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2019.09.16

増加する大人のアトピー。原因と発症・再発防止の手がかりは?

ILACY

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激しいかゆみを伴う「アトピー性皮膚炎」は、多くの場合、生後2~3ヵ月から始まって、小児~学童期に良くなるようです。しかし、一度良くなったはずの皮膚炎が大人になって急に再発したり、大人になるまで軽快することなく、良くなったり悪くなったりを繰り返してずっと症状が続く場合もあり、最近は大人のアトピー性皮膚炎も増えている様子。その原因と適切な対処法は、どのようなものなのでしょうか。

東京ミッドタウン皮膚科形成外科ノアージュの上島朋子院長に、大人のアトピー性皮膚炎について伺いました。

大人のアトピー性皮膚炎の原因とは?

――アトピー性皮膚炎とは、どのような病気なのでしょうか?

アトピー性皮膚炎では、患者様の多くが「アトピー素因」という遺伝的な背景を持っています。アトピー素因とは、例えば、家族にアトピー性皮膚炎やぜんそく、花粉症などのアレルギー疾患にかかった人がいたり、患者さん自身がアレルギー性鼻炎、結膜炎といったアトピー性皮膚炎以外の疾患を持っていたりすること。あるいは、アレルギーの原因となる物質をやっつける役割のあるIgE抗体を作りやすい体質のことです。

そういったアトピー素因のある人が、ある一定の環境の中で過ごした場合に発症する皮膚炎のことを、「アトピー性皮膚炎」といいます。

――アトピー性皮膚炎は、一般的に小児期に多く見られ、成長するにつれて症状がなくなるといわれていますが、大人になって、再びアトピー性皮膚炎に悩まされてしまう要因は何ですか?

例えば、忙しくて規則正しい生活を送ることができなくなったり、引越しをして環境が変わったりしたことでアトピー性皮膚炎が再発したというケースもあります。また、更年期を迎えた女性なら、女性ホルモンの減少が皮膚炎を引き起こす引き金になるなど、タイミングは本当にさまざまで、その人自身が持っているアレルゲン(アレルギーを起こす原因)にたまたま接触する機会があったり、ストレスや季節の変わり目であったりということも考えられます。

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――アトピー素因を持っていない人は、大人になってアトピー性皮膚炎になることはないのでしょうか?

アトピー素因があるかないかは、見た目や家族歴だけでは判断できないことがあります。というのも、アトピー素因にも強さがあって、すごく強い素因を持っている人もいれば、症状が出ないくらい弱い素因であることもあります。

大人のアトピー性皮膚炎は、アトピー素因と皮膚炎を引き起こす悪化因子が影響し合って炎症を引き起こすので、診察しながら悪化因子を探すことがとても大切です。

治療には根気が大切。アトピー性皮膚炎の治療法

――クリニックではどのような診察が行われるのですか?

最初は問診と視診です。アトピー性皮膚炎は、年代によって症状の現れる場所が少しずつ変わっていくのですが、大人の場合は、顔や首、中でも目の周りに出ることが多く、下半身の症状は軽いか、比較的少ないように感じます。

そうしたアトピー性皮膚炎特有の発疹の分布を診るほか、かゆみの程度、皮膚炎の重症度などを総合的に判断し、何が引き金になっているのかを探るための問診や、治りにくい部分の問題点を見つけるため、生活背景についてのお話を伺ったりもします。

次に、血液検査で現状の把握をします。アトピー性皮膚炎の患者様はハウスダウトやダニ、花粉、カビ、食物など複数のアレルゲンに敏感になっていることが多いため、各種アレルギーの検査を行ったり、病勢マーカーを定期的に測定したりして、患者様ご自身も気がつかない体の中の状態を客観的に判断します。

――アトピー性皮膚炎の治療は、どのようなことをするのでしょうか?

アトピー性皮膚炎は、遺伝的要因に加えて、多くの因子が複雑に絡み合った病気で、現在のところ完治させる治療法はありません。しかし、上手にコントロールすれば、快適な生活を送ることができるようになります。

適切なスキンケアに加え、皮膚の炎症に応じたランクのステロイド剤を炎症が落ち着くまで一定期間つけた後、ゆっくり外用量を減らし、過剰な免疫反応を抑えてかゆみや炎症を抑えるプロトピック軟膏などに移行していきます。

一見正常に見える皮膚でも、奥のほうではまだ炎症がくすぶっている場合があるので、自己判断で薬のつけ方を変更したり、中止したりすることのないようにしましょう。つけ薬としてのステロイド剤は、適切に使用すれば全身的な副作用は少なく、安全性が高いことが知られています。また、かゆみを抑える内服薬を、補助的に使うケースもあります。

治療を受ける際は、お医者さんと納得のいくまで相談した上で、始めたらきちんとやるという根気と決心も必要ですよ。

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かゆみを引き起こす原因を探ることが第一

――自分がアトピー素因を持っているかどうかわからない人が、皮膚の乾燥やかゆみに悩まされ、「アトピー性皮膚炎かも?」と思ったときに、何かできる対策はありますか?

何が刺激になって乾燥やかゆみを起こしているのか、探ってみることは大切だと思います。例えば、どういうときに、どこがかゆくなるのか、どれくらいで治まるかを書き留めておく。そうすれば、また同じような症状が出たときに、何が原因かを判別する目安になりますし、病院で診察する際にも手助けになります。

――では、アトピー素因を持っている人が、普段からしておいたほうがいい対策には、どのようなものがあるのでしょうか?

規則正しい生活をすることやストレスを溜めないこと、保湿など適切なスキンケアを行うというのは、心掛けていただきたいことですね。それからもうひとつ、アトピー性皮膚炎だとわかっている人の場合は、「病勢(びょうせい)」といって、目に見えている皮膚の状態とは別に、体の中で起こっている変化を数値として見ることも大切です。

アトピー性皮膚炎を患っている人の中には、皮膚炎自体は良くなっていても、かゆみがとれないという人もいるんです。そのときに病勢のデータを見て、数値が高いものがないか、高いのであれば、なぜ高いのかを探っていく。治療の糸口を見つけるための手がかりのひとつとなりますので、検査を受けたことがない方は、受けてみることをおすすめします。

この記事を監修した人

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上島 朋子 (かみしま ともこ) 医師

医学博士
専門分野:皮膚科

1992年新潟大学医学部卒業
東邦大学医学部大森病院、栃木県立がんセンター、財団法人鎌倉病院皮膚科部長を経て2016年より東京ミッドタウン皮膚科形成外科ノアージュ勤務、神奈川美容外科クリニックでは10年間非常勤医師として勤務、2018年5月よりノアージュ院長に就任。病理学の研究を経て皮膚科医になった経歴から、「肌」という繊細な臓器をしっかりと見つめ治療・施術を提供することをモットーとする。「肌の健やかな美しさ」にこだわり、疾患の治療から先端美容医療、そして再生医療の研究まで手がける。

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