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2020.11.20

実際の新型コロナウイルスを使った実験、マスクの防御効果はどれくらい? 【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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現代人の必需品となったマスク。実のところ、マスクで新型コロナウイルスの粒子をどれだけ防御する効果があるのでしょうか?

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、mSphere誌に2020年10月21日ウェブ掲載された、新型コロナウイルス感染症の予防としての、マスクの有効性を検証した論文です。

同種の論文は他にも多くあり、ブログでも何度かご紹介しています。

今回の論文のポイントは、本物の新型コロナウイルス自体を使用し、マネキンにマスクを装着して、人工呼吸器から放出されるウイルス粒子を、どれだけマスクでブロック出来るのかを検証している、という点にあります。
実際のウイルス粒子を用いたこうした実験は、上記文献の著者らによれば今回が初めてです。

東京大学医科学研究所の研究者らによるもので、メディアでも報道がされました。
詳細については東京医科学研究所のサイトもご覧下さい。こちらです。

▼石原先生のブログはこちら

マスクにはどの程度のコロナ感染予防効果があるか

マスクが「新しい日常」においては、必須の感染対策の柱であることは、今では世界中で認識されています。

ただ、その感染防御効果は実験法によっても違いがあり、必ずしも一致した結論が得られているという訳ではありません。

これまでの実験では、主に生理食塩水を噴霧するような検証でしたが、今回は感染対策の取られた施設において、実際の新型コロナウイルス(SARS-CoV)を飛沫にして、実際の呼気と同じようにマネキンの口から噴霧し、それがマネキンに装着した各種のマスクによって、どれだけ予防可能かを比較検証しています。

その結果、エアロゾル中のウイルス粒子は、距離が1メートル離れていても、マネキンに付着が認められていて、距離は1メートル離れていても、感染者のウイルス排出量が多ければ、感染リスクはあることが確認されました。

お互いがマスクをしても、ウイルス侵入を完全に阻止することは不可能

感染していない側がマスクを装着した場合、コットンの布マスクではウイルスの取り込みを、20から40%抑制していました。N95マスクではウイルスの取り込みは、80から90%抑制されていました。ただ、N95マスクをテープで固定して使用しても、完全にウイルスの取り込みを阻止することは出来ませんでした。

一方で感染者の側がマスクを装着した場合、コットンのマスクやサージカルマスクで50%の、ウイルス排出抑制効果が認められ、N95マスクではより高い効果が確認されました。

こうした知見はほぼ、これまでの同種の試験と一致しているもので、マスクの性能は布マスク、サージカルマスク、N95マスク、という順で高まりますが、より感染者がマスクをした場合に、その有効性は高くなっていました。

ただ、お互いにマスクをしていても、ウイルスの侵入を完全に阻止することは出来ず、感染リスクを完全にゼロにすることは出来ませんでした。

「ウイルス侵入」と「感染」が一致するとは限らない

今回の実験は本物のウイルスを使用している、という点では実際の感染に近い条件を再現していますが、ウイルスがマスクから侵入することが、そのまま感染が成立することではありませんから、この結果が実際の感染予防効果と、常に一致するとは限らないことは、注意の上結果を考える必要があります。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36