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2020.10.28

「リンゴは医者いらず」は本当?摂取量と慢性疾患リスクの関係とは【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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「1日1個のリンゴは医者いらず」ということわざがあるように、リンゴは身体にいい果物というイメージがあります。これには医学的な根拠はあるのでしょうか?

当連載は、クリニックでの診療を行いながら世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、2002年のAmerican Journal of Clinical Nutrition誌に掲載された、フラボノイドの健康効果についての論文です。

この古い文献をご紹介するのは、ちょっと理由あって今リンゴの健康効果を調べていて、そこで臨床データとして必ず取り上げられている、有名な文献であったので改めて読んでみたのです。

▼石原先生のブログはこちら

抗酸化作用・抗菌作用が高い「フラボノイド」って?

「フラボノイド」というのはポリフェノールの一種で、植物由来の色素です。

リンゴやイチゴ、ブドウなどの赤い色の元であるアントシアニンや、大豆のイソフラボン、お茶のカテキン、紅茶もテアフラビンなどは全てフラボノイドの仲間です。

フラボノイドは植物が環境から身を守るために産生している物質なので、強い抗酸化作用や抗菌作用、抗炎症作用などを持っています。

個別のフラボノイドには、たとえば紅茶のテアフラビンなど、抗菌作用がより強いなどの特徴があります。元のフラボノイドの性質以外に、それが腸内細菌などで代謝されたり、それを加熱するなどして、変化した物質にまた別の生理活性がある、というようなこともあります。

フラボノイドを豊富に含むリンゴの健康効果は?

リンゴの特徴はそのフラボノイドの含有量と、食物繊維が豊富であることで、その両者とも抗酸化作用を持っているので、トータルに動脈硬化性の疾患や糖尿病、慢性炎症などの予防効果が期待されるところです。

ただ、リンゴには多くの成分が含まれていますし、いわゆる嗜好品ではなく、食品の中にも様々な形で含まれる果物なので、リンゴ自体の健康効果を人間で証明することは、そうたやすいことではありません。

各種成分の有効性については、基礎実験や動物実験においては確認されていますが、人間でのデータは多くはなく、精度の高いデータは極めて少ないのが実際です。

その数少ない有効性についてのデータの1つが、今日ご紹介している論文の中にあります。

リンゴの摂取量と疾患リスクを調査

この文献はフィンランドにおいて、62440名の住民を28年観察したという、長期の大規模な疫学データを二次利用して、フラボノイドの接種量と病気のリスクや生命予後との関連を比較検証しているものです。この研究については10054名が解析対象となっています。

メインのデータはフラボノイドの種類と疾患リスクとの関連をみたものですが、それに付随してリンゴの接種量と疾患リスクとの関連が数値化されています。

それがこちらです。

リンゴを全く食べない場合と比較して、1日47グラムを超えるリンゴを食べている人は、肺癌、気管支喘息、糖尿病、脳塞栓症、総死亡、虚血性心疾患による死亡の、それぞれのリスクが有意に低下していました。その一方で、関節リウマチに関しては、そのリスクは増加の傾向を示していました。

海外のリンゴは日本より小さく、100から150グラムくらいがスタンダードなので、このデータは1日3分の1から2分の1の小さなリンゴを食べる…というくらいに一致しています。

毎日リンゴを食べる習慣は健康に◎

他にも同種のデータはありますが、僕の確認した範囲ではこのデータが最も明確に有効性を示しているもので、色々なバイアスがありそうなので、単純にリンゴの効果とはとても言えませんが、やはり1日1個のリンゴ(ただし小さなもの)を食べるという習慣は、色々な意味で健康に良いと、そう考えて大きな間違いはなさそうです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36