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2020.10.02

楽天が支援する新がん「光免疫療法」の実力度|副作用を抑制しつつ、がん細胞を破壊する

東洋経済オンライン

9月29日の会見で「大きな一歩を踏み出すことができた」と語る楽天の三木谷浩史会長兼社長(写真:楽天メディカル)

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9月29日の会見で「大きな一歩を踏み出すことができた」と語る楽天の三木谷浩史会長兼社長(写真:楽天メディカル)

「残念ながら父の治療には間に合わなかったが、大きな一歩を踏み出すことができ、大変うれしく思っている。この承認でスタートラインにようやく立つことができた」

楽天の持分法適用子会社で、バイオベンチャーの楽天メディカルが開発していたがん治療薬「アキャルックス」が厚生労働省から9月25日、製造販売の承認を取得した。

同社が薬の承認を得るのは初めてのこと。9月29日に開かれた会見で、楽天の会長兼社長で楽天メディカルCEOも務める三木谷浩史氏は冒頭のように述べた。

わずか6カ月間でスピード承認

三木谷氏は、この薬剤の開発に「個人資産を中心に数百億円を投資してきた」(同氏)経緯がある。父親の良一氏が膵臓がんを患ったことがきっかけでがん治療に関心を持ち、「非常に革新的な治療法ということで、全面的に支援を決意した」(同)という。

この薬のベースになる技術を開発したのが、アメリカの国立がん研究所の小林久隆主任研究員らのグループだ。2013年に同氏がアメリカのベンチャー企業と実用化に向けた準備を進めていたところ、技術の詳細を聞いた三木谷氏が臨床試験(治験)の資金などを投資。実用化の後押しをした。楽天メディカルとしての資金調達額は400億円を超える。

今回、この薬が承認された適応症は「切除不能な局所進行又は局所再発の頭頸部がん」。頭頸部がんとは、顔からのどにかけての部位にできるがんのこと。手術や抗がん剤など、既存の治療が効かなくなった患者が対象になる。

医薬品の審査には通常12カ月かかる。だがこの薬は、それまでの治験から有効性の高さや画期的な作用メカニズムが認められて、優先的に審査を受けられる対象だった。そのため、2020年3月の申請からわずか6カ月という短期間で承認を得た。

これまでに実施された治験では、日本国内で3人中2人の患者でがんが30%以上縮小。アメリカでは30人を対象に同様の治験が行われていて、4人で完全にがんが消え、9人でもがんが30%以上縮小している。

国内の患者数は少ないため、大規模な治験は難しく、ほかに有効な治療法もないために小規模な治験データのみで承認された。

この薬は「光免疫療法」と呼ばれるメカニズムを用いた世界で初めてのがん治療薬で、注目度が高かった。いったいどういったメカニズムで効果を発揮するのだろうか。

化学物質ががん細胞を破壊

薬のベースになっているのは、特定のがん細胞のみに結合できる「抗体」と呼ばれるもの。抗体そのものは、がん細胞の働きを妨げて増殖を防ぐ機能があるため、現在の標準治療でも広く使われている一般的なものだ。

この抗体に、「IR700」という化学物質が結合している。この物質はもともと、道路標識や新幹線などの青色塗料として使われており、本来は水に溶けないが、化学的に手を加えることで一時的に水に溶ける性質に加工できる。

楽天メディカルが開発したがん治療薬「アキャルックス」(写真:楽天メディカル)

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楽天メディカルが開発したがん治療薬「アキャルックス」(写真:楽天メディカル)

がん患者にこの抗体とIR700がセットになっている薬剤を注射すると、抗体を”運び屋”としてIR700ががん細胞まで一緒に運ばれる。

特徴的なのはここからだ。薬の投与後、がん細胞に向けて近赤外線を照射すると、光を吸収したIR700が水に溶けない本来の性質に戻る。この急激な変化によってがん細胞の膜に傷をつけ、細胞膜が破壊されたがん細胞が破裂、死滅してしまうというメカニズムだ。

こうした作用に加え、破裂したがん細胞の内容物が組織内に飛び出すことで、がん細胞を攻撃する免疫細胞を活性化させる効果も確認されている。がん細胞への攻撃と免疫の活性化、どちらの要素も持ち合わせているため、光免疫療法と呼ばれている。

この技術のメリットは、光の照射によって毒性のオンとオフを切り替えられること。「従来の抗がん剤は正常細胞にもダメージを与えてしまい、副作用が大きかった。毒性がオフの状態で投与し、光の照射で局所的にオンにすることで副作用を大幅に抑えられる」と開発者の小林久隆氏は話す。

頭頸部以外へ適応拡大できるか

今後の焦点になるのは頭頸部がん以外への適応拡大だ。

抗体が運び屋として機能できるがんは頭頸部がん以外にもあり、原理的には抗体を換えれば、ほかのさまざまながん種にも適応できる。実際、「研究レベルでは20種類以上の抗体で薬剤候補を作成している」(小林氏)。

「アキャルックスはこれから展開していく最初の製品」(三木谷氏)と意気込むものの、楽天メディカルとして適応拡大のための治験は現在行っていない。ほかの抗体を用いた薬剤で、治験の前段階にあたるマウスでの研究が行われているのみだ。

今回、楽天メディカルが1つの薬剤の承認を得るのに数百億円の資金が必要だったように、新しい薬剤の開発には多額の費用がかかる。そのため、ベンチャー企業が開発スピードを上げるために資金やノウハウを持つ大手製薬企業と提携するのは珍しいことではない。

こうした大手製薬企業との提携について、楽天メディカルジャパンの虎石貴社長は「柔軟に対応していく」と答える。適応拡大など今後の開発がどう進んでいくのか、そのスケジュールは未知数だ。

楽天メディカルの光免疫療法が今後、がん治療にどれだけ貢献できるのか。三木谷氏が言うように、まだスタートラインに立ったばかりだ。

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石阪 友貴:東洋経済 記者

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