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2020.09.24

ソーシャルディスタンシングの有効性とその限界【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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一人一人の距離を取り、ウイルス感染のリスクを抑える「ソーシャルディスタンシング」。すっかり日本でも定着しましたが、これにはどれくらい感染予防効果があるのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、British Medical Journal誌に,2020年8月25日ウェブ掲載された、新型コロナウイルス感染症予防のための、ソーシャルディスタンシングの有効性を検証した解説記事です。

▼石原先生のブログはこちら

ソーシャルディスタンシングはどれくらい感染リスク抑制効果があるのか

ソーシャルディスタンシングというのは、人間同士が接触する時に必要な距離を取り、接触する場所を選び、必要最小限な時間に接触を留めることで、ウイルス感染のリスクを最小限に抑制しよう、という対策のことです。(ちなみにメディア等で耳にする「ソーシャルディスタンス」は、社会における人の心理的距離という意味合いになります。)

上記解説記事では、Physical distancingという用語が用いられていて、それ以外にSocial distancingという言い方も、アメリカなどで使用されています。

ソーシャルディスタンシングの実際については、国内外において、1もしくは2メートルの距離を取ることが、基準として提唱されています。

ただ、その根拠となるデータは、主に1940年代の古い単純化された理論と実験が元になっています。その信頼性は実際にはそれほど高いものではありません。

飛沫の飛び方は環境によって大きく異なる

ウイルスを含む飛沫粒子は、通常の会話と大声を出したり歌ったりする時では、その飛び方が大きく異なりますし、屋外であれば風の方向は湿度、室内であれば換気の状態によっても、大きく異なります。

接触する時間についても、今濃厚接触は15分以上とされていますが、これも5分から15分と様々な基準があり、勿論長時間になるほど感染リスクが高くなるのは、これはもう当たり前ですが、どのくらいの短時間であれば良いのか…というような点については確たるデータはないのが実際なのです。

換気の悪い室内で、大声を出すと高リスク

それではこちらをご覧下さい。

これはソーシャルディスタンシングの効果に、影響を与える因子を一覧にして、そのリスクを検証したものです。

元図は左右に分かれていて、右が密な空間の場合で、左は人数の少ない空間の場合です。これはその図の左側のみを示しています。図の大きさの関係で半分のみ表示しています。

緑はリスクの低い状態で、黄色はややリスクのある状態、赤は高リスクであることを示しています。

人間同士の距離が取れる環境であっても、換気の悪い室内で、大声で歌ったりすれば、短時間でも高リスクになっています。これがカラオケスナックなどで、感染が拡大しやすい理屈ですね。

本当はもっとリスクを数値化して、示せるようになればより説得力が増すのですが、現状の知見の範囲では、このように3種類に分けるくらいが限界であるようです。

もっと明確な感染抑止基準が策定されることを期待

現状日本の方針では、小さな飲食店でも客席の間隔は極力2メートル以上開けるように努力するというような趣旨になっていますが、それを継続することは多くの店にとって存続を危うくすることではないかと思います。

距離を近づけざるを得ないとすれば、他のリスク因子を調節することでリスクの低下を図ることが重要で、今後新しい知見を元にして、より明確な感染抑止基準が策定されることを期待したいと思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36