2019.11.13
電子タバコの肺疾患リスク【kencom監修医・最新研究レビュー】
タバコの代替品として見かける電子タバコ。ニコチンが入っていないから無害と思われがちですが、実はそうでもないのだとか。
当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。
2019年のBritish Medical Journal誌に掲載された、電子タバコの吸引と関連した肺疾患の流行についての解説記事です。(※1)
アメリカで今大きな問題となっているもので、日本でも対岸の火事とは言えないものです。
▼石原先生のブログはこちら
電子タバコは有害か?
タバコの代替品として、急速にその利用が広まっているのが、非燃焼・加熱式タバコや電子タバコです。
非燃焼・加熱式タバコというのは、葉タバコを燃焼させる代わりに、加熱して吸引することにより、その煙による害を和らげようという商品で、基本的にはタバコとその性質は同じです。
一方で電子タバコは、タバコに似た匂いのある液体を、専用の器具で蒸気にして吸引するもので、タバコとは基本的に別物です。
その液体には少量のニコチンが含まれている場合とない場合があり、日本ではニコチンを含む商品は認められていません。
非燃焼・加熱式タバコに有害性のあることは、間違いがありませんが、電子タバコにどの程度の有害性があるのかについては、まだ結論が出ていません。
2017年に日本呼吸器学会が発表した見解では、非燃焼・加熱式タバコのみならず、電子タバコも健康に悪影響がもたらされる可能性があり、使用者から拡散するエアロゾルが、周囲に悪影響を与える可能性があるので、飲食店や公共の場所、公共交通機関での使用は認められない、とされています。(※2)
ただ、その根拠がそれほど現時点で明確、という訳ではなく、禁煙治療に一定の有効性があるという報告もあり、それを後押しするような意見もあります。
アメリカでは電子タバコ吸引後に肺疾患の事例も
ところが…直近の2ヶ月間にアメリカの30の州において、電子タバコの吸引後に発症した、450件を超える重篤な肺疾患の事例が報告され、そのうち死亡事例も5件を超えています。
共通する症状は咳や呼吸困難や胸部痛ですが、吐き気や嘔吐、下痢を伴う事例も複数報告されていて、だるさや発熱、体重減少を伴う事例もあります。
こうした状況を踏まえてアメリカのCDC(米国疾病予防管理センター)は、原因がはっきりするまで電子タバコの使用を控えるように警告しています。
アメリカではニコチンを含む電子タバコも流通していますが、報告はニコチンのあるなしに関わらず認められていて、どうやら電子タバコによる肺臓炎などの症状は、ニコチンなどのタバコ特有の成分とは、無関係の現象という可能性が高いのです。
電子タバコの何が病気を引き起こすのか?
それでは危険ではない筈の電子タバコの、一体何が病気の原因となっているのでしょうか?
1つの可能性は電子タバコの吸引器を利用して、大麻由来の成分であるテトラヒドロカンナビノールや、カンナビスオイルを吸引している人がアメリカでは多く、それが影響しているという可能性があります。
もう1つ電子タバコに含まれている可能性のある成分のうち、ビタミンEから得られる油であるビタミンEアセテートが、吸引することにより有毒な影響を肺組織に与えるのではないか、という仮説があります。
ただ、これもまだ実証されたものではありません。
電子タバコの使用は慎重に
いずれにしても、電子タバコによる肺障害は日本においても起きる可能性は否定出来ず、その使用はアメリカと同じように、現時点では慎重に考えた方が良さそうです。
▼参考文献
<著者/監修医プロフィール>
■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36