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2020.07.01

新型コロナの新たな事実…免疫の持続は短く、再感染してしまう危険も

kencom監修医:石原藤樹先生

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新型コロナウイルスは仮に感染してしまっても、完治すればその後はもう二度とかかることはない…と思っている方も多いのではないでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのはNature Medicine誌に2020年6月18日ウェブ掲載された、新型コロナウイルス感染症罹患後の抗体の持続期間を検証した論文です。

▼石原先生のブログはこちら

抗体が感染を防御するレベル、麻疹やインフルエンザの場合は?

これはほぼ予想されていた現象ですが、改めて提示されるとやはりショッキングで、抗体を測定することで新型コロナウイルスに対する免疫の有無を推定しようという、現状の考え方に大きな疑問を投げかける知見です。

ウイルス感染に対して人間の身体は、そのウイルスに特異的に結合する抗体をうみ出し、その抗体価が一定レベルに維持されると、その後の再感染は阻止されます。

これがたとえば麻疹(はしか)のような病気の場合には、一度感染して血液のIgG抗体が上昇すると、基本的にはその後一生麻疹に罹ることはありません。終生免疫が獲得されるのです。

一方でインフルエンザウイルスの場合には、ある特定の型のウイルスに感染して抗体が上昇すると、その後1~2年程度は同じ型のインフルエンザには罹りませんが、その後は再び感染するようになります。

つまり抗体が感染を防御するレベルまで上昇している期間は、麻疹のように長くはないのです。

実際には免疫には液性免疫と細胞性免疫とがあり、抗体で確認出来るのは液性免疫だけですが、上記の説明はその点を簡略化しています。

それでは新型コロナウイルスに一度感染すると、どのくらいの期間その抗体は感染防御レベルを維持するのでしょうか?

無症状感染者と軽症感染者を比較し、抗体価の経過を観察したところ…

今回の研究では中国において、濃厚接触者のRT-PCR検査で陽性となったものの、その後2週間の病院隔離期間中に症状が見られなかった無症候性感染者37名を、軽症で有症状の感染者37名と年齢性別などをマッチングさせて、回復期の抗体上昇とその後の抗体価の経過を観察したものです。

感染確認からRT-PCRでウイルスが陰性となるまでの期間は、有症状の感染者が中間値で14日に対して、無症状感染者は19日で、無症状である方のウイルスが陰性になるまでの期間はより長くなっていました。

炎症性サイトカインなどの上昇は無症状より有症状の方が高く、そのために免疫反応も無症状では低くなることが示唆されます。

ウイルス特異的IgG抗体は、退院後8週間までには無症状感染者の93%、有症状感染者の97%で低下していました。抗体価は中間値で、無症状感染者は71.1%、有症状感染者は76.2%低下していました。

退院後8週間までに、無症候性感染者の40.0%、有症状感染者の12.9%で、IgG抗体は陰性化していました。

これをより感染防御の指標とされる、中和抗体価で検証すると、トータルなIgG抗体よりその低下幅は少なかったのですが、それでも退院後8週までに、無症状感染者の81%、有症状感染者の62%で中和抗体の低下が認められました。

その抗体価の低下率の中間値は、無症状感染者で8.3%、有症状感染者で11.7%低下していました。

新型コロナは、一度罹れば再感染しないといえない!

このように回復後2か月という、かなり早期の時点で感染者の多くの抗体価は低下していて、特に無症状感染者の4割ではその時点でIgG抗体は陰性化していました。

もちろん免疫は抗体価のみで判断出来るものではなく、抗体が低下しても感染自体は一定レベル防御されている可能性はあります。

中和抗体の低下はトータルなIgG抗体より少ないという点も考えると、回復後2か月で完全に免疫がなくなる…というようには考えない方が良さそうです。

ただ同じβコロナウイルスでも、SARS原因ウイルスやMERS原因ウイルスでは、同様の検証でIgG抗体は1年程度は陽性化していることが確認されていますから、それと比較しても今回の新型コロナウイルスに対する人間の抗体産生は、如何にも弱く持続も短いということは間違いがなさそうです。

先日スイスで経時的に抗体価を測定したデータをご紹介しましたが、そこでは3週まで上昇した抗体価が、4週目には低下して5週目には再度上昇する、という奇異な動きをしていました。

”抗体価が無症状感染者では早期から低下する”という現象が起こっていると考えると、このデータも説明が可能になりそうです。

現行不特定多数の住民の抗体価を測定して、ウイルス感染の広がりを評価しようという試みや、抗体価が陽性である無症状者であれば、もう免疫があるので再感染はすぐにはしない…というような判断がされていますが、仮に今回のデータが間違いのないもので、回復後2か月以内に抗体が陰性化する事例も少なくはないとすると、そうした試みや判断は大きな誤りである可能性があります。

個人的には今回のデータは事実に近く、新型コロナウイルスの免疫は特に無症状感染者では、長くは持続しないという印象を持っていますが、これは多くの風邪症候群のウイルスと同じ性質を持っているということです。

何度も繰り返し感染することにより、症状はより軽度になり、免疫は徐々に強化されて罹りにくくなるのだと思います。

ただ、厄介なことはこの病気が軽視出来ない重症化率と致死率を持っているということで、どうやら有効で安全なワクチンの開発に成功するまでは、現状の古典的なマスクなどの予防法とその良し悪しは置いておくとして、感染者の経路や接触者をトレース出来るような社会生活の管理化でしのぐしかないのが現状であるようです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36