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2020.09.01

防災のプロが教える、いざという時のための意識改革

kencom公式ライター:大貫翔子

あなたは防災対策を十分にしていると言えますか?なんとなく「自分は大丈夫」と思っていませんか?自分や周囲の人の命を守るためには、日ごろの備えが何よりも大切です。

そこで、災害レスキューナースとして数々の災害現場で救急活動を行ってきた辻直美さんに、災害に対する心構えや普段から実践していることを伺いました。「防災の日」の今日、改めて防災について考え、意識と行動を変えていきましょう。

改めて考えたい災害のリスク

災害は季節や時間を問わず起こりえます。特に地震は正確な予測ができません。

政府の地震調査委員会によれば「今後30年以内に80%の確率で南海トラフの巨大地震が発生する」と予測されています。

今、この記事を読んでいる瞬間にも、災害が発生する可能性は十分にあるのです。
まずはそのことをしっかりと認識しましょう。

防災標語の「よ・い・こ」を覚えよう!

避難訓練では「お(押さない)・か(駆けない)・し(喋らない)」や「お(押さない)・か(駆けない)・し(喋らない)・も(戻らない)」といった防災標語を習います。しかし、これを実践しては助からないと辻さんは言います。

辻さん:「走らない、喋らないといった標語は、リーダーがいる上で避難訓練をスムーズに行うためのルールです。実際に災害が起きた時には役立ちません」

そこで、あらゆる災害の時に役立つ防災標語として辻さんが新たに提唱するのが「よ・い・こ」です。災害発生時にはこの言葉を思い出して行動してみてください。

よ:よく見る

災害発生時には、周囲の状況をよく見て冷静に判断することが重要です。落ち着いて、何が起きているのか見極めましょう。

い:急いで逃げる

すぐそばに火や水が迫っている時に、のんびり逃げていては命を失いかねません。できるだけ急いで危険な場所から離れて、命を守ることを最優先に行動しましょう。

こ:声をかける

まずは自分自身に「いつも準備しているから大丈夫」と声をかけて落ち着かせること。そして「大丈夫ですか?」「逃げましょう!」と周囲に声をかけることの2つがあります。

日ごろからできる災害への備え

必要な物と正しい知識を準備しておけば、いざという時に身を守ることができます。
物の準備や心構え、情報収集などできることはたくさんあるので、今のうちに備えておきましょう。

命を救う「4種の神器」

辻さんが肌身離さず持ち歩いているという「4種の神器」。ナイフ以外は全て100均で購入。

辻さんが肌身離さず持ち歩いているという「4種の神器」。ナイフ以外は全て100均で購入。

辻さんが肌身離さず持ち歩いているという「4種の神器」は、外出先で被災した際、命を守ったり安全な場所に移動する際に役立ちます。
4つのうち3つは100均で買えるプチプラグッズ。辻さんは常に予備をストックしているそうです。

(1)ソーラーライト

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辻さん:「ボタン電池は救援物資で送られてこないので、太陽光で充電できるものがおすすめです。水の入ったペットボトルの底を照らせばランタン代わりになり、電気が止まっても明るさを確保できます」

(2)防災笛

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辻さん:「救助を求める際、大きな声を出すとすぐに体力を消耗してしまいます。防災笛なら少しの息で大きな音が鳴るので、子どもやお年寄りでも使えます。中に緊急連絡先や血液型、アレルギー情報などを書いた紙を入れておけば、意識を失った時に役立ちます」

(3)コンパス

辻さん:「外出先で災害が起き、ランドマークとなる建物が倒壊すると、東西南北の感覚がわからなくなってしまいます。また停電すると夜間は外の様子が見えません。スマートフォンも機能しなくなる可能性があるため、アナログで方角を示すコンパスが便利です」

(4)万能ツール

辻さん:「万能ツールのナイフでも野菜や魚を切ることができます。持ち歩くことを考えると軽くて小さいものがよいでしょう。他の3点は100均で十分ですが、耐久性や使い勝手を考慮し、万能ツールだけは専門メーカーの物をおすすめします」

※(2020年9月2日:追記)当初ナイフの記載でしたが万能ツールに修正いたしました。刃渡り6cm以上の刃物を所持していると銃刀法違反にあたり届出が必要になります。法律の範囲内で自己責任のもと十分ご注意ください。下記の警視庁の情報も参考にしてください。

避難所は「災害の種類×3カ所以上」チェック

避難所はオールマイティではなく、地震時、水害時など用途が分かれています。さらに今は新型コロナ感染防止のために1カ所で収容できる人数が制限され、入れない可能性もあります。

各避難所がどのような災害の際に利用可能か、ハザードマップに記されています。あてが外れてパニックにならないよう、それぞれの災害につき3~5カ所程度、居住エリアの避難所をピックアップしておきましょう。

