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2020.09.03

保険適用の禁煙外来で効果的なアプローチを【専門医が教える禁煙のススメ後編】

kencom公式ライター:松本まや

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身体への悪影響や、病気のリスクを分かっていてもなかなかやめることが難しいタバコ。実はれっきとした病気として、健康保険適用で治療を受けることが可能です。自力での禁煙との違いや治療のステップについて、引き続き禁煙治療を多く扱う中央内科クリニックの村松弘康先生に解説していただきました。

▼前編の記事はこちら

喫煙への依存度を簡単にチェックするには

ニコチン依存度チェックで簡単に確認可能

ニコチンへの依存度は、日本の禁煙外来で一般的に使用されている、ニコチン依存度テスト(TDS)ですぐにチェックすることができます。10問の問診表となっていて、5つ以上にチェックが入るようであればニコチン依存症と診断されます。

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朝イチの喫煙習慣は依存の証?

特に依存が強い人はどのような人なのでしょうか。
就寝中、人はタバコを吸うことができないため、起床直後は血中のニコチン濃度が最も低くなります。朝起きたらすぐにタバコを吸いたくなってしまう人は、ニコチン欠乏の症状が強く出ており、特にタバコへの依存が強い可能性が高いと言えます。

一方で職場では吸っても週末は吸わない人や、飲み会の席でだけ吸うという人は、ニコチンへの身体的な依存度は低いと言えるでしょう。

禁煙外来ではどのような治療が行われる?

自力の禁煙は心理的な依存が高まるリスクも

禁煙外来での治療は、自力での禁煙とどのように違うのでしょうか。ニコチンガムやニコチンパッチを使用しない、完全な自力での禁煙成功率は数%~高くても2割弱と言われています。これだけニコチン依存症は抜け出すことが難しいのです。
ところが禁煙外来では8割以上が禁煙に成功するというデータもあり、成功率が格段に上がります。

自力での禁煙は、我慢を重ねた後につい吸ってしまった際、タバコを余計に「おいしい」と感じやすくなってしまい、心理的な依存が強まるリスクもあります。他人といるときだけ喫煙するようなソーシャルスモーカーの人は自力で禁煙に成功できる場合もありますが、ニコチンへの依存度が高い人は自力で挑戦する前に、禁煙外来にかかることをおすすめします。

禁煙外来では心理的な依存にもアプローチ

禁煙外来では、患者の依存度や副作用の状況に応じて、飲み薬かニコチンパッチのいずれかの禁煙補助薬が選択されます。

禁煙外来でよく使用される禁煙補助薬はバレニクリンと呼ばれる飲み薬で、ニコチンではないものの、α4β2ニコチン受容体と結合するニコチンの類似物質を含みます。この物質はニコチンより作用が弱く、放出されるドーパミンも少量です。タバコの禁断症状を軽減できる他、ニコチン受容体と結合することで喫煙行動によってニコチンが新たに結合することを防ぎます。その結果、タバコを吸っても「おいしい」と感じにくくなるため、心理的な依存も弱める効果もあるのです。

ニコチンパッチは、ニコチンを含んだパッチを肌に貼って肌からニコチンを少しずつ染み込ませ、血中のニコチン濃度を一定に保つことで、禁断症状の出現を抑える治療法です。飲み薬の場合はニコチンそのものではなく、あくまで類似物質を摂取するので、ヘビースモーカーなど、ニコチンでないと十分な効果が出ない場合には、ニコチンパッチが選択されます。

治療期間や費用の目安

治療期間は原則3ヵ月

保険が適用される治療期間は、禁煙補助薬の場合3ヵ月です。禁煙を3ヵ月続けると、ニコチンの過剰摂取によって減少していたドーパミンのD1受容体が徐々に回復し始め、徐々に体が正常な状態に近づきます。それまでの間、3ヵ月で計5回通院して状況を見ながら、禁煙補助薬やニコチンパッチで身体のバランスを保って過ごすことになります。

治療費は約2万円

治療法によって多少差はあるものの、禁煙外来の治療費は3割負担の場合で2万円前後です。高く感じるかもしれませんが、治療期間を日割り計算すると1日230円程度でタバコ半箱分相当です。その後喫煙を続けた場合にかかる費用と比較すると経済的です。

「禁煙」ではなく「卒煙」で再喫煙防止を

せっかく禁煙をしても、飲み会の席や同僚との付き合いなど、何かのきっかけで再びタバコを吸い始めてしまっては、努力が水の泡となってしまいます。再喫煙を防ぐカギは、心理的な依存からの脱却。急激にタバコをやめてしまうと反動で吸いたくなってしまうことがあるので、まずは1日、次は週末と少しずつ期間を長くしていったり、タバコの害をきちんと理解したり。禁煙が続けられるよう、無理な「禁煙」ではなく、喫煙からの自然な「卒業」を目指して、禁煙外来ではその人に合った工夫をしながら禁煙をサポートしていきます。

村松 弘康(むらまつ・ひろやす)先生

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医学博士、中央内科クリニック院長
平成元年東京慈恵会医科大学卒業、同大学非常勤講師、武蔵野大学客員教授
日本国際医学協会評議員、日本生活習慣病予防協会参事、日本禁煙学会理事、日本内科学会専門医、日本呼吸器学会指導医、日本アレルギー学会指導医

著者プロフィール

■松本まや(まつもと・まや)
フリージャーナリスト。2016年から共同通信社で記者として活躍。社会記事を中心に、地方の政治や経済を取材。2018年よりフリーに転身し、医療記事などを執筆中。

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