2020.05.20
辛いかゆみはなぜ起こる?原因と治療の基礎知識
かゆみが続き眠れない。仕事に集中できない。そんな辛いかゆみに悩んでいませんか?厚生労働省の調査では、日本人の2割弱がアレルギー性皮膚疾患に悩み、月に数千億円規模の経済損失が発生しているといいます。
多くの人を悩ます皮膚のかゆみ。その原因は多岐に渡りますが、かゆみのメカニズムを知って、かゆみへの正しいアプローチを身につければ、改善できる事も多いのだそう。
解説していただいたのは、国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院 皮膚科診療科長 玉木 毅先生です。
玉木 毅(たまき・たけし)先生
国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院 皮膚科診療科長
【プロフィール】
1987年東京大学医学部医学科卒業後、東京大学医学部皮膚科教室入局。米国サウスカロライナ州立医科大学研究員、東京大学医学部附属病院皮膚科医局長、同分院皮膚科講師などを経て現職。医学博士、日本皮膚科学会東京支部運営委員、東京都皮膚科医会副会長、東京大学非常勤講師。
「かゆみ」とは?
身体を守る防衛反応のひとつ
かゆみは、「引っ搔きたくなる不快な感覚」と定義されていますが、実はかゆみは「私たちの身体を守る防衛反応」のひとつ。皮膚に異物がついた時などに、かゆみというサインによって異常が起きている場所を脳に知らせ、その異物を掻いて取り除こうとさせることから、かゆみは一種の生体防御反応であると考えられています。
かゆみが起こるメカニズムは、まだまだわかっていない部分も多いですが、神経を伝わって感じることから痛みに似た感覚だと言われています。皮膚の表面が外界から刺激を受けたり、身体で生じたアレルギー反応によってかゆみを起こす物質が放出されたりすると、かゆみを伝える神経がこれらの刺激を受け取って、その情報を脳へ伝え、脳が「かゆみ」として認識し、私たちは「かゆい」と感じるのです。
かゆみの刺激を受け取っているのは皮膚でも、実際にかゆみを感じているのは脳というわけです。
なぜ掻くと快感が得られるのか
かゆいところを掻くと、「気持ちいい」と感じることがありますよね?最近の研究で、かゆいところを掻くと、脳の中の「報酬系」と呼ばれる場所が刺激されて快感を得られるということが分かってきました。
「報酬系」は、甘いものを食べて幸せな気分になった時や、ギャンブルで儲けたなどの物質的な快楽を覚えた時、人に褒められたというような心理的な快楽を覚える時にも活動する脳の場所です。つまり、「かゆいところを掻く」ことは、人間にとって大きな快楽なのです。
患部を掻くと皮膚のバリア機能が壊れてしまう
かゆい所を掻くというのはある程度は仕方がない事ですが、強く掻くと皮膚が傷ついて、皮膚のバリア機能が落ちてしまいます。バリア機能が弱まった皮膚は、ちょっとした刺激によってもかゆみを感じやすくなってしまい、またそこからアレルギー反応を引き起こすアレルゲンなどが体内に入りやすくなり、炎症(皮膚炎)が起こります。
掻くことで皮膚が傷つくと、非常に強いかゆみを誘発するホルモンが放出されるので、皮膚炎がさらに悪化し、さらに激しく掻くという悪循環が起こってしまうのです。
かゆみの主な原因&メカニズム
皮膚がかゆくなる原因は多岐にわたりますが、主な痒みの原因を2つご紹介します。一つは、金属や、食物、虫刺され、温度変化、ストレスなど、何らかのアレルゲンや刺激を受ける事によって、皮膚が炎症を起こしかゆみを感じる場合。もう一つは、乾燥です。
乾燥するとかゆくなる理由
皮膚の持つ最も重要な役目は、身体の保護です。皮膚にたっぷりの水分と皮脂が保たれることによって、バリア機能を発揮して異物の侵入を防ぎます。ところが、何らかの原因で角質細胞の皮脂膜や水分が不足すると、角質層にヒビが入って一部はめくれ、剥がれてしまいます。干ばつでひび割れた大地のようなイメージです。
角質層に隙間ができると、外から異物が侵入しやすくなるため、それが刺激になってかゆみが生じるのです。また、乾燥が続くと皮膚が必要以上に敏感になることもわかっています。
乾燥肌はアトピー性皮膚炎や加齢に伴ってかゆみが出る老人性皮膚掻痒症などの主要因でもあります。
かゆみの基本治療は?
かゆみは様々な原因によって起こるので、一口に「かゆみの治療」と言っても様々なアプローチが考えられますが、基本は以下にご紹介する4つの柱です。
その1.保湿
かゆみの治療に保湿は大切で、多くの肌トラブルが保湿のみによって改善できます。肌に強い炎症が起きていなければ、保湿剤だけを処方して様子をみます。肌に水分を補い、その水分が蒸発しにくい状況を作ってやれば、肌のバリア機能が回復して元の状態に戻っていきます。
その2.ステロイド薬で炎症を抑える
皮膚炎や湿疹など、表皮に強い炎症が起こってしまった場合には、保湿剤を塗るだけでは元に戻りません。外用のステロイド剤を使って炎症をしっかりと抑えていきます。
その3.かゆみの原因物質の働きを抑える
次に、かゆみを起こしている原因物質の働きを阻止する治療を施します。かゆみ物質「ヒスタミン」などの関与が強い蕁麻疹などの場合は、「抗ヒスタミン薬」を服用します。抗ヒスタミン薬は血管や知覚神経がヒスタミンの刺激を受けないようにブロックし、反応が起きるのを防ぎます。多くの人が薬をのみ始めて数日から1週間程度で効果を感じます。
その4.かゆみの原因を特定する
かゆみの原因物質を特定し、避ける事が出来れば安心ですよね?しかし、残念ながら殆どの場合は特定することが出来ません。採血検査や、パッチテストによるアレルギー診断を行う事もありますが、原因になる物質は限りなくあるので、それを全部調べるのは不可能だからです。
特定するには、普段の生活を注意深く観察するといった患者側の努力と、しっかりと話を聞いてくれる医師との二人三脚が必要です。まさにオーダーメイドの治療が必要となりますので、信頼できる医師に相談する事が大切です。
繰り返すかゆみには要注意
こういった治療を施しても、夜も眠れないような強いかゆみが続く場合は、内臓疾患によってかゆみが起きているのかもしれません。糖尿病、腎不全、肝硬変やがんなどがあり、単なるかゆみと思って放置していると、病気そのものが悪化する可能性があります。なかなか治らないかゆみの場合は、人間ドックなどで全身一通りの検査を受けることをお勧めします。
正しいスキンケアと生活環境で、多くのかゆみは改善できる!
ここまで、かゆみのメカニズムや治療方法について解説しましたが、実は、かゆみはセルフケアで改善できるものも多いといいます。次回の記事では、健やかな肌を保つ、正しいスキンケアと肌に良い生活習慣をお伝えします。
▼玉木先生のかゆみケアに関する記事はこちら
著者プロフィール
■森下千佳(もりした・ちか)
フリーエディター。お茶の水女子大学理学部卒。テレビ局に入社し、報道部記者として事件・事故を取材。女性ならではの目線で、取材先の言葉や見過ごされがちな出来事を引き出す事を得意とする。退社後、ニューヨークに移住。当時、日本ではなかなか手に入らなかったオーガニック商品を日本に届けるベンチャー企業の立ち上げに関わる。帰国後、子宮頸がん検診の啓発活動を手がける一般社団法人の理事を経て現職。一児の母。