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2019.07.09

「男の甲斐性」で家計を支えるのは無理すぎる|「夫婦4.0」で男性も女性も"自由"になれる

東洋経済オンライン

夫婦の役割や働き方は、変化すべき時代になっています(写真左より、リクルートワークス主任研究員の大嶋寧子さん、ジャーナリストの中野円佳さん)

参照元:https://toyokeizai.net/articles/-/290805?utm_source=deschl&utm_medium=http&utm_campaign=link_back&utm_content=article

夫婦の役割や働き方は、変化すべき時代になっています(写真左より、リクルートワークス主任研究員の大嶋寧子さん、ジャーナリストの中野円佳さん)

東洋経済オンラインでの連載「育休世代VS.専業主婦前提社会」に大幅加筆した書籍、『なぜ共働きも専業もしんどいのか~主婦がいないと回らない構造』が6月15日に発刊された。これに合わせて、本著の中で書籍や論文の引用をさせてもらった有識者らにインタビューをすることに。

前回記事に続く今回は、著書に『不安家族』などがあるリクルートワークス主任研究員の大嶋寧子さんに、夫婦の役割分担などについて聞いた。

「男の甲斐性指数」が1を超えてきた理由

中野:大嶋さんは共著著『30代の働く地図』の中で、夫が仕事に専念し、妻が家族のケア(世話)を一手に担う夫婦の形を「夫婦役割1.0」、夫はますます仕事、妻は仕事と家事・育児……というふうに双方が仕事の比重を高めた時期を「夫婦役割2.0」と呼んでいます。

その後、日本の世帯は「夫婦役割3.0」、つまり「夫も妻も仕事と家族のケアを担う」ではなく、衣食住や娯楽への支出を削りながら生活を守るという、もう1つの戦略を選んだという指摘が非常に興味深かったです。

大嶋:経済学者の居神浩先生が考え出された世帯主収入・家計充足率、通称「男の甲斐性指数」という指数があります。これは、男性の収入で家計の支出を賄われているかどうかを示した指数なのですが、1960年代後半ごろにこれが1を超えているんですね。つまり平均的にみれば、この頃の日本で男性の稼ぎで家族を養う条件が整った。


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それが近年ではどうなっているかを調べたところ、1990年代後半から男性の収入は減っているはずなのに、やはり1を超えている。なぜかというと、支出を抑えているんです。日本の世帯は、そうやって男性1人で家族を養う形をキープしてきました。

中野:女性の再就職先が限られたり、賃金が抑えられたりしていることも要因ですね。そのときどきの役割に適した働き方を選択し続けていく夫婦役割4.0を「レゴ型」と表現していますが、どうしてレゴなのでしょうか。

大嶋:女性はここ、男性はここ、と当てはめる場所が決まっているパズルのような夫婦の役割分担が、より立体的で、かつ自由度が高いものになっていく。それで「レゴ」を思い浮かべました。パズルはどこにどれを置くのか予め決まっていて自分で選ばなくてもいい、考えなくてもいいという側面があった分自由度は低かった。これからは色とりどりの役割をそのときそのときの必要に応じて、夫婦で自由に組み合わせていくことができるといいと思います。

中野:夫婦4.0を実現するためには何が変わる必要がありますか?

大嶋:いきなり4.0のレゴ型にというのは難しいので、まずは3.0(夫も妻も仕事と家族のケアを担う)に進んでみるというのが夫婦の選択肢として有力だと思います。例えば、妻が1つ先の仕事にチャレンジできるよう、夫が週に1~2日は早く帰宅し、子どもの世話をする日を作ってみるとか。

妻が本格的に働いてみると、何が起こるかと言うと、男性が自由になるんです。引退を早めてもいいかなとか、起業しようか、転職をしようかと、考えられるようになる。それを実感してもらいたいです。私の分析でも、妻が安定した雇用に就くと、夫が転職の希望を持ちやすくなるという結果が出ています。

中野:私の本の中でも、男性の無限定な働き方があるゆえに妻が家事やケアを一手に引き受けないといけなくて、保育や教育もそれを前提にしているということを指摘していますが、逆に妻が働いていないことで、男性が長時間労働や転勤アリの硬直的な働き方から逃れる契機を失っているように見えるケースが見受けられました。男性も逃れられないループに陥っている。

日本は教育費や失業扶助が手薄

大嶋:夫婦で、これから社会がどうなっていくんだろうと一緒に想像したり、100年人生と呼ばれる中で自分らしいライフコースをどう設計していきたいのかをすり合わせることも大事だと思います。子どもに手がかかるのは長い人生の中では意外に一時期なんですよね。その長い人生でどこのタイミングではどういう役割をお互い果たしていくのか、話し合う。

中野:社会が変わるべきと思われる点はありますか?

