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2020.04.13

血液で新型コロナウイルス感染有無を調べる診断法がある?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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新型コロナウイルスに感染したかどうかを調べるために行われているPCR検査は、陽性率が低い上に、周囲への感染リスクもあるのが難点。
PCR検査より確実で、負担の少ない検査方法はないのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、これは2020年3月18日にmedRxivに掲載された査読前の論文です。
medRxivというのはまだ査読前の論文を保存しているサイトで、今回のものはその重要性から、その時点で公開されているものです。

内容は患者さんの血液で、今回の新型コロナウイルス感染症の診断を行う、というもので、その測定法の詳細と、そのデータが説明されています。

▼石原先生のブログはこちら

PCRより有用な検査方法がある?

現状の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の確定診断には、咽頭や鼻腔からの検体採取による、PCR検査が使用されています。

ただ、この検査は陽性であれば、新型コロナウイルスの感染自体は証明されますが、それが病気であるとは言えません。
不顕性感染や持続感染と思われるような、長期の陽性事例が存在しているからです。

また、陰性であっても、それは新型コロナウイルス感染症でないとは言えません。
この検査は喀痰や気管支肺胞洗浄液などの下気道の検体を用いないと、陽性率が低いことが分かっていますし、下気道の検体で検査をしたとしても、100%検出されるというものではないからです。

通常こうしたPCRによる感染症の診断検査は、感染症の症状(たとえば肺炎など)が診断された患者さんに対して、その原因を追究するために行なってこそ、意味のあるものですが、現状の新型コロナウイルス感染症に対しては、症状に関わらず、病気であるかないかの診断に、用いているという点に大きな錯誤がある訳です。

検体を採取するに際して、周辺への感染のリスクが高いと言う点も、この検査の大きな問題点です。

それでは、新型コロナウイルス感染症の感染の有無の確認のために、もっと有用な検査はないのでしょうか?

血液で抗体価を測定することはできるのか?

その1つの候補として研究されているのが、血液での抗体価の測定です。

多くの感染症における病原体の侵入に際して、人間は免疫と言う仕組みで対抗します。
まず自然免疫という仕組みが働いて、侵入した病原体を直ちに攻撃し、次にその病原体に合わせた攻撃をする、獲得免疫と言う仕組みが働きます。
この時に産生されるのが、その病原体に結合するようにデザインされた、抗体というタンパク質です。

抗体にもその時期や役割により種類がありますが、概ね病原体の侵入から14日程度で、中和抗体と言って、病原体の増殖を阻止するような、抗体が産生されると、それにより感染は収束に向かい、もう一度同じ病原体が身体を襲った際には、その病原体に特化した抗体が速やかに増加して、身体を感染から守ってくれるのです。

これが獲得免疫の仕組みです。

さて、SARSコロナウイルスの場合、ウイルスの表面の突起(スパイク)に対する抗体が、一定の中和抗体としての働きをしていて、症状出現後14日程度で上昇し、その後少なくとも1年は抗体価が維持される、ということが分かっています。

それでは、今回の新型コロナウイルスでも、同様の抗体が認められるのでしょうか?

発症の3日後から陽性として抗体を検出することが可能

今回の研究では、新型コロナウイルスの突起の部分の、人間の細胞に結合する部位の抗原タンパク質と、突起の部位全体を合成し、それに対して身体が産生する抗体の測定系(ELISA法)を確立しています。
検出されている抗体は単独ではなく、IgG、IgM、IgAのサブクラスの抗体が、いずれも反応はしているようです。

そして、風邪症候群の原因となる別個のコロナウイルスに感染した検体と、新型コロナウイル流行前に採取された多くの血液サンプル、デング熱など他のウイルス感染後の検体、今回の新型コロナウイルスに感染した、3名の患者の時期の違う4検体に対してこの検査を施行、その結果を比較検証しています。
その結果、風邪症候群のコロナウイルスを含む多くの検体において、今回の抗体測定は陰性となった一方で、新型コロナウイルス感染症の患者の検体では、発症の3日後という早期から、抗体は陽性として検出されています。

SARSやMERSの原因ウイルスでは検査されていませんが、2004年に同定され、新型コロナウイルスと同じACE2に結合して感染する、NL63というコロナウイルスの感染者の検体でも、今回の検査は陰性と判定されていることから、一部の新型コロナウイルスのみで検査が陽性となることは、ほぼ間違いないと考えられました。

この抗体測定系は一部の研究機関などでは、既に活用されていて、患者の血液の採取により迅速に測定が可能です。

今後この測定系、もしくは同種の測定系の、迅速キットが、現行の採取のリスクが高く、偽陰性率も高いPCRに代わって、新型コロナウイルス感染症のスクリーニングの、第一選択の検査となることはほぼ間違いがなさそうです。

微量の血液で即時に検査が可能なので、PCRより有用性が高い

その意味合いはPCRとは異なり、陽性はそのウイルスに感染しているか、その既往がある場合に陽性となります。
治ってからしか陽性にならないのであれば診断には使えませんが、今回のデータを見る限り、発症から3から5日程度のうちには陽性となるので、症状のない時点で陽性であれば、以前の感染で既に免疫があるか不顕性感染である、ということを示し、症状出現から5日以降で陽性であれば、新型コロナウイルス感染であるとほぼ診断出来るので、その有用性は現行のPCRより高いと思います。

また、微量の血液採取でその場で確認が可能なので、その安全性は格段に高く、頻回の検査で経過を追うことも出来るので、施行者にもストレスがありません。
上手く使用すれば経過観察や隔離期間を、格段に短縮することが出来ます。

医療環境は数ヵ月のうちに整備されると予想

新型コロナウイルス感染症については暗い話題が多いのですが、ワクチン開発はともかくとして、治療や予防法と抗体測定による診断の効率化など、ここ数ヶ月のうちには、格段に医療環境が整備されることはほぼ間違いがなく、感染自体の収束はまだ先の話であるとしても、現在の混迷はかなり解消することが予想されると思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36