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2020.06.24

新型コロナ、マスクやソーシャルディスタンスによる予防効果【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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コロナと共存する今、すっかりマスク着用とソーシャルディスタンスが当たり前となりました。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

Lancet誌に2020年6月1日ウェブ掲載された、新型コロナウイルス感染予防のためのソーシャルディスタンスやマスクなどの予防効果を検証した論文です。

▼石原先生のブログはこちら

マスクやソーシャルディスタンス、実際の予防効果は?

新型コロナウイルス感染症(SARS-CoV2)の感染が、東京ではまだ予断を許せない状況が続いています。治療薬にも決定打がなく、ワクチンがまだ開発されていない現状では、人間同士の距離を取る、マスクやフェイスシールドをするなどの原始的な方法しか感染予防の手段がないのが現実です。

それでは実際に、ソーシャルディスタンスやマスクなどにはどの程度の予防効果があるのでしょうか?

ソーシャルディスタンス(physical distancing)については、良く言われる1メートルの距離というのが元になっているのが1940年代の古いデータで、コロナウイルスの飛沫は8メートル飛ぶという実験データもあるので無意味ではないか、というような意見もあります。

マスクについては、感染者が周囲に広げることは予防出来ても健康な人がマスクをして感染が予防出来るかどうかは証明されていない、というような見解もありました。

今回の研究ではこれまでの臨床研究のデータのうち、新型コロナウイルスと、SARSの原因ウイルスなどの他のベータコロナウイルスのデータを抽出して、ソーシャルディスタンスやマスク、ゴーグルなどの感染予防効果をこれまでのデータをまとめて解析する、システマティックレビューとメタ解析という手法で科学的に検証しています。

100%ではないものの有効である!

その結果、まずソーシャルディスタンス(論文の表現ではphysical distancing)の効果は1メートル以上の距離を取ることにより、それより距離を縮めた場合と比較して、ベータコロナウイルス感染のリスクは、82%(95%CI:0.09から0.38)有意に低下していました。

この感染予防効果は、その距離をより長くすることにより高くなっていました。

マスクやレスピレーター(これは防毒マスクのようなイメージです)の予防効果は、トータルでは85%(95%CI:0.07から0.34)で、N95マスクやそれに準じるサージカルマスクの有効性が高く、医療現場での予防効果は一般社会での予防効果より勝っていました。

目を防御するゴーグルなどの予防効果は78%(95%CI:0.12から0.39)で、ゴーグルなどの目の周辺の防御がマスクとは独立して有効性を持っていることが示されました。

このように、比較的新しいデータの解析によっても、ソーシャルディスタンスやマスク、ゴーグルの感染予防としての有効性は明確に示されていて、それが100%ではなく気をつけていても感染は起こりうる、という点には注意が必要ですが、今後より良い予防策や治療法が開発されるまでは、現状の予防法が最善のものであることは間違いがないと言って良いように思います。

▼参考文献

Physical distancing, face masks, and eye protection to prevent person-to-person transmission of SARS-CoV-2 and COVID-19: a systematic review and meta-analysis

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36