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2020.05.07

苦味受容体の刺激が新型コロナウイルス感染症に有効?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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新型コロナウイルス感染症は、様々な観点から治療が試みられ、検証が進んでいます。
本日は、その中でもちょっと意外な治療法の話題をお届けします。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、2020年のThe FASEB Journal誌に掲載された、舌で苦みを感知する受容体への刺激と、免疫活性化との関連についての論文です。
別にふざけた内容、という訳ではないのですが、結論はかなり強引なものなので、まあ1つのネタとして読んで頂ければと思います。

▼石原先生のブログはこちら

毒素から身体を守るためにある苦味受容体

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対しては、これまでに多くの治療が候補としては挙げられていますが、まだ決め手となるものは見付かっていません。

ウイルス感染症との対決という観点では、ウイルスの感染を予防したりその増殖を抑制したりする方法と共に、体のウイルスに対する免疫をより高めることによって、ウイルスに対抗する、という考え方があります。

そこで上記文献の著者らが注目したのは、苦みを感じる味覚受容体です。

苦みを感じる受容体というのは、身体の害になるものを感知するための仕組みです。
人間がある物質を苦いと感じるのは、それが自分にとって害になるものの可能性が高い、ということを意味していて、それ以外の味覚の受容体とは役割が異なっています。そうした物質の代表は細菌が産生する毒素です。

苦味受容体は、生体防御のための仕組みなのです。

苦味受容体を刺激すると免疫力が高まる?

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最近の研究により、この舌の苦味受容体と同じ構造が、中枢神経系、呼吸器系、乳房、心臓、消化管粘膜、膀胱、膵臓、精巣など、全身の多くの組織に分布していることが明らかになりました。

こうした組織において、苦味受容体の刺激は免疫力を高めるような働きをしています。
舌で苦味を感じる様な物質は、身体にとって敵と想定されるので、その結合部位において、免疫系は活性化してその物質を排除しようとするのです。

ここで1つ重要なことは、それが身体にとって有害な物質でなくても、苦味受容体に結合して刺激する物質であれば、免疫の活性化は起こる、ということです。

苦味受容体を刺激する様々な薬が、新型コロナウイルスに効くか検証

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上記論文ではまず、これまでの遺伝子解析データを元にして、苦味受容体の代表であるTAS2R10という受容体の機能を解析。
それが自然免疫と獲得免疫双方に関わる、幅広い免疫系を調整し活性化させる可能性があることを確認しています。

その上で、今度既に医薬品として活用されている物質の中で、このTAS2R10に結合して刺激する性質のあるものを、調査しています。

その結果、苦味受容体を刺激する薬として、眩暈の薬であるジフェニドール(セファドール)、キニンと抗マラリア薬のクロロキン、同じく抗マラリア薬のアルテミシニン、抗ヒスタミン剤のクロロフェニラミン(ポララミン)、勃起機能改善効果のあるヨヒンビン、咳止めのデキストロメトルファン(メジコン)が、その候補として同定されました。

こうした薬を単独もしくは調合して飲むことで、新型コロナウイルスを含むウイルス感染症や細菌感染症に対して、身体の防御機能を高める効果が期待出来るのでは、と上記文献には記載されています。

苦い野菜も感染予防につながる?

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更には、そこまで行くとどうなの?
とちょっと疑問に感じる部分はありますが、コーヒーやお茶、苦味のある野菜(たとえば、ゴーヤ、山菜など)なども、積極的に摂ることが感染予防になるのではないか、とも記載をしています。

これはもう、あまり真に受けず、ある種のネタとして読んで頂ければと思いますが、人間が苦味を感じるということが、ここまで大きな変化を免疫にもたらすという知見は、それ自体は非常に興味深く、今後こうしたメカニズムを活用した、より確実性のある創薬にも期待をしたいと思います。

メジコンのような風邪薬も抗ウイルス作用を持つ可能性が

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当該の候補薬に、実際に新型コロナウイルス感染に有効性のある、クロロキンが入っているということも興味深いですし、メジコンやポララミンは総合感冒薬の成分で、そうした風邪薬は何の役にもたたないと、声高に批判される専門家の方も多いのですが、意外にそれが免疫系を賦活して、抗ウイルス効果を持つとすると、満更風邪薬も無駄ではないということになるのも、個人的にはとても面白い知見でした、

特にデキストロメトルファン(メジコン)については、以前記事にしたこともありますが、咳止めとしての作用以外に、認知症予防効果や鎮静剤的な効果など、副次的な作用を持つとても興味深い薬で、苦味受容体への賦活作用も強く、個人的にはとても興味深い薬です。
メジコンって、意外に優れものなんですよ。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36