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2020.10.14

新薬が広げる選択肢!進歩する肺がん治療最前線【肺がん・後編】

kencom公式ライター:森下千佳

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がんの中でも特に治療が難しく予後が悪いとされる肺がんですが、その治療法が急速に変わりつつあります。新薬が相次いで開発され、タイプに応じた治療の選択肢が増えており、たとえ進行したがんであっても治せる時代があと一歩のところまできているそうです。今、世界中で研究が進む注目の「肺がん最先端治療」を、国立がん研究センター中央病院副院長・呼吸器内科長、大江裕一郎先生に解説いただきました。

肺がんのタイプと進行度で異なる治療法

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肺がんの治療には、手術、薬物療法(抗がん剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬)、放射線療法の3つがあり、肺がんのタイプと進行度によって治療方法が変わります。肺がんは、「小細胞肺がん」と、「非小細胞肺がん」(腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん)に分類されますが、まずはどちらの肺がんタイプかを見極めることが治療の大きな目安になります。

非小細胞肺がんの治療法

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非小細胞がんの場合、早期(Ⅰ期からⅢ期の一部)であれば手術によって根治を目指します。この場合、必要と判断されれば手術後の再発予防として抗がん剤を行うことがあります。
局所進行がんと呼ばれる段階(周囲の臓器に広がっているが、遠隔転移はないⅢ期)では手術で切除しきれないため、抗がん剤と放射線療法を同時に用いる治療が勧められています。現在では、その後に免疫チェックポイント阻害薬が追加されます。
進行がん(遠隔転移がある、Ⅲ期の一部からⅣ期)に対しては、主に薬物治療が行われます。

小細胞肺がんの治療法

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小細胞肺がんの治療は抗がん剤による治療と放射線治療の2つを中心に行います。
小細胞肺がんは進行が速く転移しやすいという特徴があり、発見された時には離れた臓器への転移が起こっていることも少なくありません。

しかし、増殖が速いということは抗がん剤治療や放射線治療がよく効くということでもあるため、治療による延命効果が高く、初期であれば治癒を目指せます。一口に肺がんと言っても種類は様々で治療法は十人十色です。

開発が進む様々な新薬たち

今、最も期待される「免疫治療」とは?

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これまでがんの中でも特に治療が難しいと言われてきた「肺がん」ですが、まさに今、新薬の登場などによりこれまでの治療方法が一新されようとしています。
その治療方法が「免疫チェックポイント阻害薬」を用いた免疫療法です。
この治療によって進行がんであっても長期に生存できる方が出てきており、「進行がんの根治を目指せるかもしれない」と世界中で期待され、臨床試験が行われています。

「免疫チェックポイント阻害薬」の仕組み

この薬は、簡単に言うと「免疫細胞を元気にして、がん細胞を攻撃できるようにする」というものです。

ウイルス、細菌、がん細胞など、身体に害を及ぼすものから私たちを守ってくれる免疫ですが、時に行き過ぎて自分自身を傷つけてしまう「自己免疫反応」を起こす事があります。そのような行き過ぎを防ぐために、私たちの身体には免疫を抑制するブレーキが備わっているのですが、がん細胞は、このブレーキボタンを押して免疫を働かなくし、増殖する事ができます。
そこで開発されたのが「免疫チェックポイント阻害薬」です。免疫チェックポイント阻害剤は免疫細胞のブレーキボタンを外して、免疫細胞ががん細胞を攻撃できるようにするのです。

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免疫療法は遠隔転移のある進行がんの方の標準的な治療になっていて、抗がん剤と組み合わせて効果をあげています。現在は手術との組み合わせでも治療効果が上げられないか研究が進められています。

副作用は?

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免疫チェックリスト阻害薬の治療を受けた7割ぐらいの方には、従来の抗がん剤治療で起こるような副作用は出ませんが、3割の方には全身にさまざまな副作用が起きます。
ブレーキが効かなくなる事で免疫が暴走してしまうため、肺炎や肝障害、皮膚の障害、内分泌障害など全身の免疫疾患がおきる可能性があります。

個人差が大きく、いつどんな副作用が起こるか予測がつかないため、免疫療法は副作用に十分に対応できる体制が整っている医療機関で受けることが大切です。

がんの特性を遺伝子レベルで解析!オーダーメイド治療薬とは?

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進行がんの治療で、もう一つ期待されているのは「分子標的薬」です。これまで肺がんは他のがんに比べて抗がん剤の効きが良くないとされてきました。しかし、近年肺がんの発生する仕組みや遺伝子変異の解明が進み、患者さんごとにがんの性格が異なる事がわかってきました。
そこで、がんのタイプごとに、そのがん細胞だけがもつ特定の分子(タンパク質)をピンポイントで攻撃する「分子標的薬」が登場しました。

この「分子標的薬」は、誰にでも効くという薬ではなく、条件が合う患者さんには劇的に効きますが、条件が合わなければまったく効果なし、という結果になります。そこで治療を始める際には、まず患者さんのがんの遺伝子検査を行ってから、という手順が一般的になってきています。
まさにオーダーメイド治療です。

今後の肺がん治療は、多くの選択肢の中から患者さんごとにより適切な治療法を選べる、こういったオーダーメイド治療へと進化していくのではないでしょうか。

禁煙と検診で、肺がんを予防しよう!

現在、肺がん予防として確実な方法は、「禁煙」と「間接喫煙を減らす」のみです。
繰り返しますが、肺がんは初期には自覚症状がありません。症状が出た段階になると、ある程度がんが進行している可能性があります。
今、新型コロナウイルスの影響もあって、病院や検診機関を受診する方が減っています。肺がんで命を落とさないためには、肺がんにならないように禁煙する「一次予防」と、定期的に検診を受けて早期発見をする「二次予防」が大切です。
検診は延期をせず、もし何か症状があるようであれば、しっかりと医療機関を受診して欲しいと思います。

大江 裕一郎(おおえ・ゆういちろう)先生

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国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院 副院長
呼吸器内科長、人材育成センター長
1984年東京慈恵医科大学医学部卒業後、同大学病院、国立がん研究センターなどへの勤務を経て、2010年国立がん研究センター東病院呼吸器腫瘍科呼吸器内科長、2011年同病院副院長、2014年から現職。2016年より東京慈恵医科大学大学院医学研究科連携大学院教授。

著者プロフィール

■森下千佳(もりした・ちか)
フリーエディター。お茶の水女子大学理学部卒。テレビ局に入社し、報道部記者として事件・事故を取材。女性ならではの目線で、取材先の言葉や見過ごされがちな出来事を引き出す事を得意とする。退社後、ニューヨークに移住。当時、日本ではなかなか手に入らなかったオーガニック商品を日本に届けるベンチャー企業の立ち上げに関わる。帰国後、子宮頸がん検診の啓発活動を手がける一般社団法人の理事を経て現職。一児の母。

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