大嶋:中野さんの著書とも重複しますが、やはり高度経済成長期に形成された前提をもとにした社会保障のままなんですよね。男性は大多数が正社員として企業に雇用されること、そしてその男性の賃金で家族の生活を丸ごと支えられる前提で社会保障が組まれている。

教育費に対する公的サポートは少ないですし、失業したときのセーフティーネットも、欧州では一般に雇用保険からの給付以外に、税財源によって生活困窮を回避する失業扶助があるのに対し、日本は雇用保険から給付されるのみで期間が短いです。雇用されていない人と雇用されている人の社会保障も均等ではないので、やはり柔軟にキャリアをつくりやすいとは言えない仕組みです。

中野:労働市場の流動性が低いとよく言われますが、転職市場の問題というよりは、こうした社会的整備によってリスクを負いにくいから転職・転身のチャレンジがしにくいということですよね。教育や保育にかける公的支出はOECD諸国で最下位クラスです。

大嶋:企業経由で教育費も賄うモデルでしたからね。でもその前提は大きく揺らいでいます。実は1997年から2017年にかけて、勤労者がいる2人以上の世帯では、世帯主の勤め先からの賃金は、月あたり平均で約7万円減っています。これに対して、世帯主の配偶者の女性の月あたり賃金は平均で月8000円しか増えていない。

この間、国は児童手当の大幅な拡充や教育費の軽減などの手を打っていますが、男性の賃金減少に対して女性の賃金上昇力が弱すぎて、国の子育て支援の拡充が焼け石に水になっています。なので、やはりチャレンジする人にやさしい、再就職などがしやすい環境整備と、税金や社会保険の枠組みを女性の賃金上昇につながるように改変していく必要はあると思います。

既婚女性の6割は非正規雇用者

中野:共働き世帯がとっくに専業主婦世帯を追い越している、とは言っても、雇用されている既婚女性のうち、6割に当たる845万人が非正規雇用者で、正規雇用者は4割弱。正社員の場合でも総合職に比べて昇進や昇給が限られる一般職が多く、数少ない総合職もハラスメントを受けたり無意識の偏見などで管理職になかなかなっていかない。女性の賃金が上がらない理由は何重にもなっています。

大嶋:正規・非正規の賃金格差については、有期雇用からの無期転換に関わるルールが定められたり、同じ企業での同一労働同一賃金が進められたりはしていますね。そのうえで、有期雇用から無期雇用に転換した後に、きちんと組織の中でルートを上っていけるようなキャリアパスや処遇が必要だと思います。

そして正規・非正規格差以上に男女の格差を見ると、ここにはやはり家庭内の役割のジェンダー差が解決されないとどうしても働く時間に差ができてしまうので、解決されません。

中野:それこそ“専業主婦前提社会”が成り立っていたときは、あくまでも正社員の夫が家計を支えているから、非正規はその妻や学生が家計補助やおこづかい稼ぎ程度の目的で働いているものとされていた。ですが今は非正規共働きや、独身で非正規で生計を立てる人たちも増えているわけですよね。

「夫婦4.0」を提唱していくと、結婚していない世帯が対象から抜け落ちてしまう側面があると思いますが、そういった多様なあり方への配慮はどうあるべきでしょうか。

大嶋:今の社会保障の仕組みは、いわゆる標準的な家族とは異なる形態のシングル家庭などへの支援も手薄です。海外には実質的な夫婦やひとり親への支援、養育費の支払いが確実に行われるための仕組みを作っている国もあります。

また、先ほど妻が安定的に働くことで、夫は自由にキャリアを描きやすくなるという話をしましたが、お互いにサポートし合える関係を持たない人が、どうしたら柔軟に次のキャリアを描けるようになるのかも考える必要があります。そして、レゴ型の夫婦の役割を進めると同時に、配偶者を持たない人へのサポートも必要だと思います。

中野:男女ともに共働きであれ独身であれ、柔軟な働き方ができる社会に向けて、企業側がすべきことはありますか?

大嶋:働き方改革は、絶対に必要です。70歳、75歳まで働くようになれば、キャリアの途中で育児だけでなく、介護、自分や家族の病気、学び直しの必要に遭遇する可能性が高まります。そのときそのときに必要な役割を担える働き方を求める人は、男女問わずもっと増えていくでしょう。

ただ、リクルートワークス研究所の同僚である孫亜文さんの研究ですが、男性は労働時間が短くなっても家事時間はそう簡単に増えないというものがあります。つまり家庭内のジェンダー平等を進めようとしたとき、働き方改革は必要条件だけれど、十分条件ではないんですね。

結局家庭での役割が女性に偏る構造が変わらないと、職場でも責任のある仕事を任せるかどうかで差が出てきてしまったり、女性が再就職をする際に過去の経験を生かせなかったりして、女性の賃金がきちんと上がっていかない状況は変えにくいですよね。

男性育休問題は、男性の問題にしないほうがいい

中野:そうするとやはり働き方改革だけではなく家庭内の家事分担が重要ということですが、やはり男性が家事育児を担うと風当たりがきつい、というのもまた企業の職場の空気ではありますよね。つい最近も男性が育休を取った後に転勤があって辞めることにしたというケースが話題になりました。男性育休については大嶋さんはずっと発信されていますが、最近の動きや義務化の話題についてはどうお考えですか。

大嶋:男性育休は男性の問題にしないほうがいいと思っています。「男性(個人)が取りたいなら取らせてあげよう」では、男性育休に関わる問題やそれによって実現するはずのことが矮小化されてしまう。


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この問題は、背景に、社会に必要なことがすべて横たわっているんです。男性が育休をとるということで、男性が育児をすることが当たり前になる。そうすると女性も外でも働く、家計収入があがる、上昇婚にこだわらなくてもよくなる、子どもを持ちやすくなるといった循環がうまれます。

少子化に関わる問題であり、企業にとっても若手の人手が足りなくなる中で人を確保すること、家計にとっても不安定化している収入を安定させ、病気やケガなども含めた荒波を乗り越えていく手段にもつながっていくはずです。

義務化については、企業によっても状況は異なるので、女性活躍推進法で企業が数値目標を設定し状況を開示したように、男性の次世代育成にまつわる指標も現状と目標、結果を開示するのがいいと思っています。

(後編に続く)

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中野 円佳:ジャーナリスト

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