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2019.12.06

小児がん患者「感染症かかりやすい」切実な悩み|予防接種で得た免疫力が治療過程で低下・消失

東洋経済オンライン

小児がん患者が感染症にかかると重症化しやすい(写真:spukkato/PIXTA)

参照元:https://toyokeizai.net/articles/-/316321?utm_source=deschl&utm_medium=http&utm_campaign=link_back&utm_content=article

小児がん患者が感染症にかかると重症化しやすい(写真:spukkato/PIXTA)

宮本潤子さん(仮名)の息子である隆行さん(仮名)は急性白血病を患い、抗がん剤治療を受けた。

白血病とは血液をつくる過程の未熟な骨髄芽球に何らかの遺伝子異常が起こり、がん化した細胞(白血病細胞)が無制限に増殖することで発症する。大きく分けて急性と慢性に分かれる病気だ。

隆行さんは一連の治療を経て、幸い白血病そのものは寛解となった。寛解とは症状や検査結果でがん細胞の存在を確認できなくなった状態だ。体内にはがん細胞が残っており、治療を継続しなければ再発するため、完全に治ったワケではないが、かなり落ち着いた状態といえる。

ところが問題が生じた。昨年10月、隆行さんは水痘(水ぼうそう)にかかってしまったのだ。

既往症の治療歴によっては、死に至る可能性もある水痘

水痘ワクチンは、2014年10月から法定接種に加えられ、費用は公費で助成されるようになった。1歳になったらすぐに1回目を接種し、最低3カ月以上を空けて2回目を打つ。

隆行さんも予防接種は打っていたのだが、水痘にかかってしまった。原因は予防接種によって得られた水痘ウイルスへの免疫が、急性白血病の治療において投与した抗がん剤の影響によって消失してしまっていたからだ。

健常児の場合、水痘を発症しても軽症で済むことが多い。感染者と接触したあと、2週間程度の潜伏期間を経て、発熱や全身倦怠感などの症状とともに、全身に3~5ミリ程度の丘疹が生じる。その後、丘疹は水疱へと変化し、やがて膿がたまり(膿疱)、最終的にはかさぶた(痂皮)となって治癒する。

余談だが、水痘ウイルスはその後も体内から除去されることはなく、神経節に潜伏する。加齢に伴い免疫が低下すると、神経節に沿って増殖し、水疱を生じる。長期間にわたり神経に沿った痛みを残すことで有名な帯状疱疹である。

話を戻そう。水痘は一部で重症化する。抗がん剤治療を受けた白血病の小児や、ステロイドホルモンを長期間にわたり投与されているネフローゼの小児では、肺炎や脳脊髄膜炎を起こし、時に致死的になる。

隆行さんは適切な治療によって、幸い後遺症なく治癒したが、これは運がよかっただけだ。肺炎や脳脊髄膜炎を起こしていてもおかしくはなかった。

がん治療、とくに抗がん剤を投与された小児患者は、免疫がリセットされてしまっており、水痘など多くの感染症にかかりやすくなっている。ところが、保護者はもちろん、医師までもが予防接種の追加の必要性を認識していない。

とくに経済面で恵まれない家庭の子どもにも接種できるようにするには予算措置が必要だが、議論されることはほとんどない。国立がん研究センターの推計によれば、わが国で小児(0~14歳)のがん発症数は年間に約2100例、15~19歳を含めて約3000例だ。さまざまなワクチンの再接種の総費用を1人当たり20万円としても年間費用は6億円となる。

アメリカの場合、疾病予防管理センター(CDC)が、12種類の病原体に対して、9つのワクチンを推奨している。

グローバル化の加速で感染症対策は喫緊の課題だが…

今年はインフルエンザの流行が例年より早く始まったことは示唆に富む。ラグビーワールドカップを観戦するため、流行地の南半球から多くの人がやってきたからだ。

流行はインフルエンザに限らない。近年、わが国では麻疹(はしか)や風疹の流行が続いている。これはグローバル化の加速により、東南アジアなどの蔓延地域との行き来が拡大しているからだ。小児がん患者は危機にさらされている。

海に囲まれた島国のせいだろうか、がん経験者の免疫状態について日本人を対象とした研究は少ないが、海外からは多くの研究が報告されている。ドイツの医師は27%、19%、17%のがん経験者で麻疹、風疹、水痘の免疫がなかったという。

麻疹はとくに危険で、免疫抑制状態の人がかかった場合、脳炎や肺炎で死亡することが少なくない。空気感染するため、伝染力は強い。小児科病棟などに入り込むと、多くの患者が犠牲となる。

問題は、これだけではない。サウジアラビアの研究者は、47%、62%、17%のがん経験者がジフテリア、破傷風、ポリオの免疫がなかったと報告している。これは幼児期に接種される3種混合ワクチンがカバーする病原体だ。がん治療で免疫が消失してしまったことになる。

大量の抗がん剤を用いる自家骨髄移植を受けた患者に限定すれば、87%の患者で百日咳の免疫を持たなかったという報告もある。

いずれの感染症もがん経験者がかかると重篤化しやすいが、わが国では、再接種をしようという動きはない。

インフルエンザワクチンは毎年、破傷風・ジフテリア・百日咳ワクチンは、3種混合で1回、10年ごとに百日咳・ジフテリアを追加、帯状疱疹ワクチンは医師と相談してという感じだ。接種費用は公費で賄われるか、加入する保険会社が全額負担することが法律で義務づけられている。

グローバル化が加速する世界で、感染症対策は喫緊の課題だ。来年は東京五輪が開催され、多くの外国人がやってくる。その中には伝染病が蔓延する地域の人もいる。厚労省にはワクチン接種体制の強化を望みたいところだが、がんを経験したお子さんをもつ人に、厚労省の動きを待っている余裕はなさそうだ。

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上 昌広:医療ガバナンス研究所理事長

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