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2020.05.30

女性に多い膀胱炎に要注意!細菌感染やがんの可能性も【膀胱炎・前編】

kencom公式ライター:森下千佳

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女性の2人に1人は生涯に一度は経験すると言われる「膀胱炎」。ありふれた病気というイメージがありますが、重症化すると腎盂腎炎や、最悪の場合は敗血症性ショックなどの重篤な病気を起こすこともある厄介な疾患です。そこで今回は国立国際医療研究センター泌尿器科の野宮明先生から、侮ってはいけない膀胱炎の知識を解説をしていただきました。

野宮 明(のみや・あきら)先生

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国立国際医療研究センター病院 泌尿器科 医師

2002年京都府立医科大学医学部卒業後、三井記念病院泌尿器科医長、東京大学医学部附属病院泌尿器科助教などを経て、現職。

そもそも膀胱炎とは?

一般的に知られている膀胱炎と言えば、急性(単純性)膀胱炎のことを指し、膀胱に細菌が侵入することが原因で起こります。その原因となる細菌の約8割が大腸菌です。いたって健康な方でも起きる可能性があり、女性の2人に1人がかかる病気と言われています。

しかし、膀胱炎は適切な治療をせずに放っておくと、発熱、嘔吐、背中や腰の強い痛みという症状が現れる「腎盂腎炎」を引き起こすことがあります。また、繰り返す場合は、尿路結石や膀胱がんなどの病気が背後に隠れている事もあり、軽視してはいけない病気です。

膀胱炎の主な症状は?

急性膀胱炎の主な症状としては、次のようなものが挙げられます。

・トイレの回数が増える
・尿意切迫感(突然耐え難い強い尿意を感じる)
・排尿時に痛む
・尿が濁る
・尿を出し終えても残尿感が残る
・下腹部の不快感や痛み
・血尿

※一般的な膀胱炎では、発熱を伴うことはありません。

男性に比べ女性に多いのはなぜ?

膀胱まで菌が侵入しやすい構造の違い

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女性が男性に比べて膀胱炎になりやすい理由は、

1.尿道の長さが男性に比べて短いため、膀胱に菌が侵入しやすい(男性の尿道は20センチほどの長さがありまが、女性は4~5センチほど)
2.男性に比べて膣や肛門が尿道口(尿の出口)に近いため、感染が起こりやすい
3.女性の尿道口は奥に引っ込んでいるので、どうしても蒸れてしまい菌が増殖しやすい構造になっている

などが挙げられます。統計上、女性は男性の5倍以上の方が膀胱炎に罹患するといわれているので、特に注意が必要です。

女性に多い急性(単純性)膀胱炎の要因とは?

膀胱炎は細菌が尿道に入ることで起こるとお話ししましたが、細菌が増殖するのには体内の環境が大きく関係しています。膀胱炎の予防や症状の悪化を防ぐために、どのような環境や行動が膀胱炎を引き起こすのかを把握しておきましょう。

寝不足、疲労などによる免疫力の低下

寝不足や過労などの疲労や、精神的なストレスが膀胱炎につながることがあります。ストレスが溜まることで、免疫力が低下すると、膀胱内に侵入した細菌に抵抗することができず、増殖を抑えることができなくなるからです。「疲れると膀胱炎になる」という方がいるのは、このためです。

トイレの我慢、冷え

尿意を我慢すると、膀胱炎のきっかけになります。接客業の方や子育て中の女性など、自由にトイレに行ける環境にない方に多く見られます。尿意を我慢することによって尿の量が増え菌が増殖したり、排尿後に膀胱内に尿が残りやすくなったりする事が原因と考えられています。

また、因果関係ははっきりしないのですが、冷えがきっかけで膀胱炎を発症することがよく見受けられます。

生理、性行為

女性は、生理や閉経に伴うホルモン環境の変化が尿路粘膜にも影響を及ぼすことがあります。特に、閉経後の膣粘膜の細菌環境の変化や排卵前後はバリアが崩れやすく、膣内で増殖した細菌が、隣にある尿道から膀胱に侵入しやすい環境になるため、膀胱炎を発症しやすいようです。また、女性は性行為の後に尿道周りについた菌が入り込みやすく、注意が必要です。

その他の膀胱炎

ここまで、主に、急性(単純性)膀胱炎についてお話ししましたが、膀胱炎には他にもいくつか種類があります。

複雑性膀胱炎(慢性膀胱炎)

複雑性膀胱炎は、なんらかの基礎疾患があって発症するケースが多く、繰り返す膀胱炎です。注意すべき基礎疾患には「膀胱癌」「膀胱結石」「前立腺肥大症」や「神経因性膀胱」といった排尿障害を来す病気などが挙げられます。ほかにも、糖尿病やステロイド・抗がん剤投与中など免疫が低下している時に発症することもあります。
膀胱炎を繰り返す場合や、治りが悪い場合は通常、複雑性膀胱炎を疑い、精査の上で基礎疾患に対する治療を行っていきます。

間質性膀胱炎

間質性膀胱炎は、膀胱に原因不明の炎症が起こり、トイレが近くなったり、尿道に痛みや違和感などが起こる病気です。細菌感染で起こる「急性膀胱炎」と症状がよく似ていますが、全く別の病気です。しかし、医療機関を受診すると、症状から急性膀胱炎と診断され、抗生剤を処方されることが少なくありません。菌が原因で起きている膀胱炎ではないため、症状が改善せず、病院を転々とする原因になったり、尿に異常がないにも関わらず症状が治らないため、精神的なものが原因であると誤解されることもあります。

間質性膀胱炎は、ハンナ病変(膀胱粘膜の強い炎症)の有無からハンナ型と非ハンナ型に分類されます。ハンナ型では、頻尿や膀胱痛など症状が重いことが多く、原因不明なため、難病に指定されています。

命に関わることもある膀胱炎の合併症とは?

では、膀胱炎を放っておくとどうなってしまうのでしょうか? 感染した細菌が、膀胱から尿管を通って腎臓に尿が逆流することがあり、腎盂腎炎を引き起こすことがあります。重症化すると最悪の場合、命の危険もある、恐ろしい病気です。

【腎盂腎炎の主な症状】
・膀胱炎の症状(頻尿、痛み)
・40度近い発熱
・背中・腰の痛み
・吐き気・寒気・倦怠感 

基本的には抗生物質を服用するとこで症状が改善しますが、高齢の方や、糖尿病やリウマチなどの基礎疾患を持つ方が腎盂腎炎を起こすと、その菌が全身にまわって敗血症や多臓器不全を起こしたりすることも。今でこそ、膀胱炎は死ぬことがない病気ですが、それがきっかけで、命が奪われるリスクの高い病気に変わってもおかしくないのです。

異変を感じたら放置をせずに医療機関に相談を

いかがでしたか?「膀胱炎=大した事のない病気」というイメージが変わりましたよね?トラブルが、ほかの病気の引き金になる事もありますから、早めに受診することが大切です。次の記事では、膀胱炎の具体的な治療方法と予防方法を詳しくお伝えします。

▼後編の記事はこちら

著者プロフィール

■森下千佳(もりした・ちか)
フリーエディター。お茶の水女子大学理学部卒。テレビ局に入社し、報道部記者として事件・事故を取材。女性ならではの目線で、取材先の言葉や見過ごされがちな出来事を引き出す事を得意とする。退社後、ニューヨークに移住。当時、日本ではなかなか手に入らなかったオーガニック商品を日本に届けるベンチャー企業の立ち上げに関わる。帰国後、子宮頸がん検診の啓発活動を手がける一般社団法人の理事を経て現職。一児の母。

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