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2020.06.01

朝ラン・夜ランそれぞれのメリットは? スリープトレーナーが解説

RuntripMagazine

みなさん、こんにちは。

アスリート専門に睡眠指導や睡眠管理をしているスリープトレーナーのヒラノマリです。『睡眠はトレーニングの一環(通称 眠トレ)』をモットーに、普段はJリーガーの選手や五輪に出場した選手一人ひとりに合った睡眠法の指導や、睡眠環境のコーディネートをしています。

睡眠は、私たちの人生にたくさんのギフトを与えてくれます。そのギフトとは具体的に何か、どうすれば受け取れるのかを『睡眠×ランニング』という切り口で、ご紹介しています。


みなさんはいつもランニングをする際、朝ランと夜ランどちらの方が多いですか? ランニング自体は健康を促進してくれますが、走る時間や走る前後の習慣によっては、パフォーマンスや睡眠を害してしまっていることも。

今回は睡眠という観点で “朝ラン”と “夜ラン” を読み解いていきたいと思います。

ランニングと睡眠の関係性を紐解いていくのにポイントとなるのが、『深部体温』と『メラトニン』。特に深部体温は睡眠のみならず、パフォーマンスにも影響してくるポイントです。前回の時差ボケの記事でも、少し深部体温について触れているので読んでみてくださいね。

朝ランで日中の仕事がはかどる秘密

朝の方が仕事に左右されずに時間が取りやすかったり、朝から体を動かすことで1日良いスタートが切れるという方が多いかもしれません。朝のランニングで一番大切なのは、ランの前にきちんと深部体温を上げておくこと。

深部体温とは、手足などの皮膚の温度ではなく、脳や内臓など体の内部の温度のことで、皮膚の温度よりプラス1度高いと言われています。

しかし、深部体温が上がっていない状態だと、怪我をしやすく、脳も活性化していないため、筋肉や神経への指令がうまく伝わらず、身体がスムーズに動きにくい状態です。怪我の防止のためにも、ランニング前に深部体温を上げておくことが朝ランの重要なポイントになります。

では、どうやってランニング前に深部体温を上げておけばいいのでしょうか。一番簡単な方法は、ゼリー飲料やバナナなどの軽食を摂ってエネルギー補給をしておくこと。ランニング中のスタミナ切れを防ぐとともに、体内時計を動かし、深部体温を上げて身体を目覚めさせることができます。


睡眠中は、呼吸による水分の放出を含めて、平均約500ml、多いときには1リットルも水分が失われているので、朝起きてからの水分補給も忘れないようにしましょう。このときも、冷たいお水よりも白湯などの方が内臓が温まるので、深部体温を上げやすくなります。

とはいっても、朝ランは、1日活動した後に走る夜ランに比べて、まだ身体がスムーズに動く状態ではありません。朝ランをするのなら、ハイペースではなく、夜ランよりも軽めにしておく方がベターです。

こう見ると、朝ランは身体への負荷だけが高いようにも見えますが、夜ランにはないメリットもあります。

朝ランをするとその後の仕事がはかどったり、1日が気持ちよく過ごせるという方がいらっしゃると思います。これは、朝日光を浴びることで、体内時計をリセットし、体温を上昇させ、身体の『活動モード』のスイッチを入れることができるからです。私たちの身体は朝の光を浴びて14~16時間後に眠気のホルモンであるメラトニンを分泌するしくみになっており、夜熟睡するために朝の日光浴は大切な役割を果たしています。

つまり、朝のランニングで日光を浴びることが体内時計をリセットする効果のほか、夜眠るための準備にも繋がっているというわけなのです。日中のパフォーマンスを上げる準備と同時に、夜ぐっすり眠る準備の両方ができるのは、朝ランの大きな特権です!

朝ランのポイント

■激しい運動は禁物!
■ランニング前は、水分補給、エネルギー補給を忘れずに!
■朝ランをすることで、体内時計をリセットし、深部体温が上がることで日中のパフォーマンスアップ、夜の快眠を期待できる。

夜ランの方がパフォーマンスが高いというのは本当?!

夜ラン派の方は朝ランより身体が動く、1日の終わりにストレス発散ができるという方が多いのでないでしょうか。実は、夜ランの方が身体が動き、パフォーマンスが良いというのも深部体温が大きく関係しています。

私たちの深部体温は、サーカディアンリズム(体内時計)の働きで夕方6時~7時にかけて最も高くなりますが、国内外の様々な研究で深部体温とパフォーマンスの相関関係が認められており、深部体温の高い夕方から夜にかけて、筋力も反応時間も最も良い値を示すことがわかっています。


そう考えると、本格的なトレーニングや大会での記録を重視した練習をしたいのであれば、夜ランの方が効果的ということになります。

しかし、夜ランで気を付けていただきたいのがランニングをする時間帯です。確かに、夕方から夜にかけて深部体温はピークを向かえますが、その後は夜の睡眠に向けて深部体温は下がっていきます。

私たちの身体は、睡眠中は深部体温の温度を下げることで、臓器や筋肉、脳を休ませています。そのため私たちの身体は眠る数時間前から徐々に深部体温を下げ、身体が入眠しやすい体制に入っていきます。

夜ラン後ぐっすり寝付くためには、深部体温の低下を妨げないことが、快眠への大きなポイントとなります。

逆にランニングを終えてから就寝までの時間が短すぎると、深部体温が下がりきらないため、寝つきが悪くなったり、睡眠が浅くなって中途覚醒(夜中に目覚めること)の原因になってしまうことも。夜のランニングは、就寝時間から逆算して3時間前には終えていたいところです。

そしてランニング後はシャワーだけで済まさず、就寝する1時間半前に湯船に浸かることも大きなポイントです。深部体温を一気に上げると、その反動で深部体温が下がるので入眠しやすくなります。入浴も眠る直前だと、深部体温が下がりきらないままベッドに入ることになってしまうので、就寝1時間半前に入浴を終えるようにしましょう。

また、都心部でのランニングは、街灯やコンビニの光など想像以上に明るいことがあります。防犯という観点では安心ですが、夜に明るい光やブルーライトを浴びてしまうと、メラトニンと言われる眠気のホルモンがうまく分泌されずに、睡眠の質が低下してしまう原因にも。よく明るいオフィスで残業した後、疲れているのになかなか眠れなかったり、夜中のコンビニが悪いというのもこのためです。


街の明るさは調整できない分、帰宅後はお部屋の照明を落としたり、キャンドルを焚いたり、オレンジ色の照明にして意識的に明るい光を浴びないように意識することが大切です。

夜ランのポイント

■夕方6時~7時は深部体温が高く、朝よりパフォーマンスが高くなるので大会前に向けた練習に有効。
■夜ランは時間が肝! 就寝時間3時間前までには終わらせて、湯船に浸かる。
■帰宅後は意識してお部屋の照明の明るさを落としたり、オレンジ色の光に変えて身体が入眠しやすい環境をつくる。

こうやって見ると、朝ランと夜ランはそれぞれメリットが違うので、ランニングの目的やライフスタイルに合わせて、どの時間帯にランニングをするか決めてみてくださいね。

≪参考文献≫
Ilmarinen J,Ilmarinen R,Korhonen O,Nurminen M (1980) Circadian variation of physiological functions relate to physical work capacitity.Scand Work environ health 6:172-182
内田 直(早稲田大学スポーツ科学学術院) 臨床スポーツ医学Vol.22,No.5
睡眠学入門ハンドブック 日本睡眠教育機構

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記事を書いた人  ヒラノ マリ

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