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2020.10.07

消化器がん専門医師に聞く 胃がん最新治療法と予防【胃がん・後編】

kencom公式ライター:森下千佳

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目まぐるしく進歩する現代医療。それは、がんの治療法に関しても例外ではありません。今回は世界中で研究が進む胃がんの最新治療法とリスクを下げる生活習慣について、新しい抗がん剤の研究を手がけている国立がん研究センター東病院・消化管内科医長の設楽紘平先生に教えていただきました。

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進行度別の胃がん治療法

胃がんの治療法は大きく分けて「内視鏡治療」「手術」「抗がん剤治療」の3種類になります。がんの大きさや深さ、転移しているか、がんの種類などを総合的に判断して治療法を決めていくことになります。

内視鏡による切除での治療

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早期胃がんの中でも、がんが胃の粘膜にとどまっていて他の場所に転移が見られない場合には、内視鏡(胃カメラ)で内側から切除することで治療が終わります。胃カメラを口から入れて、モニターを見ながら細いナイフのような電気メスを使い、がんができている場所を切除します。身体への負担が少なく胃の機能も維持できますが、1週間程度の入院が必要です。

手術による治療

がんが進行して胃の粘膜を越えていたり周囲のリンパ節に転移していたりする可能性が高い場合は、外科的にがんを切り取る手術を行います。
切除範囲はがんの位置や進行度で異なりますが、周囲のリンパ節も広く切除します。しかし最近では、手術後のQOLをあげる目的から切除する胃やリンパ節を最小限にし、胃が本来持っている機能を出来る限り温存することで胃に与える負担を軽減する処置が増えています。

抗がん剤治療

ステージⅡの一部とステージⅢの場合は、がんが胃とまわりのリンパ節に転移しているため、手術で胃を切除するとともに再発予防のために抗がん剤治療を行ないます。また、最近では手術前に抗がん剤治療をし、がんを小さくする事で治る確率を上げることを目指すケースもあります。

胃がんの治療は手術が最も有効ですが、既にステージⅣで遠く離れた肝臓や肺、腹膜など広範囲に転移していて全てのがんを取り除くことができない場合や、切除しても再発や転移することが確実で手術をしても治癒効果が期待できない場合もあります。その場合は、がんの進行を抑えて体調がいい状態をできるだけ長く維持することを目標に抗がん剤治療を優先します。

薬の進化で伸びる余命、軽減する副作用

「抗がん剤治療」と聞くと、どうしても「吐き気」「髪の毛が抜ける」などの辛い副作用のイメージが根強くあり、不安に思う方も多いでしょう。
しかし、近年は抗がん剤の種類が増えたことや、副作用を和らげる薬やマネジメント方法が進化したことで、普通の生活を続けながら治療を受けられるようになってきています。

また、抗がん剤の進化によって、手術を受けられないような進行がんでも生存期間が伸びてきています。

新しい抗がん剤「分子標的薬」とは?

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従来の抗がん剤は非常に増殖が速いというがん細胞の特性を利用し、細胞の増殖が激しいところに働いて攻撃するという仕組みです。そのため、がん細胞だけでなく増殖のスピードが早い正常な細胞にもダメージがいっていました。脱毛や吐き気といった副作用が出やすいのは、頭皮や胃腸などの細胞は分裂が活発なためです。

そこで開発されたのが、がんの原因に関わる特定の分子だけを狙って攻撃する「分子標的薬」になります。正常な細胞へのダメージが少ないため副作用が比較的少なくて済むのが特徴です。これまでの抗がん剤を絨毯爆撃に例えるのなら、分子標的薬はがん細胞だけをピンポイントで攻撃できるミサイルのようなイメージです。

注目を浴びる最新治療法「免疫チェックポイント阻害剤」とは?

また、他のがんですでに使われてきた「免疫チェックポイント阻害剤」も胃がんで使われるようになりました。
この薬は簡単に言うと、「免疫細胞を元気にしてがん細胞を攻撃できるようにする」というもの。

私たちの身体は免疫の力によって発生したがん細胞を排除しています。ところが、免疫細胞の力が弱まったりがん細胞が免疫細胞にブレーキをかけたりすることで、免疫ががん細胞を排除しきれないことがあります。そこで開発されたのが、「免疫チェックポイント阻害剤」です。「免疫チェックポイント阻害剤」はがん細胞が免疫細胞へブレーキをかけられないようにし、本来の通り免疫細胞ががん細胞を攻撃できるようにします。

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胃がんに対する「免疫チェックポイント阻害剤」はこれまで、複数の抗がん剤治療が終わった後の薬として使われてきました。しかし、最近の研究では、初めから他の抗がん剤と組み合わせて使う事で、生存期間が伸びることが分かってきていて、更なる研究が進められています。

簡単!家でできる胃がんリスク低減方法

「塩分控えめ」と「禁煙」で胃がんのリスク軽減

治療の選択肢が増えてきているとはいえ、誰しも「がんになりたくない」、と思うのは当然ですよね?
しかし、残念ながら、まだ予防法として確立されているものはありません。

ただ、胃がんのリスク因子を避けることは予防に繋がります。以下の代表的な4つのリスクをなるべく避け、定期的に検診を受けることが今できる予防法と言えると思います。

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特に日本人は、味噌汁や漬物、干物など塩分濃度が高いものを食べる機会が多いので注意が必要です。一日当たりの塩分は6g以下を目安にしましょう。

また、胃がんの発症に関わるといわれている「ピロリ菌」ですが、見つかった場合は除去治療を行うことで発症リスクをある程度下げる可能性はありますが、リスクがゼロになるわけではありません。
ピロリ菌を除去した後も定期的に胃がん検診を受診することが大切です。

胃がんは定期検診で防ごう!

胃がんは日本では非常にかかる方が多い病気です。ただ、早期に発見をして適切な治療を受ければ治る確率も非常に高いので、定期的な検診が本当に大切です。
また、胃の不快感や痛みなど何らかの症状が続くような時には、早めに医療機関に相談しましょう。たとえ病気が進んで見つかったとしても、手術や抗がん剤の進歩で治る方や元気に長生きできる方も多いので、しっかり治療をする価値がある病気です。

設楽 紘平(したら・こうへい)先生

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国立がん研究センター東病院消化管内科医長 同センター先端医療開発センター新薬臨床開発分野併任
2002年東北大学医学部卒業。2002年より亀田総合病院、三沢市立三沢病院、愛知県がんセンター中央病院を経て現職。
日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医。日本内科学会 認定内科医。

著者プロフィール

■森下千佳(もりした・ちか)
フリーエディター。お茶の水女子大学理学部卒。テレビ局に入社し、報道部記者として事件・事故を取材。女性ならではの目線で、取材先の言葉や見過ごされがちな出来事を引き出す事を得意とする。退社後、ニューヨークに移住。当時、日本ではなかなか手に入らなかったオーガニック商品を日本に届けるベンチャー企業の立ち上げに関わる。帰国後、子宮頸がん検診の啓発活動を手がける一般社団法人の理事を経て現職。一児の母。