正しい情報収集&発信

災害時、刻一刻と状況が変化する中で古い情報やデマに惑わされないためには、正しく情報収集することが必要です。

辻さんは日ごろから情報収集の精度を高めています。

辻さん:「Twitterでは、首相官邸や消防庁、自衛隊、自治体の消防など、正しい情報を発信するアカウントをフォローしています。一般のアカウントについては、デマや誇張を煽る人がいるため信憑性がどうしても下がります。 顔と名前を公表しており、情報に対して専門知識をもっていると思われる方であることを確認するとよいでしょう。また、ツイートやリツイートの日付時刻が記されているかもチェックし、自分が発信する際も同じようにしています」

遠方へ出張する際は、行き先の天気情報をプッシュ通知にしておいて、常に気象情報を収集するようにしているといいます。

外出先でも避難経路の確保を

知らない場所で災害に遭うと、避難経路がわからずに逃げ遅れてしまう危険があります。いつどこで災害が起きても身を守れるように、辻さんは常に避難経路を確保する習慣をつけているそうです。

辻さん:「初めて行く場所では事前にGoogleマップなどで詳細を確認し、到着したらすぐに避難経路を確認します。防災扉の前に荷物が置かれていないか、人が殺到しそうな通路なども瞬時に判断します」

常に「今被災したら」という意識で動くことが命を守ることにつながるのです。

覚えておきたい応急措置

災害時、ケガ人がいてもすぐに救急車が来てくれるとは限りません。医師や救急救命士でなくても、応急処置をして命を救うことができます。ただし、やり方によってはかえって危険な場合も。救助や応急措置の際の注意点を覚えておきましょう。

ガレキを持ち上げて救助しない

身体が家具やガレキの下敷きになってしまった人を助ける場合、物を一気に持ち上げてはいけません。

辻さん:「クラッシュシンドローム(挫滅症候群)という症状をご存じですか?体に長い時間圧力がかかると体内で毒素が排出され、圧迫されている部分で止まります。この状態から血流を開放すると、一部で止まっていた毒素が全身に回ってしまい、心臓が停止してしまいます」

安全に救助するには専門知識が必要です。不用意に助けようとせず、救助を呼んだうえで気力を保つためにそばで応援するなどしましょう。

不衛生な空気・汚水に触れない

災害時は通常時よりもはるかに衛生環境が悪化します。地震で建物が倒壊するとほこりが舞い上がり、病原菌を持った虫が表に出てきます。水害では川からの水だけでなく、生活廃水が下水道から溢れてきます。毛穴や粘膜から雑菌が入り込み、病気になってしまうこともあります。

傷がある場合はもちろん、傷がなくても皮膚をむき出しにしていることは危険です。不衛生な空気や汚水に触れる場合は、必ずマスクで口を覆い、長袖・長ズボンを着用しましょう。

素人でもできる止血のしかた

外傷によって出血している場合、まず傷口を清潔な水で洗い流し、その後で止血を行います。
止血の方法は動脈と静脈で方法が異なります。

動脈出血は拍動に合わせて勢いよく出血します。その場合は、傷口と心臓の間の部分を強く縛り、心臓より高く上げた状態で一刻も早く病院へ搬送してください。

静脈は血流の勢いが弱いため、傷口を圧迫することで止血できます。傷口が広い場合は、心臓より高く上げた状態で圧迫します。

いずれも傷口を圧迫する際は素手で触れず、清潔なガーゼやタオルなどを使いましょう。

辻さん:「重傷・軽傷を問わず、病院で治療を受ける際は、市販の傷口を覆う消毒剤(パウダー状や泡状のもの)は塗らずに来てください」

防災はいざという時の準備だと考えて!

このように辻さんは、日ごろから防災について考え、行動をしています。
それでは、withコロナ時代の今、防災はどのように考えればよいのでしょうか。

辻さん:「withコロナだからといって、避難所での過ごし方が変わるわけではありません。手洗いやうがい、アルコール消毒といった対策をいつものようにやるだけです。ただ、マスクや消毒用アルコールが不足することが考えられるので、多めに準備しておくとよいでしょう」

手ぬぐいをマスク代わりに使ってみたり、固形石鹸で食器を洗ってみたりと、代用物を見つけて実際に使ってみることで、いざという時に落ち着いて行動できると辻さんは言います。

辻さん:「災害は怖いけれど、防災の知識があれば対処できることは多いです。防災の日に改めて考えてみてはいかがでしょうか」

監修者プロフィール

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■辻直美さん(国際災害レスキューナース/一般社団法人育母塾代表理事)
看護師として活動中に阪神・淡路大震災を経験。実家が全壊したのを機に災害医療に目覚める。看護師歴28年、災害レスキューナースとしては25年活躍している。被災地派遣は国内19件、海外2件。被災地での過酷な経験をもとに、本当に使えた防災術を多くの人に知ってほしいと、大学での防災に関する講義・講演や、小中学校での授業を精力的に行っている。一般向けのオンラインセミナーも開催中!

著者プロフィール

■大貫翔子(おおぬき・しょうこ)
編集プロダクションにて住宅情報誌や企業の広報誌、フリーペーパー等の編集・制作に携わる。のちにフリーの編集・ライターとして独立し、住宅、キャリア、ヘルスケアなどのジャンルで記事を執筆。

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