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2020.02.27

コロナ感染拡大防止の備えが不十分と言える訳|今は下火だがインフルの脅威も看過できない

東洋経済オンライン

感染症の治療の基本は「早期診断、早期治療」が医学界の常識だ(写真:kazoka30/iStock)

参照元:https://toyokeizai.net/articles/-/333122?utm_source=deschl&utm_medium=http&utm_campaign=link_back&utm_content=article

感染症の治療の基本は「早期診断、早期治療」が医学界の常識だ(写真:kazoka30/iStock)

新型コロナウイルスの感染拡大が続いている。2月24日、政府は基本方針をとりまとめた。軽症者は原則として自宅待機となり、症状が変化した段階で相談センター、あるいはかかりつけ医に相談することとなった。いきなり医療機関を受診するのではなく、まずは電話での相談が勧められた。

相談の目安は、37.5度以上の発熱が4日(高齢者や持病がある場合は2日)以上続いたり、だるさや息苦しさが強かったりする場合だ。

そして、相談センターや医師が、新型コロナウイルス感染の可能性が高く、受診が必要と判断した場合には医療機関を受診する。患者数の増加に備え、一般医療機関も受け入れが可能になった。その場合には、外来時間や動線などを工夫して、一般患者と感染者が接触しないようにする。

インフルと感冒、臨床的にはまったく区別できない

ただ、私はこれを「机上の空論」だと考える。なぜなら、新型コロナウイルスと感冒は臨床的にはまったく区別できないからだ。クリニックの受診患者の多くは感冒だ。感冒と新型コロナウイルス感染患者の動線を区別することは遠隔診断をしない限り不可能だ。現在、厚労省は遠隔診断を規制している。

新型コロナウイルス感染の診断にはPCR法と呼ばれる遺伝子診断が欠かせないが、日本では「入院を要する肺炎患者の確定診断」の場合に限定されている。厚労省によれば、2月25日現在、PCRの実施数は国内事例1017人、チャーター便829人だけだ。同日現在、韓国では4万0304件が実施されている。

政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の副座長を務める尾身茂氏は「国内で感染が進行している現在、感染症を予防する政策の観点からは、全ての人にPCR検査をすることは、このウイルスの対策として有効ではありません。また、すでに産官学が懸命に努力していますが、設備や人員の制約のため、すべての人にPCR検査をすることはできません。急激な感染拡大に備え、限られたPCR検査の資源を、重症化のおそれがある方の検査のために集中させる必要があると考えます」と説明している。

この説明は苦しいと思う。韓国にできて、日本にできない理由は考えにくい。さらに、アメリカは国内で流行が始まる前の2月25日に、米疾病対策予防センター(CDC)が開発した遺伝子診断キットを、全米の検査所で使用できるようにするため「緊急使用認可」としたと発表している。

尾身氏は元医系技官。さまざまな事情を抱えておられるのだろう。この点は外部サイトとなるが、Japan In-Deptの『遺伝子検査行う体制作り急げ』(2020年2月25日配信)で詳しく解説した。

無症状や軽症の人が病院に殺到すると重症患者の対応が遅れるという事情もあるかもしれないが、感染症の治療の基本が「早期診断、早期治療」であることは医学界の常識だ。

新型コロナウイルス感染は遺伝子検査をしなければ診断できない。診断しなければ、有望な抗ウイルス剤も投与できない。

中国疾病対策センター(CDC)の報告によれば、全体の致死率は2.3%で、10代から40代が0.2%から0.4%なのに対し、80代以上では14.8%と跳ね上がる。

高齢者のリスクは大きい

若年者は感染しても自然治癒する人が大半ということになるが、高齢者はかなりの方に命を落とすリスクがある。クルーズ船の乗客も既に4名が亡くなっている。彼らを救うには、早期診断・早期治療が必要だ。厚労省のやり方はいただけない。

もう1つ問題なのは、彼らがインフルエンザの存在を忘れていることだ。インフルエンザと新型コロナウイルス感染は臨床像からは区別できない。

日本では毎年1万人程度がインフルエンザで命を落とす。ただ、早期に診断すれば、タミフルやゾフルーザなどのインフルエンザ治療薬を投与できる。発熱の持続を1日程度短くするだけだが、体力の低下した高齢者には、その1日が大きい。今回の厚労省の指針は、インフルエンザの死者を増やす可能性がある。

幸い、今年インフルエンザは流行していない。昨年末までは流行していたが、今年に入り、一気に下火となった。暖冬は昨年から続いており、それだけでは説明できない。

私は新型コロナウイルスとの関連の可能性も考慮したほうが良いと考えている。昨年12月中旬の段階で、武漢では新型コロナウイルスがヒト-ヒト感染していることが判明しており、日本にも流入していたはずだ。

