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2020.05.26

妻はなぜ蒸し返しの天才なのか【夫婦のトリセツVol.4】

作家:黒川伊保子

夫婦で話していると「あ、そういえば、あの時こうだったよね」と何年前かの怒りのネタを再燃されたことありませんか?

男性からすると、「なんで今更…」と思わず呆れ顔になるかもしれませんが、よくある話しです。時には先人から一生言われるから気をつけろ、と謎の訓示をもらうこともあります。

さて、夫婦のコミュニケーションの質をレベルアップするためにお届けする作家・黒川伊保子さんによる「夫婦のトリセツ」。

4回目は「怒りの蒸し返し」についてです。

妻はなぜ、蒸し返しの天才なのか

その話10年前…ってことが再燃することありますよね

その話10年前…ってことが再燃することありますよね

女性たちの脳の中では、感情が、大事なキーファクターになっている。
いくばくかの記憶は、心の動き(感情、情動、気分)を検索キーにして格納されている。そして、それらをトリガー(引き金)にして、記憶を想起するのである。
感情で記憶を引き出すと、脳は記憶を再体験する。このため、最初の体験のときには気づかないことに気づく。

「私がこう言ったら、あの人にこう言われて……めちゃ、腹立つわ~」

というふうに記憶をたぐると、「そういえば、あの一言で、急にあの人がムキになった」なんてことに気づくわけだ。

感情に任せて、過去の出来事を延々と語る。この対話スタイルは、単なる愚痴の垂れ流しなんかじゃない。深い気づきを起こすための、知的作業の一端なのである。

感情を排除して、状況を客観的に判断し、問題解決を急ぐ(互いに弱点を指摘し合う)という対話スタイルを好む人からすると、無駄話に聞こえてしまうのだが、そうではない。というわけで、感情を語る人を見下さないで。

問題解決型の人にはけっして見つからない深層のリスクに気づいてくれる、大切な人なのだから。

感情トリガー型の対話をうまく着地させるには(ストレスを解消させてやり、深層の気づきに導くためには)、共感が不可欠である。
「きみも、こうすればよかったんだよ」とか「母さんにも悪気はないんだからさ」とか、冷静な裁きは、ここでは要らない。それをしたいなら、

まずは「きみはよくやってると思うよ」とか「その気持ち、わかるよ。本当に悲しいよね」などと共感してから。

多くの場合、優しく共感さえすれば、「お母さんにも悪気はないのよね、きっと」なんて言い出してくれる。優しい妻の傍には、共感上手の夫がいる。

さらに、感情トリガーには、もう一つ特徴がある。過去の類似記憶を瞬時に引き出すこともできるのだ。

たとえば、ふと不安を感じたとき、過去の同様の不安と共に格納されている記憶を瞬時に取り出すことができる。「これって、お父さんが倒れる前の感じに似てない? すぐに病院に行かなきゃ」のように。

つまり、感情トリガー型の脳は、日常生活の中に潜む危機に気づき、大ごとになる前に対処することが得意なのである。

ただし、この能力、はたから見たら、厄介に見えることがある。何十年も前の、今さら言ってもしょうがないことを、何度も瑞々しく思い出すからだ。夫が何か無神経な発言をすると、過去の無神経な発言を次々に思い出して、「あのときも、あのときも」と罪を上乗せしてくる(もうあやまったのに)。

このように、感情トリガーを発動させやすい状態の脳は、はたから見れば、「愚痴を垂れ流し」、「蒸し返しの天才」のように見える。しかし、何度も言うが、これを愚行と侮ってはいけない。

感情トリガーは、リスクヘッジの鍵なのだから。

蒸し返しが起きたら、ちょっとしたアイテムを使おう

蒸し返しは、とっさの反射神経で起こるものである。しかも、100回思い出せば、100回傷ついているので、100回あやまらなければならない。卑怯と思うかもしれないが、意図的に武器として使っているのではない。
妻の蒸し返しは、子育て期間は強く働くがやがて少し緩慢になる。しかも、見限った相手には発動しない。蒸し返されたら、彼女の母性と愛の証だと思って、あやまってあげてほしい。

いざという時のために、「仲直りのアイテム」(定番のお菓子とか、定番の家事手伝いとか)を作っておくと便利かも。

蒸し返されてあやまっても、家庭内の空気が重かったら、近くのコンビニまで行って、彼女の好きなブランドのアイスクリームを買ってくる。判で押したようにそうしていると、負の記憶(たった一回の過ち)が、正の記憶(変わらぬ誠実)に変わることもある。

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著者プロフィール

⬛︎黒川伊保子(くろかわ・いほこ)
株式会社感性リサーチ 代表取締役社長、人工知能研究者、作家、日本ネーミング協会理事、日本文藝家協会会員

1983年奈良女子大学理学部物理学科を卒業、コンピュータ・メーカーに就職し、人工知能(AI)エンジニアを経て、2003年、ことばの潜在脳効果の数値化に成功、大塚製薬「SoyJoy」のネーミングなど、多くの商品名の感性分析に貢献している。また、男女の脳の「とっさの使い方」の違いを発見し、人類のコミュニケーション・ストレスの最大の原因を解明。その研究成果を元に多くの著書が生み出されている。中でも、『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』は、家庭の必需品と言われ、ミリオンセラーに及ぶ勢い。