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2020.05.29

中国メーカーが開発中の新型コロナウイルスワクチンの有効性とは【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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世界中が待ち望んでいる新型コロナウイルスのワクチン開発。実際、どこまで開発が進んでいるのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、bioRxivという、まだ査読をされていない論文が公開されているサイトに、2020年4月19日ウェブ掲載された、新型コロナウイルスの不活化ワクチンの、猿を使用した臨床試験の結果をまとめた論文です。

▼石原先生のブログはこちら

新型コロナウイルスのワクチン開発はどうなっている?

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に関しては、多くの治療薬が候補としては挙げられていますが、今の時点で決め手となるような薬がないことは、何となく見えて来たような気がします。

そうなると、感染のコントロールのために、期待されるのはワクチンの開発です。

2009年の「新型インフルエンザ」騒動の時には、従来の手法を用いた不活化ワクチンが、通常では考えられないような早さで製造され、高い有効性を示しました。しかし、これは従来のインフルエンザワクチンによる実績と経験とが、あったからこその結果です。

コロナウイルスのワクチンについては、SARSやMERSの時にも研究はされながら、比較的短期間で流行が収束したために、結果として実用化はされませんでした。
また、その実用化に向けての研究の過程で、ワクチンの接種による、感染時の肺病変の重症化促進などの危惧が認められました。ワクチンを接種した方が重症化のリスクが増える、という可能性です。
これはワクチンの直接作用という可能性もあり、またワクチンによる不完全な抗体の誘導が、感染時の悪化を招く、所謂抗体依存性感染増強反応の可能性も示唆されました。

従って、今回の新型コロナウイルスのワクチンは、ただ出来たというだけでは充分ではなく、実際の接種の前にその有効性や安全性について、インフルエンザワクチンの時とは比べものにならないような、慎重な検証が必要になるのです。
今回のワクチンの完成が、そう容易いことではない、という理由がそこにあります。

従来の生ワクチン、不活化ワクチン以外の開発も

ワクチンの製法についても色々な考え方があります。

これまでの感染症予防のためのワクチンは、実際のウイルスを培養を繰り返すなどして毒性を弱めてそのまま使用する、生ワクチン、ウイルスに処理を加えて毒性のない状態にして投与する、不活化ワクチン、の2種類がありました。

不活化ワクチンには、不活化処理した病原体をそのまま使用するか、抗原タンパクをバラバラにして使用したり、ウイルス粒子に似た構造を作ってそこに抗原を発現させて利用したり、免疫増強剤を添加するなど複数の方法があります。

それ以外にウイルスそのものではなく、ウイルス遺伝子の一部を、他の遺伝子と結合させるなどして使用する、RNAワクチンやDNAワクチンという、これまで感染症予防のためには実用化はされていない、新しい製法によるワクチンも、今回開発が行われています。

遺伝子を利用したワクチンは、何より「早く作れる」という点が一番の利点です。
これまでのワクチンは、ウイルス遺伝子が作ったタンパク質を、抗原として身体に投与したのですが、遺伝子を利用したワクチンは、遺伝子を人間の細胞に感染させて、人間の細胞に抗原を作らせると言う点が全く違うのです。

無毒化したウイルスをベクター(乗り物)にして、そこに標的となる抗原の遺伝子を埋め込んで感染させる、ウイルスベクターワクチンという手法もあります。

中国シノバック社が開発中の不活化ワクチンは、臨床試験段階に

さて、現状多くのワクチンプロジェクトが、世界中で進行していますが、実現に近い位置にあるのは、今日ご紹介するシノバックという中国のメーカーによる不活化ワクチン、アメリカモデルナ社のRNAワクチン、イギリスオックスフォードのウイルスベクターワクチンなどです。

日本では大阪大学などがDNAワクチンを、田辺三菱製薬が偽ウイルス粒子に抗原を発現させる、というようなタイプの不活化ワクチンの開発に着手しているようです。

今回ご紹介するシノバック社のワクチンは、最もシンプルな不活化ワクチンで、基本的には現行のインフルエンザワクチンと同じ製法で作られているものです。

これで成功するなら苦労しないよ、と言う感じはちょっとするのですが、上記論文においては猿に接種した臨床試験において、有効な中和抗体が誘導され、新型コロナウイルスの感染実験で、感染予防効果が確認され、抗体依存性感染増強反応のような有害事象も、認められなかったと報告されています。

これはまだ動物実験の段階ですが、もう臨床試験の段階に入っているようです。

最も早く実現するのはどのワクチンか

どのワクチンが最初に接種を開始し、日本は国産を含めどのワクチンを使用することになるのか、現時点では全く分かりませんが、個人的には古典的な製法のワクチンで、一定の有効性と安全性とが認められるのであれば、それに越したことはないのではないかと思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36