日以降は検出されず、そのため感染者からの二次感染の可能性は、それ以降は成立しないと考えて大きな問題はないのです。

新型コロナウイルスのウイルス量は症状出現後1週間が最も多く、SARSウイルスの10から14日、MERSウイルスの7から10日とは対照的となっていました。

発症後10日以降に無症状なら、周囲への感染リスクなし

新型コロナウイルのRT-PCR検査の陽性は、症状のある時点での病気の診断のためには有用ですが、周囲への感染可能性の指標には全くならず、陰性になるまで隔離を強要したり、検査を繰り返すことには科学的意味がないばかりか、感染者の不安を煽り、周囲の差別感情を惹起するという点でむしろ有害です。

現状有症状の場合には、症状出現後10日以降で無症状であれば、基本的に周囲への感染リスクはないと、そう考えて大きな問題はなさそうです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36