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2019.11.14

夫を電車に乗せて消えた妻が抱えていた「症状」|その日はあまりに突然やってきた

東洋経済オンライン

誰にでも訪れる更年期ですが、時期や表れる症状には個人差があります(写真:nonpi/PIXTA)

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誰にでも訪れる更年期ですが、時期や表れる症状には個人差があります(写真:nonpi/PIXTA)

私が勤めるクリニックには「女性更年期外来」があり、40代から50代を中心に、心身にさまざまな不調を抱える多くの女性が受診されています。女性更年期外来を訪れる患者さんたちが最もよく口にするのが、「このつらさを誰もわかってくれない」という言葉です。その言葉からは、「わかってほしい」という切実な思いが伝わってきます。

一方、男性からは、「更年期の妻とどう接したらいいのかわからない」という声がよく聞かれます。突然キレて怒り出したかと思えば、激しく泣き出す。「ヒステリーを起こしている間は、黙ってやり過ごすしかない。でも、黙っていても文句を言われるし、更年期っていうのは本当に厄介ですね」。そんなふうにおっしゃる男性もいます。

電車で別れたまま戻ってこなかった妻

50代の男性Aさんの場合は、妻の更年期の言動に悩むことはなかったものの、ある日突然、何の前触れもなく、妻との別れの日を迎えました。Aさんによれば、ある休日に妻と買い物に行き、帰りの混雑した駅で急行に飛び乗った際、妻が乗り遅れてしまいました。当然、後から追いかけてくれるものと思い、Aさんはそのまま自宅に戻り、妻が帰ってくるのを待っていたのですが、妻が戻ってくることはありませんでした。

Aさんはいわゆる亭主関白で、若い頃から家事も育児も専業主婦の妻任せ。しかも、浮気もしていました。Aさんは妻にはバレていないと思っていたそうですが、妻は気づいていたんですね。いつか家を出るときのために少しずつお金を貯めて準備をし、ついに「家出」を決行したのでした。

妻は更年期を迎えて心身の不調を感じることがあったようですが、Aさんに頼ることはとっくに諦めていたのでしょう。Aさんからしてみれば、とくに不仲だったわけでもなく、不自由することなく生活もできていて、どうして妻が家を出ることになったのか、理解できなかったかもしれません。でも、このように、更年期までに少しずつ積み重なった不協和が、熟年別居や離婚につながるケースは決して少なくないのです。

患者さんや男性たちの声に耳を傾けていると、女性と男性の間には、更年期に対する意識や心構えに隔たりがあり、それがコミュニケーションにも影響していると感じます。まずは、更年期とはどういうものなのか、心や体にどんな変化が表れるのかを正しく知っておくだけでも、悩みや不安が軽くなり、コミュニケーションのすれ違いも減ってくると思います。

更年期は誰にでも訪れるものですが、その時期や表れる症状には個人差があります。そもそも、更年期に対する解釈も、人それぞれ違っていることが多いものです。例えば、更年期は閉経後にやってくるものだと思っている方もいれば、閉経すれば終わるものだと思っている方もいます。これはどちらも正しく、どちらも間違っているといえるくらい、人によって更年期の症状は異なります。

更年期に表れる症状とは

一般的には、40歳ころから女性ホルモンの分泌量が低下していき、それに伴って月経周期が乱れ、やがて閉経を迎えます。そのタイミングは、月経がない状態が1年以上続いたときに、最後の月経の時期を振り返って閉経と考えます。平均的な閉経年齢は50歳。その前後5年くらいずつ、つまり、40代半ばから50代半ばにかけての時期を更年期と呼びます。

更年期に表れる症状は、ホットフラッシュと呼ばれるほてりや発汗、疲労感や倦怠感、目まいや耳鳴り、肩こりや腰痛、関節痛といった身体的なものから、気分の落ち込み、不安感やイライラ感、不眠といった精神的なものまでさまざまです。

それに加えて、更年期は女性の人生の中でも複数の役割をもつ時期とも重なります。仕事をしていれば部下や後輩の指導を任されたり、責任のある役職に就いたり。子どもがいれば受験や就職、結婚といったイベントがあったり、親の介護の問題が出てきたり。そうした心身にかかる負担が、更年期の症状に拍車をかけていることも多々あります。

女性更年期外来で患者さんのつらい症状や悩みを聞いていると、感情が高まって、泣き出してしまう方もいます。医師である私は冷静に対処できますが、男性がパートナーに感情をぶつけられたり、泣き出されたりしたら、うろたえてしまうのも無理はありません。