インフルエンザA型と風邪ウイルスは、しばしば競合する。昨年12月にはフロリダ大学の研究者たちが、『米科学アカデミー紀要(PNAS)』にインフルエンザA型と、風邪ウイルスであるライノウイルスは相容れないと発表した。何れかが優勢になると、片方がなりをひそめる。通常はインフルエンザA型がライノウイルスを駆逐する。同様のことが、インフルエンザA型と風邪ウイルスのRSウイルスでも生じる事が知られている。

武漢では12月中旬から新型コロナウイルスのヒト-ヒト感染が起こっていたことがわかっている。日本では1月13日の週がインフルエンザのピークで、減少に転じている。例年より数週早い。新型コロナウイルスとインフルエンザA型が競合関係にあったのか検証が必要だ。

今年は欧米でのインフルエンザの流行状況も異様だった。2月15日の米疾病対策センター(CDC)の報告によれば、今シーズンのインフルエンザの推定感染者数は約2900万人で、入院した患者が28万人。死者は1万6000人だ。これは、近年では2017~2018年、2014~2015年につぐペースだ。

インフルエンザにはA型とB型という2つのタイプが存在する。例年、A型が約75%を占め、残りがB型だ。A型の流行期は通常12月から3月で、B型は2月から春先まで続く。

A型はヒト以外にトリやブタなど多くの動物に感染し、短期間で性質を変えるため、流行するタイプは季節毎に異なり、時に大流行を起こす。

一方、B型は山形系とビクトリア系の2系統で、A型のような沢山の亜型はない。ヒト以外にはアシカに感染し、ウイルスは変化しにくく、大流行は稀だ。

今シーズンはB型インフルが多い

今シーズンの特徴はB型が多いことだ。約30年ぶりにビクトリア系が早い時期から流行し始めた。当初、全体の60%をB型が占めた。最近になってA型が増加し、B型とほぼ同数になったが、例年よりB型が多いことは変わらない。なぜ、B型が多いか、その理由はわからない。

アメリカ在住の内科医である大西睦子氏は「理由の如何に関わらず、B型の流行はアメリカ社会に深刻な影響をもたらします」という。

それは子どもに被害を与えることだ。彼女は1月25日現在、12の州の学校区で学級閉鎖が実施されていることに注目する。

アメリカで学級閉鎖が決断されるのは、生徒の10~20%が感染した場合だ。日本の5%より学級閉鎖の閾値は高い。

この状況は1992~1993年のB型が流行したときと同じだ。この時も大人より子どもに被害を与えた。

その理由については、いくつかの可能性が報告されているが、B型はA型と比べて変異が生じにくいため、高齢者は以前の感染により免疫を維持していることが影響しているとされている。

実は、この傾向はアメリカだけではない。欧州も同様だ。今シーズンの感染者数は2018~2019年と変わらないが、B型が多い。2月10~16日に診断されたインフルエンザの31%がB型だ。ちなみに2018~2019年シーズンの同時期のB型の割合は0.8%だ。

ちなみに、その前年度にあたる2017~2018年のシーズンは60%がB型だった。従来から、インフルエンザの感染予測は難しいとされてきたが、近年、その傾向は強まったようだ。もちろん、これはグローバル化の影響だろう。人の移動に伴い、感染症も移動する。

今後、世界が注目する感染症は新型コロナウイルスとインフルエンザだ。

B型インフルエンザにも注意

新型コロナウイルスが世界的な大流行であるパンデミックとなる可能性は高まっている。その際、アメリカや欧州で流行しているB型インフルエンザがどうなるか、誰も予想ができない。競合関係になるのか、あるいは重複感染がおこるのかわからない。後者の場合、被害は重大になる可能性が高い。日本では毎年春先にB型が流行する。今年はどうなるだろう。


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このまま無事に開催できるかどうか不透明になってきているが、今夏は東京五輪が開催予定だ。全世界から多くの選手や観客が東京にやってくる。南半球からも大勢の人が来るだろう。その頃、南半球は冬だ。新型コロナウイルスがパンデミックとなっていれば、流行している可能性が高いし、インフルエンザの最盛期だ。彼らの流入が、日本にどんな影響を与えるか予想がつかない。

安倍首相は、今後、数週間が新型コロナウイルス対策のヤマ場との見解を表明した。一方、私の考えは逆だ。おそらく長期戦になるだろう。全世界から感染情報を収集し、グローバルな視点に立った対策が必要である。

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上 昌広:医療ガバナンス研究所理事長

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