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2020.10.08

思春期のうつ病は、SNSの長時間利用と関連があるのか?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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スマホ依存、ゲーム依存など、過度なインターネット利用が青少年の心をむしばむという話はよく聞きます。実際、SNSやゲームなどの使用時間が長いと、どれくらい思春期の子供に影響を与えるのでしょうか?

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、JAMA Pediatrics 誌に2020年7月15日ウェブ掲載された、SNSやテレビなどの使用時間の増加が、思春期の若者に与える影響についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

思春期のうつ病には、SNSやゲームが関係しているか?

SNSやビデオゲームが、思春期の精神に悪影響を与えるという考え方は、その使用が広がり始めた時期から根強くあります。

特に指摘されることが多いのは、うつ病との関連です。

確かにSNSで炎上などすれば、気分は落ち込んでうつになることは当然想定されるところです。ただその一方で、落ち込んでいてSNSで励まされるようなこともありますから、その影響は決して単純なものではありません。

これまでにも、テレビやコンピューター、ビデオゲームやSNSとうつ病との関係については、多くの疫学研究が報告されていますが、一定の関連があったというものがある一方で、無関係という報告もあり結果は一定していません。

学生を対象に、ネットやテレビの使用時間とうつ病の関係性を調査

今回の研究では、カナダのモントリオールで、7学年から11学年(12から16歳)の学生を対象とした、ドラッグやアルコール依存予防のための介入試験のデータを二次利用し、1日のうちでモニターを見ている時間を、ビデオゲーム、テレビの通常の視聴、SNSの利用、コンピューターの通常の利用の4種類に分け、その時間数とうつ症状との関係を主に各個人のデータの推移で検証しています。

ある学生のテレビゲームやSNSの使用時間の増加が、その後のうつ症状の悪化と関係があるのかどうかを検証しているのです。

うつ病の症状については、Brief Symptoms Inventoryという指標を用いて数値化しています。これはうつ病の症状の各項目について、0から4に区分して自己評価して点数化しているもので、点数が高いほど症状が強いことを示しています。ただ、簡易的な指標で、うつ病の診断に使用されるような物ではない点には注意が必要です。

これまでの同種のデータは、主にアンケートなどで得た使用時間数や頻度と、その時点でのうつ病の罹患頻度を、単純に比較しただけのものが多かったので、今回のデータは臨床試験の二次利用ではありますが、元のデータがしっかりと取られているので、それだけ厳密で精度の高いものになっているのが特徴です。

SNSを使う時間が長いほどうつ病が悪化する結果に

3826人の思春期の学生を4年間観察した結果として、まず個別ではなく全体での比較においてはSNSを利用している時間が長いほど、うつ病尺度におけるうつ病の症状は強く認められました。また、同様の関連はコンピューターの通常使用時間についても、同様に認められました。

一方で、各個人での検証では前年と比較したSNSの利用時間の増加が、同じ年のうつ病症状尺度の上昇と有意に結び付いていて、テレビの通常視聴でも同様の傾向が認められました。

従って、個別の検証でも全体としての検証でも、SNSの使用時間の増加は、うつ病症状の悪化と関連が認められました。

SNSを長く使うとうつ病が悪化するのはなぜ?

仮にSNSの使用時間増加がうつ病症状悪化の原因であるとすれば、それはどのようなメカニズムによるものでしょうか?

これまでに提唱された仮説は、主に3つあります。

その1つ目はDisplacement(置換)と呼ばれるもので、単純に他の運動や読書、友人との直接の交流、などに向けられるべき時間が、SNSに向けられることによって減少してしまうことが、原因であるという説です。

2つ目はUpword Social Comparison(上方社会的比較)と呼ばれるもので、SNSで自分より優れている人、自分より幸福な人の情報を、多く得ることにより、それと自分を比較して劣等感を強く感じ、それが自己評価や自尊心の低下に結び付く、という仮説です。

3つ目はReinforcing Spirals(あまり良い翻訳がありません)と呼ばれるもので、うつ病傾向のある人は、自分と似通った思考を見ることを好むので、SNSのそうした情報に依存するようになり、それがうつ病の悪化に結び付いてしまうという仮説です。

この3つの仮説のうち、どれが今回の現象を上手く説明出来るかを検証したところ、1つ目の置換説は否定的で、2つ目と3つ目の仮説がよりその説明に有効であると考えられました。

つまり、SNSに時間を費やすこと自体が悪いということではないのですが、それが自尊心を低下させる方向に結び付いていたり、うつ病の症状を助長させるような可能性のある情報に結び付いていると、うつ病を悪化させる可能性があるという推論です。

SNSが悪いのではなく、その情報内容に影響される可能性が

今回の検証はこれまでのものより厳密である点で信頼性が高く、こうしたデータを元にしてSNSのどのような利用が危険であるのか、安全な利用のためにはどうあるべきなのか、といった点の議論に結び付くことを期待したいと思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36