メニュー

2020.07.10

感染状況に合わせた対策を。新しい生活様式の中で労働環境を整えるポイント

kencom公式ライター:松本まや

記事画像

※この記事は7月1日(水)に取材した内容に基づいています。

東京都を中心に確認された感染者数が再び増加しつつある中、長期化の兆しを見せている新型コロナウイルスとの闘いに、企業として、そして個人としてどのように向かい合うのがよいのでしょうか。
公衆衛生や感染症などを専門とし、「企業のための新型コロナウイルス対策マニュアル(東洋経済新報社)」も執筆された国際医療福祉大学医学部の和田耕治先生にお聞きしました。

まずは1年を目安に慎重な行動を

日本では諸外国と比較して感染の抑え込みに成功し、感染拡大に歯止めがかかったように思えましたが、また首都圏を中心に感染者数が増加しつつあります。これから第二波が訪れるのではないかと警戒される中、以前と比べて情報量も増え、対応策の選択がかえって難しくなっている側面もあります。時間の経過によって状況が改善する目途は立っておらず、2~3年このような状況が続くことも予想されます。

しかし、1年を経過し、季節ごとに感染の傾向が見えてくれば、より効果的な対策が講じられるはずです。現状では手探りの状況が続いているため、まだしばらくは慎重に行動することが求められます。

4~5月と比較して、医療体制が整ってきていると言われているものの、一度感染が大きく広がってしまったら医療崩壊するリスクも大いにあります。医療現場を支えるためも、生活の中に予防策を取り入れることが重要です。

地域に合わせた対策案が必要

会社が取るべき対策は地域によって異なる

今後長期的に新型コロナウイルスと向き合う中で、ひとつのキーワードは流行状況の「地域差」です。例えば感染者の多い首都圏とその他の地域では、必要な対策は全く異なるということを理解し、地域の流行状況に応じた対策を講じていきましょう。

感染が少ない地域では「備えの時期」と心得て

5月末頃、一部の地方で局地的に感染が広がったように、人が移動している限りどの地域でも感染が広がる可能性はあります。現在感染があまり確認されていない地域では、過度な対策は必要ありませんが、感染が広がった場合に迅速な対応が取れるよう、例えば今のうちにリモートワークの準備を進めておくなど、「備えの時期」と考えてください。

職場としてどのように備えるべきか

記事画像

年間スケジュールに合わせ、流行時の対応を検討しておく

では、具体的にどのように備えていけばよいのでしょうか。対策のガイドラインを策定するのであれば、以下のパターンに分けて、それぞれ企業として在宅勤務に切り替えるのか、出社比率はどの程度にするかなど、どのような対応を取っていくのか、あらかじめ決めておきましょう。

① 感染者が徐々に増え始めている場合

② 感染者が多く確認され、流行が拡大している場合

③会社が所在する地域で市中感染が確認されている場合

また、1年間のスケジュールに沿って、流行した場合の対応をあらかじめよく検討しておくことをおすすめします。業務スケジュール上、時期によって可能な対応が異なることが多いためです。

それぞれの時期で取る対策は、「平時より絶対に取らなければいけない対策」「感染が拡大した場合に取りたい対策」「場合によっては追加で実施を検討したい対策」などと、重要度に合わせて段階的に検討しましょう。

体調が悪いスタッフは出社させないことが大原則

どんな企業でも必ず守るべきなのが、「体調が悪い人は出社させない」という大原則です。体調不良の例は、「発熱」「喉に痛みがある」「咳」「下痢」などの症状を訴えている人です。

これらは特にウイルスを排出するリスクが高い症状です。体調が1日で回復した場合でも、「もう安全だ」と決めつけず大事を取って2、3日様子を見てください。

仮に新型コロナウイルスに感染していたとしても、当事者を責めるなど威圧的なことはしてはいけません。誰にでも起こり得ることと認識し、体調不良になった際に助け合える環境づくりをしましょう。

ほかにも、大人数が集合するような会議、会食などの機会も引き続き避けた方がいいでしょう。

企業一律の対策ではなく、業種・地域を考慮して

前述の通り、新型コロナウイルス問題は長期化することが間違いないと言えます。その中で業種ごとに現実的な対応策は異なります。
例えば、デスク間に仕切りを設置する対策は、コールセンターのように話す場面が多い職場では有効と言えます。ですが、声を出す場面が少なく、距離を確保できているオフィスでは本当に必要な対策は何か。冷静に要否を判断し、メリハリのついた対応を取ることも今後重要になるでしょう。やってみて、継続しないような対策はやめた方がいいでしょう。

また、複数の事業所を持つ企業の場合は、必ずしも全国で一律の対策とする必要はなく、各事業所の所在地の流行状況を考慮しながら、対策を決めていきましょう。

職場での検査は必ずしも推奨しない

経済活動が再開する中、抗原検査や抗体検査によって、社員の感染状況やリスク判断をする企業もあります。企業の検査はどの程度有効なのでしょうか?

他の病気の検査と同じように、コロナウイルスの抗原検査や抗体検査でも、実際には感染していない人が陽性と判定される偽陽性や、感染しているにも関わらず陰性と判定される偽陰性が一定数生じます。明らかな症状が出ている人の感染の有無を確認するためや、社会での流行の全体像を把握するためには有効ですが、1回の検査で陰性だったからといって必ずしも大丈夫と言い切れず、検査結果に基づいて個人の行動を決定できるものではないと理解する必要があります。

検査は原則として、症状の出ている方のためのものと考えましょう。

コロナ禍での組織をまとめる力が試される

当たり前のことのようですが、特殊な状況下でコミュニケーションが希薄になるようなことが起きないよう、思いやりを持った行動を、企業のリーダーからあらためて呼びかけていくことも有効と言えます。

感染状況は日々変わっていくため、自治体からの発表は細かくウォッチしながら企業活動を進めていく必要があるでしょう。

▼和田先生による「新しい生活様式における感染症対策・個人編」はこちら

監修者プロフィール

記事画像

和田耕治(わだ・こうじ)先生
1975年生まれ。国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授。産業医科大卒。専門は公衆衛生学、グローバルヘルスなど。北里大准教授、国立国際医療研究センター医師などを経て、2018年より現職。著書「企業のための新型コロナウイルス対策マニュアル」(東洋経済新報社)

著者プロフィール

■松本まや(まつもと・まや)
フリージャーナリスト。2016年から共同通信社で記者として活躍。社会記事を中心に、地方の政治や経済を取材。2018年よりフリーに転身し、医療記事などを執筆中。

この記事に関連するキーワード