男性はもともと感情的に話されるのが苦手なので、女性に感情をぶつけられると、「キレられた」「ヒステリーを起こされた」などと感じて引いてしまったり、黙り込んでしまったりします。そして、パートナーに対して腫れ物に触るような接し方をしたり、「お前も更年期か?」といった不用意な言葉をかけたりして、悪気もなく女性の感情を逆なでしてしまうことがあります。

女性は冷静に話そうとしても感情のコントロールがきかず、「このつらさをわかってほしい」という思いがうまく伝わらないもどかしさから、泣き出してしまったり、怒りを爆発させてしまったりする。でも、あとから自己嫌悪に陥って、ますます落ち込んでしまうという女性も多くいます。

40代後半の女性Bさんの場合は、更年期特有の体のだるさやイライラ感といった症状がありました。でも、当時はそれが更年期によるものだとはわからずに、夫に「体がつらくて料理ができない」「寝ていたい」などと訴えたり、イライラして当たってしまったりしていました。それでも夫は何も言わずに、Bさんの希望どおりにしていたので、Bさんは夫が受け入れてくれていると思っていました。

一方、夫はといえば、Bさんのイライラした態度やワガママとも取れる行動は性格の問題だと思っていて、仕方なく付き合っていたといいます。それでも、Bさんに振り回され続けた夫は、やがて耐えられなくなり、別居することになってしまいました。Bさんの心身の不調が更年期によるものだということに、どちらかが気づいて治療ができていたら、別居にまでは至らなかったかもしれません。

更年期による「熟年離婚」を避けるには

AさんやBさんのように、更年期を迎えてから別居や離婚に至るのを避けるためには、お互いに小さな我慢が積み重ならないように、日頃からコミュニケーションをとり、よく話し合うこと。何事も相手にやってもらって当たり前と思わずに、「ありがとう」をこまめに伝えることも大切です。

男性には、更年期の女性は環境の変化が激しい大変な時期を過ごしていること、さまざまな心身の不調を抱えていることを理解して、共感してあげてほしいと思います。パートナーが感情的になっていても冷静に受け止めて、まずは話を聞く。体調がつらそうだったら、できる家事を分担する。

ただ、これは不慣れな人がやると逆効果の場合もあるようです。「この前、夫が家事を手伝ってくれたんですけど、あまりにも手際が悪くて、余計にイライラしちゃいました」とこぼしていた患者さんがいました。家事が苦手な人は外食に出かけたり、家事代行サービスを頼んだりしてもいいでしょう。

気分転換に一緒に映画を観にいったり、スポーツをしたりするのもいいですね。逆に、お互いがそれぞれの自由な時間を持つことも、心の充足につながります。

一方、女性は、自分がどんな症状で困っているのか、パートナーや家族にどんな対応をしてほしいのか、なるべく冷静に伝えられるといいと思います。症状がつらく、日常生活に支障を来すようであれば、更年期障害といって、治療が必要なケースもあります。忙しい女性は体調が悪くても、自分のことを後回しにしがちですが、我慢したり悩んだりしているよりも早めに受診したほうが、心身ともにラクになれます。

受診の際は、婦人科でも対応はできると思いますが、できれば更年期の専門外来をお勧めします。当クリニックの女性更年期外来には、地方からの患者さんも多く受診されています。その中には、地元の婦人科を受診したところ、「そういう年なんだから、仕方がないよ」とけんもほろろに言われた人や、何の検査もすることなく、いきなりホルモン剤を処方されて不安になったという人もいます。

深刻な場合は専門医に受診を

更年期の専門外来では、問診や必要な検査をしたうえで、その人の症状や体質に合った治療法を選択します。例えば、不足している女性ホルモンを補うホルモン補充療法をはじめ、胎盤から抽出された有効成分を用いるプラセンタ療法、漢方薬やサプリメント、ハーブといった選択肢もあります。治療はもちろんですが、受診してつらい症状を話しただけで、不安が軽減したという人もいます。

更年期の症状は、一生続くわけではありません。閉経から4~5年ほど経つと、落ち着いてくる人が多いようです。ただ、そのころになってくると、骨粗しょう症や高脂血症といった病気のリスクも高まってくるので、定期的に受診しておくといいでしょう。

更年期の症状は男性にもありますが、もともとの男性ホルモン値の個人差が大きく、男性の場合は閉経といったイベントがあるわけではないので、女性のように誰しも経験するものではないようです。

それでも、更年期は女性にとっても男性にとっても、今の自分やパートナー、家族との関係を見つめ直すのにいい機会です。この時期に互いを思いやり、気遣いのあるコミュニケーションが取れるようになれば、その後の人生も前向きに過ごしていけるはずです。心身の不調や不安は一人で抱え込まずに、パートナーや家族、専門家の助けを借りながら、上手に乗り切ってほしいと思います。

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浜中 聡子:Dクリニック東京 ウィメンズ院長

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