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2019.07.28

機能性胃腸障害の症状かも?原因不明の胃の不快感が続く理由

ILACY

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「少ししか食べていなくても、すぐ満腹になってしまう」「食事の内容に関係なく、食べると胃もたれがする」「胃痛が続く」といった胃の不快感や違和感があるのに、内視鏡などで検査をしてもはっきりとした異常が見つからない――それは、もしかしたら「機能性胃腸障害」かもしれません。

生活の質を大きく損なう機能性胃腸障害は、適切な投薬と生活習慣の見直しで大幅な改善が見込める病気です。機能性胃腸障害の原因や治療法、受診時の注意について、東京ミッドタウンクリニックの消化器内科医師・古川真依子先生に伺いました。

検査をしても異常なし...なぜ胃がツライ?

――機能性胃腸障害は、検査をしても異常が見つからない胃の不調の総称と考えていいでしょうか。

採血や内視鏡検査をしても胃潰瘍など明確な病気が見つからないのに、胃の調子が悪い状態が続いている場合は、機能性胃腸障害の可能性があります。

機能性胃腸障害は、ここ数年で一般化した概念です。以前は精神的なものだとして「気のせい」で終わってしまったり、「慢性胃炎」という病名で一括りにされたりすることがほとんどで、患者さんの多くは生活の質の低下に悩みながらも不調と付き合い続けていくしかありませんでした。

現在のように正式な診断名がついてからは、症状に合ったお薬を処方し、改善を図ることができるようになっています。

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――患者さんは、具体的にはどのような症状を訴えて来られるのでしょう。

患者さんの主訴は、「食事に関係するもの」と「食事に関係しないもの」の2つのタイプに大別されます。食事に関係するものは、「食べるとすぐにお腹が膨れてしまう」という満腹感や、食事をした後の胃もたれですね。

食事に関係しないものは、みぞおち周辺の痛みです。胃酸の影響でキリキリしたり、とにかく重い感じがしたりと痛みの感じ方は人によって異なりますが、食事をとったかどうかにかかわらず、あらゆる状況下で起こるのが特徴です。

――明らかな異常はないのに不調を感じるのは、どうしてなのでしょうか。

理由は3つ考えられます。

1. 胃の運動機能の低下

まずは、胃の運動機能の低下です。正常な胃は、食べ物を溜めて胃酸で消化してからぜんどう運動で十二指腸へと送りますが、胃の動きが鈍くなると溜め込む力や送り出す力が弱まり、満腹感やもたれを引き起こします。これは、胃カメラで見てもわからないので、バリウムなどの造影剤を飲んでいただいて、動きを見て診断することが必要になる場合もあります。

2. 内臓の知覚過敏

もうひとつは、内臓の知覚過敏です。あまり聞きなれない言葉でしょうが、消化器が熱い物や辛い物などの刺激に過敏に反応し、胃痛を感じてしまう状態のことです。

食べてすぐ運動してお腹が痛くなった経験がある人は多いと思いますが、それに似た痛みを感じる場合が多いようですね。

3. 不眠・過労・ストレス

最後は、不眠や過労、ストレスです。肉体的・精神的な負担によって自律神経に乱れが生じると、胃に不快な症状を感じることがあります。

早食い、大食いをしていませんか?

――機能性胃腸障害が疑われる場合、どのような診療の流れになるのでしょうか。

まずは問診で、最近の環境の変化、痛みが起こるタイミング、食事の量や間隔などを細かく伺います。特に生活習慣から得られるヒントは多いですね。

短い時間で一気にキャパシティ以上の食べ物や飲み物を詰め込むと、運動機能がついていかず、急激に胃が膨らんで痛みが生じやすくなります。早食い、大食いは避け、よく噛んで、ゆっくり食べるようにしましょう。

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消化器や内臓の筋肉は四肢の筋肉と同じように年齢を重ねるごとに落ちていくので、加齢が原因で機能が低下している可能性もあります。若いころと同じ量を、同じ速さで食べるのはだんだん難しくなっていきますから、年齢に応じた食べ方の工夫も大切です。

また、食べてすぐ横になるのもおすすめできません。食後、間を置かずに横になると胃酸が逆流したり、消化不良を起こしたりしやすいからです。食事をする時間や睡眠時間も、できるだけ規則正しいほうがいいですね。

――機能性胃腸障害と診断された後の治療の流れを教えてください。

治療の基本は、胃の機能を回復するお薬を中心とした薬物治療です。患者さんが訴える症状次第で、そこに胃の働きを活発にするお薬や、胃酸の分泌を抑えるお薬をアレンジしていくのが一般的でしょう。心理的なストレスが強い方はメンタルが専門の先生と連携して治療を進めていくこともありますし、不眠が影響している場合は睡眠導入剤を処方することもあります。

また、女性の場合は、胃痛の裏に便秘によるお腹の張りが隠れていることが少なくありません。こうしたケースは、整腸剤による排便のコントロールで改善を図ります。いずれにせよ、経過に応じて最善のお薬の組み合わせを見極めつつ、要因のひとつである早食いや大食いといった生活習慣を正していくことによって、少しずつお薬の量を減らして通常の生活に戻れるようサポートしていきます。

機能性胃腸障害の自覚症状は人によって異なりますから、、医療機関を受診する際には「どういう症状に、いつごろから悩んでいるのか」をできるだけ具体的に伝えることで、症状の速やかな改善につながります。

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――胃の不調に悩んでいる方に、アドバイスをお願いします。

「胃が痛い」「重い」といった症状があったら、速やかに医療機関を受診し、重篤な疾患が隠れていないか検査をしましょう。検査の結果、胃潰瘍、胃がんといった疾患や胃粘膜の炎症など、明確な原因が見つからないのに症状が続くときは、一度、機能性胃腸障害を疑ってみることをおすすめします。

症状や生活習慣に関する質問に答えるだけでできるセルフチェックもあるので、心当たりがある人は確認してから、再度医療機関を受診してもいいでしょう。医師に「精神的なストレスによるものでしょう」「胃潰瘍がないから大丈夫ですね」と言われたからといってそこで終わらせてしまうと、つらい症状を抱えたまま生活していかなければならなくなります。

診断がつけばお薬が出て症状の改善につながる可能性があるわけですから、勇気を持って、あきらめずにもう一歩踏み込んでみてください。消化器内科以外の診療科では、「機能性胃腸障害という病気があると聞いたのですが」と伝えてみるのも有効ですよ。

この記事を監修した人

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古川 真依子 (ふるかわ まいこ) 医師

医学博士/日本内科学会 総合内科専門医、日本消化器病学会 消化器病専門医、日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医・指導医、日本消化管学会 胃腸科専門医、日本ヘリコバクター学会 ピロリ菌感染症認定医 、日本カプセル内視鏡学会 カプセル内視鏡認定医
専門分野:消化器内科・内科

2003年東京女子医科大学卒業
東京女子医科大学附属青山病院消化器内科で医療錬士として関連病院等にて診療にあたり、2008年帰局後は助手として指導にも尽力。2013年より東京ミッドタウンクリニック勤務。胃がん・大腸がん・腫瘍など消化器系の疾患だけでなく、便秘や産後の痔など女性ならではの悩みにも詳しい。

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